第2話 王宮への誘い

 私は屋敷に戻るとお父様の帰りを待った。

お父様は子爵位の貴族なので、領地の統治をしている。


 最近は忙しいらしくいつも帰りは遅くなりがちだった。

そんな中、私はリビングのソファーに座り、ボーっとしながらお父様のことを待っていた。


 窓から見える景色が完全に暗くなった時、屋敷の玄関が開く音が聞こえて来た。


「ただいまー」


 その声と共にマントを脱ぎながらリビングへと入ってきた。


「お帰りなさい」

「ああ。ただいま。まだ起きていたのかサクラ」


 お父様は優しい声で言った。

いつも娘には甘い親バカな一面もある。


 しかし、善人で民からの信頼も厚く、領主として国王陛下からも高く評価されていた。

そのうち陞爵するのではないかと言われている。


「実は、お父様にお伝えしなければならないことがありまして」

「それでこんな時間まで起きていたのか」


 お父様は私の対面のソファーに腰を下ろして言った。


「ウィンとの婚約を解消いたしました。まあ、婚約を破棄されたのですが私はこれでよかったと思っています」

「サクラの決めたことだ。文句は言わない。元々、私もあいつはどこかの幼馴染に夢中だったというじゃないか。私もそれでよかったと思うぞ」


 どうやら、父上にもウィンの噂は耳に入っていたようである。

やはり、娘のこととなると徹底的になるようであった。


「じゃあ、今日はもう遅いので寝なさい」

「分かりました。それでは、おやすみなさい」


 私は立ち上がると、自分の寝室へと向かった。

寝る用の楽な服に着替えると、天蓋付きのベッドに横になった。


「なんか肩の荷が降りた気がしますわね」


 そのままベッドで目を閉じるとやがて意識を手放した。



 ♢



 翌朝、いつも通りの時間帯に目が覚めた。

そのまま、最低限の身だしなみを整えると朝食を取るためにリビングへと降りる。


「おはよう。サクラ」

「おはようございます。お父様」


 今日は仕事は午後からで午前中は休みらしい。


「サクラ、朝食が終わったら話があるんだがいいか?」

「はい。大丈夫ですよ」


 父上が改まって話があるというのは珍しいことである。


 朝食を終え、リビングに置かれたソファーに座り直す。


「実はな、サクラに国王陛下から癒しの魔術師として宮廷魔術師に推薦があったんだ」

「ほ、本当ですか!?」


 宮廷魔術師は国中から優秀な魔法の使い手が選ばれ、国王陛下の推薦でしか入れない。

そこに選ばれるというのはとても名誉なことである。


「一時はウィンとの婚約もあったから断ろうかとも考えたのだが、ちょうどよかったかもしれないな。サクラが行きたいというなら私は止めないぞ」

「ぜひ、行きたいです!」


 私は元々医学を学んできた。

その流れで自分には癒しの魔術の力があるということに気づいたのである。


「分かった。では、そのように返事を出そう」

「ありがとうございます!」


 ウィンから婚約破棄を告げられた時はものすごく腹が立ったが、今は婚約破棄してくれたことに対して、感謝すらしている。

だって、こうして宮廷魔術師になれるチャンスが巡ってきたのだから。



 

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