第40話 クラッシュ症候群

 私はその場の指示を終えると、再び奥の取り残されている患者さんの方へと向かう。


 そこでは、瓦礫の中に挟まれていた20代くらいの女性が騎士団の手によって救出されていた。


「医師のサクラと言います。分かりますかー?」

「はい」


 私の問いかけに彼女はしっかりと返答した。


「どこか痛いところはありますか?」

「いえ、大丈夫です」


 

 意識もはっきりしているし、問題ないだろう。

長時間、瓦礫に挟まれていたようだが、運が良かったのだろう。


「すぐに搬送を。病院で精密検査します」

「了解!」


 女性は担架に乗せられ、運ばれていこうとした。

その時、私は少しの異変を感じ取った。


「ちょっと待って下さい!」


 私は搬送されそうになっている所を引き止めた。


「これは……」


 確認の為に彼女の足を触る。


「今、足を触られて居る感触ありますか?」


 すると彼女は首を横に振った。


「サクラ先生、どうかされたんですか?」


 騎士団の人が私に尋ねる。


「クラッシュ症候群ですね。ここで処置します」


 クラッシュ症候群とは長時間四肢が圧迫されていた状況からなるものだ。


 腎不全や致死性不整脈の原因となるミオグロビン尿や高K血症を生じ易くなりクラッシュ症候群に陥る。


 腕よりも足の圧迫、損傷で発症の可能性が高くなる。


「でも、先程までは比較的元気だったかと」

「それが、クラッシュ症候群の厄介な所なんです」


 救出まで患者は比較的元気であり、圧迫されていた部位の表面上の外傷は派手ではないことから医療者が積極的に疑わないと診断されないことも多いのだ。


「ジン先生にクラッシュ症候群の処置をするから輸液をあるだけ持って来てくださいと伝えて下さい」

「わかりました!」


 騎士が走ってジンの元に向かう。


「この方を医療テントに運びます」

「了解!」


 そう言うと担架は設置されている医療テントへと運ばれていく。


「あの……」


 運ばれて居る時に、彼女は不安そうな眼差しを向けてきた。


「今、長時間圧迫されていた事によってカリウムという物質が大量に出て居る状態です。大丈夫です。必ず助けます」


 そう言うと彼女は少し安心したのか、ゆっくり頷いた。


「ベッドに移します。せーの、1、2、3!」


 ベッドに移して私は処置の準備を進めていく。


「サクラ先生! 輸液持ってきました! 足りますか?」


 ジンが少し息を切らしながら、医療テントにやって来た。


「これだけあれば、十分です」


 恐らく、あるだけかき集めてきてくれたのだろう。


 そこから、大量に輸液を行って彼女は大事には至らなかった。


「何とかなりましたね」

「ジンさんのおかげで助かりました」

「でも、よくクラッシュ症候群がわかりましたね」

「一瞬でしたが、クラッシュ症候群独特の兆候を示したんです」

「それを見落とさないとは流石です」



ーーードーン!!!!ーーー


 その時、大きな音を立てて危惧していた第二の爆発が起こった。

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