第23話 のんびり討伐依頼
俺が出現した森林地帯は街の東側だったのだけど、今回向かう先は南である。
道先案内は全てドニ任せだ。ははは。
彼が一緒じゃないと、遠出なんてとてもできそうにない。如何せん来たことがない土地だし、GPSもないからどこにいるのかとかまるで分らないのだもの。
スマートフォンに慣れてしまった弊害である。
途中まで馬車で運んでもらって、そこから徒歩となった。南は一面に荒涼とした大地が広がる大地が広がっており、爽快の一言。だけど、視界がよいわけではない。
平な部分が少なくて、影に潜み奇襲してくるモンスターに何度か遭遇した。
ドニの観察眼で逆に奇襲をかけ、サクサク仕留めたのだけどね。
「そろそろ夜営する場所を見繕おうぜ」
「分かった。どういった場所がいいんだろう?」
そこでドニが口元に親指を寄せ、すっと目を細める。
どっちだ? と彼に目くばせをすると、慣れたもので目線だけで方向を示してくれた。
すすすっとレティシアと彼の目線の先の間に立ち、懐から投げナイフを三本、指に挟んで取り出す。
第六感が反応しないことから、脅威となる敵ではないとホッとする心を引き締める。
油断禁物。安心して怪我をしたら元も子もない。
念動力の糸を伸ばし、投げナイフが宙に浮く。使い続けていると、以前に比べて随分とスムーズに糸が動かせるようになってきた。
ドガガガ!
繁みに向かって投げナイフが突き刺さり、ウサギを大きくしたようなモンスターが飛び出て来た。
もう一丁。
更に三本の投げナイフを構え、念動力の糸を引き絞り狙いをつける。
『ギイイイ』
歯と歯をすり合わせるようなうめき声を出して、ウサギのようなモンスターが地に伏せた。
「手慣れてきたな」
「矢より速いんじゃないでしょうか」
ドニとレティシアが揃って感嘆の声をあげる。実戦に勝る経験はないってね。
動くモンスター相手に狙いを定め、念動力の弓と投げナイフの矢を放つイメージだ。
念動力の糸は手振れしないので、ブレなく必ず直進する。糸を束ねたり、引っ張り方を調整してみたりと試行錯誤した結果、王狼に対し使った時より格段に進歩した。
転移して相手の体に直接触れる方が強いは強いんだけどね。だけど、心臓が動いていないゴーレムみたいなモンスターもいるそうだから、何かと対応策を取っておかないと……。俺は剣で斬った張ったが難しい。ドニに手ほどきを受けたのだけど、一朝一夕で何とかなるもんじゃないと重々理解した。
あと800日ちょっとしか残されていないわけなのだから、目的達成のために必要なこと以外は最低限にする。欲張ったら本来の目的を見失う。
「ドニ……」
「ああ……」
ウサギのようなモンスターを今日の肉にしようかと近くまで向かおうとした時、首筋にチリリと悪寒が走る。
何か来る。あの丘の向こうから。登って来ている。
狙いはウサギの肉なのか、俺たちも含めてなのかは不明。だが、第六感が危険を告げていることから、俺たちまでも巻き込もうとしていることは確かだな。
「しかし、堂々としたもんだな。まるで自分を隠そうとしていねえぜ」
「出た。瞬間にやる……か」
っち。ウサギに6本使ったから残り2本か。
なら、顔を出した瞬間に……投擲し殺る。
念動力で蜘蛛の巣状の糸を自分の足もとから5メートルの範囲に張り巡らせていく。
同時に自分の前方にもセンサーを張る。
丘のてっぺんに集中し、静かにその時を待つ。
風のそよぐ音だけが耳に届く。緊張からでた汗がポタリと顎からしたたり落ちた。
見えた!
赤い目をした爬虫類の頭が。ワニやトカゲとは少し違う、直立する恐竜――獣脚類のような感じだ。
そいつの目がキラリと瞬いた。
「っち、バジリスクか!」
ドニの声に返答しようにも口が動かない!
それに驚きビクリと体を震わそうとしたものの、まるで反応しないのだ!
な、何だこの感覚は。脳は完全に覚醒しており、脳内イメージでは指が腕が動いているはずなのに体がピクリとも動かない。
脳からの指令がプツンと切断されたかのような奇妙な感覚にゾッとする。
ならば、自己修復で元に戻せばいい。
が……体は傷一つないと判断され、何一つ効果がなかった。
幸いなのは超能力を使うことができることか。頭が動くから、使えるに違いない。
「キュアストーン」
「っつ」
背中にレティシアが触れている感触がする。いや、戻った。
どうやらバジリスクとやらの恐竜型モンスターによって、何かされていたみたいだ。
「大丈夫ですか? ゾエさん」
「うん。何とか」
前を向いたままレティシアに応じる。
続いて詠唱していたドニが最後の力ある言葉を口にする。
「ミラーミラージュ」
ブオンブオンとドニを含む三人の体が一瞬ブレ、元に戻った。
「バジリスクの目を直視すると問答無用で石化する。まあもう大丈夫だ」
「今の魔法は?」
「視線を反射する魔法だ。一回反射すると消えるから気をつけろよ。音がするから分かる」
「分かった。一回あれば十分過ぎる」
千切れた腕さえも元通りにする自己修復でも何ともならないとは、石化恐るべしだよ。
俺が石化の視線で固まっている間にもバジリスクは前進し、後ろ足の半ばほどまで姿が見えていた。
奴は予想した通り、直立する恐竜のような見た目をしている。
獰猛さを象徴する鋭い牙と爪に灰色の鱗を持ち、先ほど俺を石化させた赤い瞳。顔に比べ目が非常に大きいのが特徴だった。
不意の一発を喰らったが、姿が見えてしまえばどうということはない。
「さあ……振り切るぜ」
言葉が終わるか終わらないかのところで、バジリスクの真後ろに転移する。
奴が俺のことに気が付いた時にはもう奴の体に触れ、脈動する心臓に繋がる血管を全て断ち切っていた。
ドオオン。
バジリスクは大きな音を立てて地に伏す。
「ひゅー。やっぱやるねえ」
「いや、二人がいなかったら今頃、こいつに喰われてたさ」
「ひゃはは。さっきのは仕方ねえ。バジリスクは出会い頭でやられる奴が殆どだ。待ち構えて正面から瞳を喰らったらどうしようもねえわな」
「持つべきものは仲間だな」
「お前さんがそれを言うか。たまには俺も仕事しねえとな」
「戦闘だけが仕事じゃないだろ」
「真顔で言われるとバツが悪い」
ちっと舌打ちするドニが俺から目線を逸らした。
そんなドニにくすりとしつつも、尋ねる。
「モンスターの気配はしないか? 俺は何も感じないけど」
「今のところは問題ねえな。ほら、目玉を頂くぞ」
「目玉?」
「そうだ。聞いてなかったのか? バジリスクを討伐しに来たんだろうが。教会の欲しいものはこの赤い目玉だ」
「そうだったっけ」
「ったく」
悪態をつくドニだったが、剥ぎ取りナイフを構えバジリスクの顔の前でしゃがみ込む。
そこへレティシアもやってきて、フードを取り物憂げな顔を見せた。
「大事なかったですか? 体に違和感はありませんか?」
「うん。ありがとう」
右手をグーパーして、ニッと口端をあげる。
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