第39話 医師の力

 奥のエリアではライムント副団長による指示の元、救助活動が行われていた。


「サクラさん、ここはまだ危険です。安全なところに」

「それは出来ません。まだこの状況で取り残されている人がいるなら、医者の力が必要です」

「ですよね。サクラさんならそう言うと思っていました」


 ライムントさんは半ば諦めたような様子で口にする。


「自分で歩ける人は安全な場所まで誘導してください。それから、医療テントを設置します」

「分かりました」


 すぐに私の指示した通りに動いてくれる。


『拡声』


 私は魔法を展開する。

これは、自分の声を大きく広げてくれる魔法だ。

こういう災害医療の際には役に立つ。


「皆さーん、医師のサクラと言います。ご自身で歩ける方は騎士団の誘導に従ってください。ここには医師も看護師もいますから、安心してください」


 そこまで言うと、私はポケットから通信魔道具を取り出した。

それを病院長と繋ぐ。


「サクラです。人でが足りません。派遣医師、看護師の増員をお願い出来ませんか?」

『分かった。近隣の病院にも要請を出す』


 流石に話がわかる院長だ。

すぐに対応してくれるらしい。


「この爆発の原因は分かっているんですか?」

「可燃性のガスが出ています。それに引火して爆発を起こしたものと思われます」

「なら、第二の爆発が起きるかも知れませんね。救助を急ぎましょう。ここは任せます」


 周囲には自分で歩ける人がほとんどだったので、ある程度の治療を終えると、私はその場をライムントさんに任せた。

そして、重症の患者さんたちがいる方へと戻った。


 そこでは、すでにジンとコームがトリアージを終わらせていた。


「ジンさん、そちらの赤の患者さんの処置を優先させてください」

「分かりました」

「コーム先生はそちらの赤の患者さんの状態を再度チェックお願いします」

「了解!」


 トリアージとは重症度や治療緊急度に応じた傷病者の振り分けを意味する。

最も優先順位が高いのが赤である。

これは、生命を救うために直ちに処置が必要な人をさす。


 そこから、黄色、緑色と優先順位が下がっていく。

そして、最後に黒色だ。

これは、すでに死亡している人、直ちに救命処置を行っても救命不可能な人をさす。


「ここに医療テントを設置します。病床は30確保してください」

「了解しました!」


 すぐさま騎士団の人たちが医療テント設置のための作業に入る。

その設置作業に入る時に、増員の医師や看護師が到着する。


 現場を見てすぐに処置に入ってくれる辺り、さすがはプロであると言える。


 そして、20分後には医療テントが完成され、病床30が確保された。


「さすがはライムント副団長ですね。たった30分で増員に医療テントまで設置してしまうなんて」


 騎士の一人がライムントさんに向かって言った。


「お前も分かるだろ。この現場を引っ張っているのは私では無い。一人の“医者“だよ」


 ライムントさんはサクラの方に視線を向けて口にした。

そこには、尊敬の意が込められていたように感じる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る