第17話 合コン

「お待ちしておりましたー。こちらへどうぞー」

 ワイワイと、集団の客が入って来たようだ。

 帰るか。どんな顔してるかトイレで確認して来よう。

 そでで涙をゴシゴシと拭いて立ち上がった。


 トイレから戻りしな、騒がしい集団の客に自然と目が行く。

 合コンか。えらい盛り上がってんな。俺は高校の時からずっと奏と付き合ってたから、合コンというものに参加したことがない。


 あれだろ、合コンって。王様ゲームだのポッキーゲームだの隙あらばキスしようとしたりお持ち帰りに持ち込めるように虎視眈々と狙うやつだろ。

 まあ、合コンに参加してる時点で女の方もお持ち帰られるのを狙ってんだから無問題だわな。

 あー、うっせえ。帰ろ。


 自分の席に戻ろうとその動線上で合コンのテーブルに近付いて、気が付いた。

 あれ、片橋だ。あ、尾崎もいる。そっか、あいつら学生時代の友達集めて合コンするって言ってたな。ここでかよ、すげー偶然――水城さん?!


 なんで、水城さんがこの中にいるんだよ?!

 他のヤツらは女も男も知らない人ばかりだ。尾崎の友達が都合悪くなって尾崎が急遽水城さんに助けを求めたのか?!

 水城さん、合コンってもんを分かって参加してんのかな?!


 片橋は俺らと同期だけど専門卒だから年は水城さんと同い年だ。片橋が同級生を連れて来たんなら、あいつらも水城さんと同い年か。

 体育会系で硬派な片橋の友達にしてはチャラくせー男どもだな。気に入らない。特にあの水城さんの隣を陣取った茶髪の男。調子乗ったツラしやがって……。


 帰るつもりだったけど、席に戻ってコソッと合コンの様子をうかがう。

 水城さんがトイレに立つと、チャラくせー茶髪男は熱心に尾崎に話しかけている。水城さんが戻ると、メニューを見せながら水城さんに肩がぶつかってるほど近付いてる。

 水城さんはまるで気にしてないみたいだけど、気にして離れようよ! 大丈夫か、あの人。遊び慣れてそうなチャラ男に簡単に持ち帰られんじゃねーだろうな。


 もー、あんなんだから心配になるんだよ……。

 水城さんはどこかフワフワしていて芯がないように感じる。どこへでも飛んで行ってしまいそうだ。


 案の定、一本のポテトを口移しで回していくという卑猥なゲームが始まった。慣れてないんだろう、ゲームが始まってすぐ水城さんが落としてしまった。

「罰ゲームー!」

 と隣のチャラ男が立ち上がって叫んでいるのが聞こえる。罰ゲーム?! 水城さんに何させる気だ、あいつ!


 見過ごせないと思ったらすぐに飛び出せるように構えるも、何言ってるのかは聞こえない。ワイワイガヤガヤしてるのが伝わるだけだ。

 でも、何させよーとしてるのかは見てて分かる。チャラ男が自分の口をしきりに指差し、両手を顔の前で振る水城さんに迫っている。

 よし、行こう!


 が、硬派な男片橋がチャラ男にキスして「キャー!」だの「おおー!」だの大きな歓声が沸いた。

 良かった……てか、あんなゲーム自体を止めろよ! 片橋!


 チャラ男が席を立つともうひとり男も席を立ち、連れ立ってトイレに行く。俺も片橋たちを警戒しつつも男たちを追う。

 トイレの前からもうチャラ男が笑われてる声が聞こえる。そっと俺も中に入ってドアを閉めた。


「俺、あの子に決めた! 片橋の会社の子!」

 どっちだよ、どっちの会社の子なんだよ、チャラ男!

「あの幹事の子? めっちゃかわいいよな、あの子」

「かわいいけど完全に片橋狙いだろ、あれ。同じ会社なんだからわざわざ合コンしなくてもオフィスラブっとけばいいのにさー」

「それなー。あのちっせー子も片橋狙ってるよな。めっちゃ酒飲まされてやがんの、片橋。潰されんじゃねーの」


 尾崎は入社当初から片橋のことが好きなんかなって思うとこあったけど、去年あたりからあからさまに好き好きアピールをしている。硬派な片橋はまるで気付いてないけど。

 がんばれ、尾崎! 潰れたところをかっさらえ!


「もうひとりの子の方だよ。男慣れしてなさそうだし、隙だらけで簡単にブルーフォレスト連れ込めそう」

「お前最近ブルーフォレストお気に入りな」

「俺もう普通のラブホ飽きちゃったんだよねー。あれくらいぶっ飛んだホテルじゃねーとつまんねえんだわ」

 ラブホ?! ラブホテルに水城さんを連れ込む気か、このチャラ男!


 笑いながら、俺に気付かずトイレからふたりが出て行った。

 させるか! 水城さんだって合コンに参加してるんだからお持ち帰られても文句言えねえのかもしれないけど、俺が絶対あんなヤツに水城さんをラブホになんか連れ込ませねえ!

 あんなヤツに連れ込まれるくらいなら、俺が連れ込む。


 普段の主人に従順な犬のキャラじゃ難しいか……今なら、全部酒に酔ってるからで済ませられるかもしれない。

 実際、酒ならこの体に入っている。まともに話したこともほとんどないのに緊張するけど、言ってる場合じゃない。

 このまま放っては絶対におけない。

 ガンガン酒飲めば俺いろいろ忘れちゃう癖があるから何とかなるか。

 会社では一切封印していたもう一方の素、俺様は百獣の王ライオンで行く! 今日だけ、二面性を解禁だ。


 トイレから出て一直線に合コンのテーブルへと向かう。

「片橋!」

 と片橋の背中に飛びついた。俺も、合コンに飛び入り参加する!

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