第40話 共同生活スタート
クローゼットの中もミニマリスト並みに物が少ないから、半分以上もを私のスペースにしてくれた。
清水くんの私服は、モノトーンやベージュ、ブラウンなんかの落ち着いた色味でデザインの凝った服が多いみたい。
気分で着たい服が変わるから数だけは多い私と違って、服に統一感がある。
派手さはないけど、おしゃれさんだわ。
そんな発見をしながら片付けを済ませると、もう夕方五時前だ。そういえば、ごはん作ってほしいみたいなことを言ってたわね。
「清水くん、何か食べたいごはんある?」
「え?! 作ってくれるの?!」
急に子供みたいな笑顔だな。かわいい。
「うん。冷蔵庫にちくわしかないから、買い物に行かないとね。あ、固定費は折半するとして、変動費はどうするの?」
「お金の話になると経理っぽくなるんだね。変動費って?」
「家で言うと……食費とか、日用品費とか、毎月同じじゃなくて変わる費用。お財布的な感じ」
「あー、財布ね。俺が持ちたいとこだけど、俺の稼ぎじゃまともな食生活ふたり分はまかなえないよなあ」
「まとも?」
「俺、金使わないの前提なら毎日ちくわでも満足できるんだけど、せっかく料理好きな人と暮らすなら作ってもらいたいなって今思っちゃってて」
「作っていいなら作るよ。私料理好きだし」
「じゃあ、変動費用の財布を買おうか? そこに同じ金額入れるようにしたら、公平にならないかな?」
「うん、そうね。そうしましょう」
「不公平だと思ったら言ってね、茉悠さん」
「うん、清水くんも」
生活費用の財布なんて何でもいいから、百均で買ってそこにとりあえず今日の分でお互い二千円ずつ入れた。
その財布を持って、百均の隣のスーパーに行く。
この辺りは百均もスーパーも近いし、駅までも十分くらいだし生活しやすそうね。
「変わった調味料とか欲しかったら、イオンまで行かないとないかも」
「変わった調味料なんて使えないから、ここで充分そうだわ」
家に帰ると早速調理に取りかかる。
慣れてないキッチンはどうしても使いにくいわね。そして、ひとり暮らしが長かったから調理中にチョロチョロまとわりつかれるとやりにくいわね。
料理はまるでできないらしいけど、興味はあるのかしら。本当に犬みたい。かわいい。
「もうすぐできるよ。あ、私いつも単品だから副菜の存在を忘れてたわ。スープとかサラダとか欲しい? レタス買ってあるからサラダはレタスを洗ってちぎればすぐにできるけど」
「ちぎるくらいなら俺レタスちぎるよ」
「じゃあ、お願い」
フライパンでハンバーグがジュージュー焼けている。つまようじを刺してみる。よし、大丈夫そうだな。
初日は失敗の少ないハンバーグにした。塩こしょうを入れ過ぎさえしなければ、中までしっかり火が通っているだけでソースをかけるから白米をおいしく食べられる。
「ねえ、レタスって葉っぱだよね。葉っぱ三つくらいあるんだけど。どれがレタスだっけ?」
冷蔵庫の野菜室を開けて清水くんが尋ねてくる。レタスとキャベツと白菜の見分けがつかないなんて、意外だな。
「清水くんって案外しっかり者かと思ったらやっぱり天然だね。これだよ、キャベツ」
「え? レタス使うんじゃなかったの?」
「あ、そうだったわ。キャベツ見たらなぜかキャベツな気がしちゃって」
清水くんがレタスの葉をむしり、洗って食べやすくちぎっていく。
「俺、会社以外で天然なんて言われたことないんだけど。そんなに社会人としては変なのかな?」
「変ではないと思うよ。若手三人衆はすごいってみんな褒めてるし。私が聞いたのはねえ、阿部さんかな。清水くんは恵利原部長がいくら嫌味を言っても笑ってるらしいって聞いて、清水くんは嫌味に気付かない天然なのねって言いふらしてるのを聞いたわ」
「あー、あのおしゃべりおばさんか。阿部さんって、俺の顔見るとかわいいわね~、アメあげる~ってアメくれるんだけど、大阪の人なの?」
「大阪の人ってアメくれるの?」
「十年以上前だけど、テレビで見たよ。ヒョウ柄の服着てアメ持ち歩いてるって」
「コントのネタか何かじゃないの?」
「そうかもしれない。レタスちぎったよ。これどうするの?」
「このお皿に盛り付けてくれる?」
ハンバーグの横に盛り付けてもらう。ハンバーグを焼いたフライパンに適当にソースとケチャップとマヨネーズを入れて混ぜ、軽くフツフツ来たらソースも出来上がりだ。
おいしいと思えるおかずがひとつあれば白ご飯が進むからいいや、と思う私は調味は適当だし栄養バランスなんかにもこだわりがない。
こんなんで料理好きを名乗っちゃいけなかったかもしれないわね。もう言っちゃったけど。
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