第20話 交流会スタート!

 長かった! 普通に平日の仕事がかったるくって一日が長く感じることはあれども、いつもならバイトに費やすだけの週末が待ち遠しくて長く感じるだなんて!

 なんか、私悲しい20代過ごしてる気がする。


 今日はすっごく服装に困った。コートを着るほど寒くはないし、かと言って羽織るものは必要、プライベートとは言え会社関係、と難しかった。

 もう無難に、サーモンピンクの半袖ワンピースとジャケットのセットアップにした。何度かさくらと片橋くんと飲んだ時はもっと気楽な服装だったんだけど、上司の頼野さんが来るし、営業の面々なんてどんな服装してくるか予想できないし。恵利原部長の私服姿なんか想像つかないししたくもない。


 はやる気持ちを抑えずに家を出たものだから、さくらに次いで二番目に待ち合わせ場所に着いた。そして、待ち合わせに現れた清水くんを見て目が釘付けになった。

 いつもの黒髪黒ぶちメガネに、白いシャツのえり部分が重ね着風にV字にゼブラ柄になっていて、黒くて太いサスペンダーに黒の太めのパンツを履いている。


 清水くん、かわいい!

 前に見たベージュのセットアップも良かったけど、個人的にはこっちの方が好きかも。

 背が高いからか、モノトーンのコーディネートだからか、サスペンダーしてるのに子供っぽくなりすぎてなくてちょうどいい。すごく似合ってる。めちゃくちゃかわいい!


「そろいましたね、行きましょう~」

「え?!」

 さくらが意気揚々とカジュアルな和風居酒屋に入って行くけど、みんな驚いている。


「カンパーイ!」

「カンパーイ!」

 さくらに指名された頼野さんの掛け声で掲げる手は6つ。少なくない?!

 総務からは、発案者の頼野さんとさくらと私、営業からは部長すらいない。清水くん、片橋くん、高橋の若手三人衆しかいない。


「ごめんね、なんだか俺だけおじさんで。こんな若手ばっかりのつもりじゃなかったんだけど」

 頼野さんがすっかり恐縮してしまっている。あら、会社では僕って言う頼野さんの俺が聞けたのがなんかいいわ、って思うくらいには頼野さん好きだから全然問題ない。

 たしかにおじさんだけど、頼野さんは若々しくてハツラツとしていて、おっさん臭さはまるでない。


「俺、頼野さんとじっくり話してみたかったんでうれしいです! 今日はよろしくお願いします!」

 片橋くんが興奮気味に言う。

「でしょー。前に片橋、言ってたもんね」

 私が声掛けます! 私がお店予約します! とほとんどすべてを担ってくれたのはさくらだ。

 頼野さんは総務と営業みんなで交流会しようってことだなって分かる言い方だったと思うんだけど、さくらは若手の交流会だと思ったのかしら?

 しっかり者のさくらでもこんな勘違いをしてしまうこともあるのね。


 営業と総務に分かれて、テーブルをはさんで3人ずつ座る。和風だから、お座敷に四角いローテーブルに座布団スタイルだ。半個室みたいに仕切られていて、落ち着いたいい感じのお店ね。

 私は椅子よりも床が好きだから、自分の部屋もちゃぶ台を置いている。物がいっぱいで使えないからごはんを食べるにも何をするにもいつも壁際だけど。


「俺マジで頼野さんに憧れてるんですよ! いろんな人から話聞くんだけど、みんな尊敬してて! 頼野さん、俺らが入社した時に新人紹介みたいな会で司会してくれてたじゃないですか。あの時から社長とか二階堂さんだけじゃなくって上からも下からも慕われてるすごい人だなって、すげーリーダーシップだなって思ってたんです」


 そんな会あったかしら?

 なるほど、バスケ部でキャプテンだったらしい片橋くんは頼野さんのそういう所が気になるのね。納得。頼野さんはおっしゃる通り全方向から頼りにされている自慢の上司だもの。

 片橋くんたち営業はあのパワハラセクハラ恵利原部長ですものね。


 片橋くんが興奮のあまりこちらの総務側にやってきて頼野さんと私の間に割って入る。せまいわね。


「おおー、うれしいこと言ってくれるねー。営業の期待の星が」

「もー、マジで!」

 あら、そんな言い方をしたら清水くんは期待の星じゃないみたいじゃない。清水くんを見ると、心なしかへこんでるように見えなくもない様子でメニューを見ている。


 こっちはせまいし、思い切って片橋くんが座っていた営業側の真ん中に移動する。

「清水くん、何食べたいの?」

「あ、唐揚げとか」

 と言いながら私にも見えるようにメニューを移動させてくれる。

「唐揚げいいよね、私も好き」

「ほんと? 俺刺身も好きなんですけど」

「私も好きだよ。お刺身何があるのかなあ?」

「俺にもメニュー見せろよ」


 反対隣の高橋が文句を言ってくる。仕方ないから真ん中の私の前にメニューを置いて、3人で見れるようにする。


「刺身かよ! 俺生魚食えねーんだよ」

「食べなきゃいいだけじゃない。私たちで食べるから」

「私たちって……いや、いつまでも好き嫌いしてちゃーダメだな。俺も食う! 清水、適当に頼んじゃってよ」

「はい」

 仕事じゃないんだから、その先輩風吹かすのやめたらどうかしら。清水くんはまるで気にならないようで素直にすみませーん、と店員さんを呼ぶ。


 お刺身の盛り合わせとか、ポテトとかサイコロステーキとか、みんな好きそうな無難なメニューを頼んでいく。


 あ、サラダ食べたいんだけど清水くんに言うの忘れてたわ。

「あと、シーザーサラダ。とりあえず以上で」

 あ、サラダ頼んでくれた。男の人が適当に頼むと頼んでくれないことも多いけど。


 ああ、彼女と外食する機会も多かっただろうからいつも頼んでたのかな。女性はサラダ食べたい人も多いものね。

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