第13話 言葉の本質
「そういえば、サクラさんはなんで医師を目指したんですか?」
隣を歩いているライムント副騎士団長が私に尋ねてきた。
一緒に歩くうちに気づいたのだが、ライムントは歩幅を私に合わせてくれている。
こうした気遣いまで出来るのかこの男は。
「私の恩師の言葉が大きいですかね」
「サクラさんの先生ですか?」
「そうです。私に医療を教えてくれた方です」
サクラは医師の資格を取得する為にきちんとした教育を受けてきた。
「師匠はこう言ってました。人を傷つけたことのある者は人を救うことができる」
当時の私はこの言葉の意味がわからなかった。
しかし、今になって考えてみればその本質的意味も理解できる気がする。
「人を傷つけた、ですか」
「ライムントさんもいつか分かると思いますよ。この言葉の本質が」
私はあえてここで答えは出さなかった。
「ライムントさんは人を助けて後悔したことはありますか?」
「いえ、ありません」
「私もです。つまりは、そういうことなんですよ」
そんな話をしているうちに私の研究室の前まで到着した。
「送ってくれてありがとうございました。それでは、また明日に」
「とんでもありません。明日の朝迎えに参ります」
そう言うとその場を離れて行った。
わざわざ迎えにきてくれるというが、あれでもライムントは結構偉い人なんだけどな。
すごくフランクな感じで接してくれるため、たまに忘れそうになってしまう。
「さて、準備しますか」
私は簡単な医療セットを準備しようとしていた。
消毒液にポーション、医療器具、包帯などを用意する。
回復の魔法を使えばどんな傷も治ると思われがちだが、そうでは無いことの方が多い。
傷の状態や呼吸の状態、その他様々なことに気を配らなくてはならない。
だからこそ、回復の魔法の適正があると分かった時に私は医師を志したのである。
「とりあえず、このくらいあれば大丈夫でしょうかね」
ポーションに関しては少し多めに用意しておいた。
用意した医療セットをカバンにまとめる。
これで明日の準備としては問題ないだろう。
私は白衣を脱ぐと椅子にかけた。
「昨日の続きから読みましょう」
読みかけの医学書を手に取ると私はソファーに座った。
知識というのは武器になる。
もちろん、知識だけでは不十分だ。
実践経験を積んでいくことにより自分のスキルアップにつながっていく。
「このままだと、この部屋にあるものはすぐに読み終わってしまいますね」
私の研究室にあるのは、陛下が関連性の高いものから抜粋して置いてくれたらしい。
なので、どうしても偏りが出てしまっている。
「王宮には図書館もありましたね。今度はそこに行ってみましょう」
王宮の図書館ならこの部屋にある本の何百倍という蔵書が存在する。
中には閲覧規制をされている貴重な本や禁忌の魔術を記された本もあるみたいだ。
陛下にいえば閲覧許可がもらえるだろう。
そこから、私は医学と魔術の本を読み漁った。
やはり、新たな知識を吸収するというのは気持ちがいい。
中には被っている内容もあったが、若干違う表現がされているため、自分に合った表現の方で覚えた。
ふと、窓の外を眺めるとすっかり暗くなっていた。
「もう、こんな時間なんですね。明日に備えましょうか」
私は、明日の討伐任務に備えて早めに横になることにした。
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