第12話 後悔と使命

 ヨーナス騎士団長が口にした『赤龍』その名前は、私も聞いた事があった。


「聞いた事はあります」

「赤龍は竜の中でも強い力を持っています。普段は、大人しくしているのですが……」


 そこまで言うと騎士団長は言い淀んだ。


 竜は攻撃力と防御力など全てのステータスに優れている。

その中でも知能を持つ竜もいるという。


「その赤龍が近くの街を一つ吹き飛ばしました」

「えっ……」


 私は思わず息を飲んだ。


「村人の方は大丈夫だったんですか?」

「幸い、全員避難は間に合いました。軽症者や重症を負った方はいましたが、死者は居ませんでした」


 それを聞いて私は少し安心した。

怪我だけで済んだのは不幸中の幸いだっただろう。


「それで、私は何を? 怪我人の治療ですか?」

「いえ、そっちの方は既に終了しています」

「では、私は何を?」


 私は疑問を騎士団長に投げかけた。


「赤龍の討伐命令が出ました。サクラさん、あなたにはその討伐に同行してほしいのです。我々第二騎士団が指揮を取り、近隣のA級以上の冒険者も集まります。しかし、回復の手が足りないし、医師の確保もできていないという状況なのです」


 まず、回復魔法が使える人間が少ない。

母数が少ないともならば、集めるのも一苦労だろう。

その点、私は回復魔法が評価されて宮廷魔術師に任命されたわけだし、医師資格も持っている。


「分かりました。同行しましょう」


 私は了承の答えを出した。

緊急性の高い事案と判断されたからこそ私に話が回ってきたのだろう。


「貴方の事は命に代えてもこのライムントが守りますので」


 騎士団長の隣にいるライムントは言った。


「頼りにしてますね」

「は、はい!」


 私はライムント副騎士団長に微笑みかけてみた。


「急で申し訳ないんだが、明日には討伐に出発する。大丈夫か?」


 騎士団長は私に問いかけてくれた。


「大丈夫です。準備をしておきますね。被害にあった村まではどのくらいかかりますか?」

「ノンストップで飛ばせば半日もあれば到着する距離だ」

「分かりました」


 半日というと王都からさほど遠くない所で赤龍が暴れたのだろう。

このまま放っておくと王都にも被害が出かけないという上層部のです判断なのだろう。


「では、私は準備してきますね」


 そ言うと私はソファーから立ち上がった。 


「送ります」


 私が立つとライムントもすぐに立ち上がった。


「怖くないんですか? 討伐任務に同行する事」


 隣を歩くライムントが言った。


「そうですね。怖くないと言ったら嘘になるかもしれませんね」

「無理しなくてもいいんですよ」

「ライムントさんは医師として1番後悔する事は何だと思いますか?」

「すみません……分かりません」


 ライムントは少し考えた後に答えを出した。


「救えるはずの命が救えなかった事です」


 もっと早く診ていれば、もっと早く処置ができれば。

そうすれば助かった命を私はたくさん知っている。


「目の前に消えかかった命があれば全力で助ける。それが医師としての使命だと思うんです」

「強いんですね、貴方は……」


 隣を歩くライムントは優しい声で言った。


「あ、そういえば命に変えても私を守るって言ってくれましたけど、私は命を粗末にする人は大嫌いですからね!」


 私はイタズラっぽい笑みを浮かべた。

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