中学二年生の二人

ここ二年近く、ひかりとずっと一緒にいたはずなのに、急に変な感じになった。文芸サークルのやつに変なことを言われてからだ。

「お前、星野が好きなの」同じサークルの横山がにやつきながら俺に絡んできた。

「は?」

「なんかすげーいい感じなんだけど、実際どうなの。休みも密会しているって聞いたんですけど」

「ちげーよ、密会ってなんだよ」

このゲスなにやにやは好きじゃなかった。そういう風に見えているのか、と思った。いや、中二だし、女子と一緒に入ればそう見えるかもしれない、そんなのがあってもおかしくない。そもそも、俺とひかりは実際どうなのか、ちゃんと考えたことがなかったな、と気づいた。

俺が俺でいられるのはひかりのおかげだった。中学校でそれなりに楽しめているのも、あのとき声をかけてくれたから。今、物語を書くのが好きでいられるのも、ひかりが褒めてくれたから。

これは、好きってことなのか。

ちげーよ。もう一人の俺がつぶやいた。


「ねえ、最近、どうしたの」

土曜日にひかりに会っても、変な感じが続いた。このままじゃまずい、と心の中で思っているけれど、どうしたらいいのかわからなかった。ただ、避けたかった。何かが壊れるのが嫌だった。何かって何?それがわかるなら答えを出しているさ。

「どうしたって?」

「なんかぴりぴりしてない?情緒不安定?反抗期?」

少しおどけるひかりにいらつく。何も気にせず隣に座ってくるひかりからは、甘いシャンプーの香りがする。

「なんでもねえよ」

「ほら、そういうとこ」

そう言って、大きなため息をついた。沈黙が続いた後、ひかりは一冊の本を手渡した。『私の中にある守護者』。少しぶ厚めな本だ。

「これ、うちのお気に入りだから、読んで」


『私の中にある守護者』は海外のファンタジーだった。主人公の勇者が病気で、大切な幼なじみの魔女の女の子から体の一部を移植する手術を受ける。それによって以心伝心のパートナーとなって戦いを進めていく話だ。そのストーリーもファンタジー世界観も引き込まれるが、俺が一番惹かれたのは、勇者も一緒に戦う魔女も、以心伝心のパートナーとして強い絆があるのだけれど、すごくまっすぐなところだ。いやらしさも恥ずかしさも少しもない。恋愛要素もあると思うけど、恋愛という言葉では片づけられない、もっと深い、純粋な関係。俺が求めていたのはこれかもしれない。何も特別なことが書いてあるわけではないと思う。ひかりも、そんなことを考えて渡したわけではないかもしれない。ただ、このタイミングでひかりからこの小説をもらったことは、何か意味がある気がした。


それから少しして、ひかりと横山が付き合っているという話を聞いた。まあ当人がそれを選んだなら、それでいい。自分にそう言い聞かせた。俺は大丈夫だ。普通を装って、何事もなく時間は過ぎていった。

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