第26話 卒アルをじっくり見ていたら
ゆっくりとページをめくる。あ、進学校でもクラスの数は大差ない。8組までだったようね。
学校行事の写真だ。1年林間学習。清水くんは……写ってないわね。
積極的に写真撮ってもらいに行くタイプとも思えないものね。
2年修学旅行。あ……写ってた。
やっぱりあの子が彼女なんだろう、奏さんと向き合って清水くんが恥ずかしそうに笑っている。その周りで3人の男女がカメラに向かって笑顔でピースをしている。甘酸っぱい、青春を感じるいい写真だ。そりゃあ卒アルに使われるわね。
他には……やっぱり写っていない。
更にページをめくると、3年生全員の将来の夢が手書きで並んでいる。人数が多いわね。
清水くんは……「お婿さん」。お婿さん?
女の子でお嫁さんとかお母さんって書いてる子はいるけど、お婿さんは他にはいない。高校生でこんな難しい漢字が書けるなんて、さすが頭が良かったのね。
奏さんは……「書道家」。へえ、運動できそうに見えたけど、意外とインドア派な所があるのかしら?
それなら、背は高くてもヒョロヒョロに痩せてて色白な清水くんとも案外話が合うのかもしれない。
更にページをめくると、ここで個人の顔写真の登場だ。顔写真と共にマイランキングを発表している。
それぞれが自分の好きな物をアピールしているようだ。
好きなアーティストだったり、アニメだったり、ボカロ曲だったり、食べ物だったり、本当に様々。
清水くんの2組を見る。かわいい。アップだとやっぱりあどけないわ。今も童顔な方だけど、中学生と言われても違和感がない。どうして高校生なのにこんなにニキビもなくツルツルのお肌なのかしら。私いまだにできるのに。
清水くんは好きな食べ物ランキング。
3位はナポリタン、2位はオムライス、1位がチキンライス。
へえ、よりケチャップをかけられるオムライスよりも、チキンライスの方が好きなんだ?
自分はチキンライスの方が好きなのに、卵が好きな奏さんに合わせてオムライスを食べてたのかしら。どこまでも優しい子だわ、本当に。
7組のページを開く。
ああ、やっぱり奏さんが彼女で間違いない。
アップで見るとかわいいだけじゃなく、意志の強さと言うか、しっかりした子なんだろうなって分かる。精悍な顔立ちでかっこいい。
奏さんも清水くんと同じく好きな食べ物ランキングだ。
3位はシーザーサラダ、2位がオムライス、1位はゆで卵(半熟)。
温泉卵よりもゆで卵の方が好きなんだ? まあ、半熟なら似たようなものかしら。
この子が、この家にも来て、あのひと口しかないコンロでオムライスを作ってたんだ。
それで、この丸いテーブルで一緒に食べてたんだ。
無意識に、この目の前にあるテーブルでこの子と笑顔でオムライスを食べる清水くんの映像が浮かぶ。
今はちくわしかない冷蔵庫にも、この子がもっと野菜とか食材を入れておいたりしたのかもしれない。それで、清水くんがちゃんと食べてないと叱ったりもして……。
清水くんはこの子のことが忘れられないんだ。
この子のことが好きなんだ。
「はい、片橋。茉悠さん、まだ酒あります? おかわり持って来ましょうか?」
片橋くんにビールのおかわりを持って来た清水くんが私の手元を見る。
「えっ、なんで7組見てるんですか」
慌てた様子で清水くんが私の横に座ってアルバムを閉じる。そのまま顔を上げて私を見た。
「……え……なんで泣いてるんですか」
「え?」
びっくりして頬に手をやると、ほんとだ、私泣いてる。
「あれ? なんでだろう?」
あら私涙の機能が壊れたのかしら。全然気付かなかった。溢れ出てくる涙を手で拭う。
「高校生の写真なんて見てたら元カレのことを思い出しちゃったんじゃない?」
「あ! 高橋さんのせいですよー。水城さんが元カレの青春を奪ったなんて言うから、気にしちゃってるんじゃないですか」
え、岡崎くんのことなんて全然思い出してないし、全然気にしてない。だって、とっくに終わったことだもの。気にしてもしょうがない。
それよりも、本当に岡崎って名前だったかしら? って方がまだ気になる。
ふと視線を感じて見ると、高橋が高橋のくせにとても真剣な目をして私を見ている。
何? なんでそんな顔で見てくるの?
高橋なんて人を小馬鹿にしたような顔や底意地悪い笑顔ばっかりなのに。
「そうかも。高橋のせいかも」
高橋を指差して言った。
「ほらー。謝ってくださいよ、高橋さん!」
「茉悠ちゃん、かわいそー。あんなの高橋さんの妄想だよ、気にすることないよ」
「そうだよね、高橋の言ったことだもんね。片橋くんに言われたんならまだ気にする価値もあるけど、高橋だもんね」
「そうだよ、茉悠ちゃん。カタハシとタカハシは似て非なるものなんだから」
「お前ら、ひどくないか! ふたりして俺のことを何だと思ってんだ!」
こんなに言われるまで高橋が反応遅れるなんて珍しいわね。
「ちゃんと謝って、高橋さんー」
「しょーがねえな。分かったよ」
高橋が私の方へと向き直る。
「俺が悪かったよ。5年も付き合うくらいお前のことが好きだったんだろうから、そいつにとっては何も無駄なんかじゃなかったと思うよ」
申し訳ないほどにどうでもいい。
真面目に謝ってもらってるけど、岡崎くんのことなんてすっかり忘れてたんだもの。
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