エピローグ

 それにしても近頃やけに暑い。

 やれやれ、陽射しが強いのは夏だけで充分だ。もっとも、毎日が暑い季節の夏は苦手なので、それはそれでご遠慮願いたいのだが。


 たまらずに涼しさを追い求めて住宅街を飛び出したおれは、気がつけば川沿いをきょうも歩いていた。

 きらきらとかがやく水上の宝石に触れようとするが、ポチャンと音だけが鳴って消えてしまった。

 土手の上では、人間の親子連れがおれに向けて小さく手を振っている。

 一体なんの真似なのか……人間たちはたまに変な鳴き声を出してみたり、ああやって手を振っては猫の注意をひこうとするのだ。おれたち野良猫は暇そうに見えるかもしれないが、こちらとしては構ってやる筋合いはなにもない。いつものように無視をして先へと進む。

 おや? このにおいは、なんだ?

 目を閉じて鼻をひくつかせていると、不意に吹き抜けた風が河川敷に群生する植物をいっせいに揺らす。水面みなもをすぎて冷やされた風がなんと心地よいことだろう。


 サワサワサワ……サワサワサワ……


 気のせいかその風の音色は、猫なで声のようにおれには聞こえた。



 おれはふと、アイツのことを思い出す。



 いまも忘れない。



 それは、きょうと同じくらい暑い、ある夏の出来事だった。








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猫の名探偵 ~ネコジャラシ迷宮~ 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala

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