6
それから間もなくして、一人の人間の若い男がおれたちの前に姿を現す。若い男は、急にしかめっ面に変わると、血溜りを大股でよけながら小さい車に近づいてゆく。
「うわっ! 汚ったねぇなぁ……せっかく高い金かけて改造したのに、RCカーが台無しだよ、これじゃあ!」
そして、ブッチの返り血を浴びた小さい車を嫌そうな顔をして掴み上げ、なにかを確認しはじめる。
野生の勘でコイツが真犯人だと悟ったおれは、爪をめいっぱい出して、この人間に飛びかかった。
「わわわ?! なんだよ、この野良猫!? なんで暴れてんだよ!? やめろったら、こいつ!」
怯む人間を尚も容赦なく襲う。
この時のおれは、後先なんて考えてはいなかった。
理性ではなく、野生の本能と怒りの感情だけが、おれの体を突き動かしていた。
「へゃあああ!? ブッチィィィィィィ!!」
どうやら爺さんは意識が戻ったようで、大声を張り上げて人間の言葉を叫びながら、ブッチの
「てんめぇ……わしだげでなく、猫にまで悪さしやがんのか! わしらが一体なにしたってんだよ、ああッ!?」
興奮した爺さんもおれに加勢して、若い男に素手で襲いかかる。
「なっ、なんなんだよ、浮浪者のくせに! おまえも野良猫も、この街にいらない邪魔者なんだよ!
やがて騒ぎが大きくなると、沢山の人間や警察官がやって来て、二人をどこかへと連れていった。
それから小さい車も、爺さんの姿も、この河川敷で見てはいない。
ブッチの亡骸は、地域ボランティアの人間たちが持っていってしまったが、きっと悪いようにはされなかったと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。