喰字鬼って知っているか?

俺が地元の図書館に来たのは、ある都市伝説の記事を書くためだ。

「なあ、喰字鬼しょくじきって知っているか?」

編集長の話は、いつもありもしない都市伝説やオカルト話を取材してこい、というものだ。今回もそうだ。自分でやっていて、本当にくだらないと思うが、それを面白おかしく書くのが俺の今の仕事なんだからどうしようもない。実力のない記者は、こうやって生計を立てていくしかないんだ。

「何ですか、それ」

「この仕事をしているんだから、この手の話にはアンテナを立てておかないとだめだよ。最近ネットで噂になっている都市伝説。文字通り、文字を喰らうもの。」

「文字を食べるんですか」いや、ピンとこない。都市伝説と言えば、口裂け女とか、赤マントとか、怖い話がメインだ。文字を食べる、というのは別に怖くないし、記事のネタとしてどうなのか。

「普通の人間から突然変異的に生まれる、と言われていて、普段は人間と同じように暮らしている。でも、数か月に一度、『喰字期』が来るんだよ。その時期は文字を喰らいたくて喰らいたくて、仕方がなくなるんだそうだ。で、文字を喰われた本はきれいさっぱり、真っ白け、というわけだ」

「っていうか、詳しいですね」

「当然だ。最近ではネット上で、喰字鬼を公表している自称喰字鬼が現れていて、話題となっている」俺はそんな話全く知らない。編集長は本当にリサーチ能力がすごい。

「雑誌社としては、つまらない記事でも買ってもらえればそれでいいですけどね。美味しいのかな?」

「文字を喰らうときは、その意味を理解する余裕すらないらしい。味も感じていないんじゃないか」

「はあ…食欲というか、依存症みたいな感じですか」

「その喰らう様子を実際にはっきりと見た者はいないんだ。だからこそその存在は都市伝説なんだけど、取材する価値はあると思っている」

「それ、俺が書くんですか」

「目撃された情報があるんだよ。君の地元、川崎だったよね?」

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