第6話 予定変更、交流会はおあずけ
「も――し訳ございません、ただいま席を外しておりまして……お手数おかけしますが……はい、はい、そのように伝えさせていただきます。恐れ入ります。はい、ありがとうございます。
電話を切った瞬間、総務部長の頼野さんが総務の部屋に戻って来た。
「あ、頼野さん、
「電話の相手、清水だったの?! 茉悠ちゃん、丁寧すぎない?! 後輩だよ?!」
頼野さんは「了解ー、ありがとー」って軽い返事だったのに、隣のデスクのさくらの音量が大きい。そんなに驚かなくてもいいんじゃないかしら。
「そうかな? これでこれまで怒られたこともないし、丁寧な分にはいいんじゃないかしら」
「まあ、悪いことは何もないんだろうけど」
相手によって対応を変えるよりも、全員フラットに丁寧対応の方が楽なのよね。何も考えなくていいし。
清水くんは今は出先なのか……ああ、清水くんを酔わせたい。
副業を失ってしまった私は、新たなバイトを始めなくては好みにドンピシャなちょうどいい俺様のケイ様に会いに行けない。清水くんなら、会社主体の飲み会のひとつでもあればタダで堪能できるのに。
交流会、楽しみだなあ。
部長席に座った頼野さんが、大きめの声で「あ、思い出した!」と言った。
「そうだ。来週営業と交流会しようって言ってたけど、
「ええー」
さくらがガッカリした声を出す。
「壮行会に営業呼んじゃ変ですかね?」
ねばるわね、さくら。
最近のさくらは何かと営業と関わりたがるなあ。……まさか、さくら、営業に行きたいのかしら。私なんかが直の先輩じゃあ、不安なのかしら。
「壮行会、来週の水曜日なんだけど、都合どうかな?
今総務の部屋にいるのはこの4人と頼野さんだけだ。
「ええー、なんで週の真ん中なんですかー」
さくらがまた不満の声を上げる。
「いろいろ都合を考慮すると、水曜日しかなかったんだよ」
じゃあ、しょうがないわね。
二階堂さんか。二階堂さんはイケオジで、優しくてエエ声なおじ様で私は好き。
「行きますー」
「まあ、私も行きますけどね。二階堂さんにはお世話になったし」
なんだ、さくらも迷わず行くんじゃない。何をあんなに不満がっていたのかしら。
「ありがとう。阿部さんと光国さんは? どうかな?」
笑顔で頼野さんがふたりのパートさんに尋ねる。
「たぶん大丈夫だと思うんですけど、一応家に報告してから明日お返事させてもらってもいいですか?」
「いいよ。急で悪いね」
頼野さんは、20代の私やさくらにも、共に50代でベテランパートさんの阿部さんにも去年入った光国さんにも、今部屋にはいないけど、30代男性正社員の
高校卒業して就職したこの会社しか知らない私は分かってなかったけど、20代になって大学に行った友達も就職して他の会社の話なんかを聞くうちに、かなり上司に恵まれていたんだと知った。
対して、営業の
恵利原部長のせいで営業は辞める人が多く、私の知る限りでも人の入れ替わりが激しかった。
営業がコロコロ替わるなんて当然印象がいいはずもなく、こんな小さい会社では社長も頭を悩ませていたそう。社長なんだから恵利原部長、辞めさせちゃえば? って私なんかは思うけど、そうもいかないものらしい。
そんな中、私と同期の根性ひん曲がってる高橋が意地で辞めることなく、その後入った清水くんと片橋くんが恵利原部長にハマって人の入れ替わりは落ち着いた。
社内イチ情報通であるベテランパート阿部さんによると、素直で一生懸命でかわいい清水くんと、真面目で誰に対してもまっすぐ向き合う体育会系の片橋くん。このふたりが恵利原部長だけでなく、すっかりすさんだ他の営業さんたちの心をも浄化したらしい。
大して関わりのない私からすれば恵利原部長は何ら変わっていないように見えるのだけれど、営業部の空気はこの三人が揃ってから劇的に良くなったそうで営業若手三人衆と三人ひとまとめにされて重宝がられている。高橋は何もしていない気もするわね。
二階堂さんなら、みんなお世話になっただろうし営業若手三人衆くらい呼んでもいいんじゃないかしら。
営業との交流会には恵利原部長も来ちゃうだろうけど、壮行会には呼ばなきゃいいんじゃ……良くはないか。若手だけ呼んだんじゃ角が立っちゃうか。
営業みんな呼ぶとなると他の部署も呼ばなきゃなんないし、工場の方までとなると収拾つかなくなっちゃうわね。残念。
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