第25話 サウナサウナ

 ファイアリザードの背側に棘が生えており、そいつが採取対象だった。

 まだ日も高かったので、そのまま帰路につことになる。

 リュックとファイアリザードの棘を括りつけたソリを引く俺の横にレティシアがが並びかけてくる。

 ドニは俺の少し前で、警戒しながら進む感じだ。彼は彼で大きなリュックを抱えていた。

 これでも水がないだけ随分荷物が少ないのだけど、討伐対象の二体から他の部位も持ち帰っているし、道中遭遇したモンスターの素材も積み込んだから相当に重たい。

 旅慣れたドニならともかく、体力が人並みの俺との二人だと持ち運びに不安が残った。そこで、ソリを用意してきたわけなのだよ。

 持ってきてよかった。これなら背負うよりより多くの荷物を運ぶことができる。

 敵が襲ってきたら紐から手を離せばいいだけだし、戦う面でも良い。


「A級とB級モンスター相手にたったお二人でこうもあっさり討伐してしまうとは、感服です」

「二人じゃない。三人だよ」

「私は見ていただけです」

「そんなことはないさ。石化の治療、食事の準備……数え上げればきりがない。今回は討伐隊の時と違って依頼者なのにいろいろありがとうな」

「いえ……バジリスクに対する時は教会関係者が付き添うことになっておりますので」


 石化対策なのかな。

 治療魔法を使うことができるのは教会関係者だけだと聞くし。依頼をこなす方としても聖女がついてきてくれるとなると心強い。

 報酬をくれる依頼人が手助けしてくれるから、報酬的にもおいしいのだとドニの談だ。

 本来三人で山分けとなる報酬が二人で分けることができる、という考え方だな。

 「それ、レティシアを完全に戦力の一人に組み込んでるじゃないかよ」とドニに突っ込んだものだ。

 そうしたらドニの奴は悪びれもせず「お前さんもだろ」って言い返されてぐうの音も出なかった。

 彼女と俺たちの違いは、荷物を持たないことと夜間に交代で行う警戒の役目がないことくらいだ。モンスターと戦う時は一緒に全力で対応してくれる。

 知らぬ仲じゃないし、俺にとっては初の冒険者としての遠出だったからとても助かった。

 

「バジリスクとファイアリザードの素材って何に使うの?」

「薬です。ポーション、気付薬、風邪薬……いろんな薬の調合に使うんですよ」

「へえ。薬はいろんな素材を煎じて混ぜるのかな?」

「はい。そのようなものです。魔力を込めるものもあったりするんですよ」

「頭痛薬と風邪薬なら、冒険者の宿で買ったんだ。これも教会が?」

「そうですね。教会か調合師さんのどちらかだと思います」


 俺には必要ないのだけど、特にポーションと呼ばれる傷薬の一種は効果が高い。

 塗ると細かい傷ならみるみるうちに塞がるのだとか。

 レティシアのかけてくれたヒールのように一瞬で頭痛がなくなる薬があれば、是非とも欲しい……のだけど、ポーションよりお値段が高くなる割にそこまでの金額を払ってまで欲しいという人が殆どいないらしく、販売されてなかった。

 作ろうと思えば作れるとか聞いたのだが、需要と供給の関係で厳しいのだと。俺なら多少高くても買うんだけどねえ。

 冷静に考えてみると、多少の怪我なら即座に治療できるポーションより頭痛が即無くなる薬を比べて値段に四倍以上の開きがあったら……どうする?

 ポーションを優先するよな、たぶん。

 

 難しい顔をしているのを見られたのか、フードを目深に被ったままのレティシアがくすりと小さく笑う。

 

「どうしたんですか?」

「超能力を多用すると頭痛がするんだ」

「ヒールをかけましょうか?」

「いや」


 超能力を多用したわけでもないので、体調は万全だ。今じゃなくて、いざという時の補給に使いたいんだよ。

 ところが、何を勘違いしたのかレティシアが肩を僅かに震わせ言い淀んでいる。

 

「あ、あの。面と向かっては少し恥ずかしいですが、いいですよ」

「ん?」

「膝枕……されながらヒールですよね」

「どこをどうすればそうなるんだ」

「ドニさんが、男の人は膝枕されると癒されるんだって」

「ドニィィィ」


 恨めしい声でドニの背中に語りかけるが、当の彼はどこ吹く風と言った様子。


「ヒールで頭痛も傷も癒える。教会に行ってヒールをかけてもらえば、ポーションより安いぞ」

「街にいる時には利用させてもらおうかな……」


 即効性の頭痛回復は得難いものだ。日本にあった頭痛薬より遥かに効果が高い。

 あちらは頭痛そのものを癒すのではなく、痛みを感じなくさせる。しかし、ヒールは一瞬にして頭痛の原因を治療してくれるのだ。

 ほら、ドニが変な事を吹き込むからレティシアが黙ってしまったじゃないかよ。

 

 この気まずい空気を変えるべく、彼女に声をかける。

 

「あ、あー。ええと。レティシアは戻ったら何がしたい?」

「教会に素材を届け、お祈りをしたいです」


 ……。

 これにどう返せと。滑った。やはり取ってつけたものでは逆に墓穴を掘ってしまうか。

 

「ゾエさんは? まず何がしたいのですか?」

「風呂に入りたい」

「お、お風呂……ですか」

「え、えっと」


 ますます気まずくなった。なんで、何でなの。

 レティシアの気まずいポイントが分からない俺であった……。

 和やかとも言える弛緩した雰囲気のまま、待ちに向かう俺たちであったが、この後事態は一変する。

 

 ◇◇◇

 

 街に入って、教会前まで荷物を運びそこで今回の依頼は完了、パーティも解散となった。

 その足で露店に寄ってすぐに食べられる肉串やパンを購入して宿舎に戻る。

 お、あの派手派手ピンク色の髪はパルヴィに違いない。

 

「あ、戻ったの……?」

「おう。非番か?」

「うん……」

「パルヴィ。死んだ目のところすまんが、預かってくれ」


 お尻をふりふりしてペタペタ歩いていたアヒルを後ろから掴み上げ、パルヴィの大きな胸に押し付ける。

 アヒルの黄色い嘴が彼女の胸にうずまった。


「サードちゃん! むふう」

「サウナに行ってくる。こいつをサードに食べさせておいてくれ。俺の昼も入ってるけど」

「いいよー。着替えは?」

「後でいいや。部屋に戻るし」


 泥が張り付いて、部屋に入る前に綺麗にしておきたい。

 じゃあ服はどうなんだよって話だけど、サウナで洗濯はできないから仕方ないさ。

 

 宿舎はサウナが併設されていて、10ゴルダでりようすることできる。

 サウナを利用できるのは兵団関係者か宿舎利用者のみに限られていた。これは利益より盗難その他を危惧してのものらしい。

 誰でも彼でも宿舎の中に入れちゃうと、警備に力を割かなきゃいし、サウナは兵団の慰労施設という趣が強い。

 元より利益を出すことが目的ではないことも利用者を限定している理由だろうな。

 

 昼前からサウナに入るなんて、贅沢だ。ふふふ。

 とウキウキしてサウナに行ったはいいが、先客がいた。

 髭だけじゃなく、胸もヘソ周りまでもじゃもじゃしているんだな、髭もじゃのおっさんは。

 

「ゾエか。昼間っからサウナとはいいご身分だな」

「あんたがそれを言うか……」

「俺はちゃんと働いてきたさ。今日は非番だ」

「ジャイアントラットか?」

「そうさ。もう見たくねえが、仕方ねえ。仕事だ。割切るしかねえだろ」

「おっさん、案外ちゃんとしてんだな」

「案外って何だよ。まだ俺が最初にお前を疑ったことを恨んでんのか?」

「全く。あの戦いは却って俺にとってはプラスになったから、思うところは何もないさ」


 軽い応酬をしつつも、おっさんの対面に座り、ふうと息を吐く。

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