それから何日経っても暑さは変わらず続き、その日もおれとブッチは、涼を求めてさまよい歩いていた。


「兄貴。ちょっと遠いんですけど、いい場所がありやすぜ」


 ブッチに連れられてたどり着いたのは、大きな川が流れる河川敷だった。一瞥した限り、日除けになりそうなものと言えば、川を横断する橋の下と風のひとつでも吹けば崩れ落ちそうな一軒のボロ小屋。そして、河原に群生するネコジャラシ。

 陽射しは変わらずに強いが、水際でそよぐ風は住宅地のそれとは違い、ひんやりと冷たくてとても気持ちがよかった。


肉三郎にくさぶろうの兄貴。腹、空きやせんか?」


 一緒に川辺で涼むブッチが、揺れるネコジャラシを前足ではじきながらいてくる。


「ん? まあな。なんだ、おまえ当てがあるのか?」


 おれがそう問いかけた直後、ブッチは〝待ってました〟と言わんばかりに髭袋を上げた。


「へい。あそこに小屋があるじゃないですか。あの小屋に住んでる爺さんが、野良猫に飯を分けてくれるんでさぁ」


 とても人が住めそうな環境には見えないが、不思議なことに人間にも野良がいるらしく、たまに獣道や餌場で出会でくわすことがある。ブッチが話す爺さんも、きっと野良なのだろう。


「おいブッチ、あんまりたかるなよ。人間はおれたちと違って食う量も違うから、なにかと大変なんだぞ」

「へへっ、それなら大丈夫! あの爺さんは最高の餌場を知っていて、爺さん自身、丸々と太っていやすぜ!」


 そう言うとブッチは、尻尾しっぽを上機嫌に立てて揺らしながら、足取りも軽やかにボロ小屋へと向かう。


「お爺さぁ~ん♪ お爺さまぁ~ん♪」


 やがてすぐ、顔に似合わないほど高くて甘い猫なで声まで上げ始めた。

 やれやれ、おれには真似できない芸当だ。


「ヤッホ~♪ お爺さまぁ~ん♪」


 ブッチは相変わらず不気味な猫なで声を上げながらボロ小屋に近づく。壊れてうまく閉まらなくなったのか、ベニヤ板で出来た扉と玄関のあいだには猫が簡単に通れるほどの隙間があり、ブッチは躊躇ためらいなしにそこから中へ入っていった。


「やれやれ、しょうがないヤツだ」


 渋々おれも後に続く。

 小屋の中は真っ昼間なのに薄暗いようで、人間の目ならよく見えないはずだ。床もゴミ捨て場のように沢山のガラクタが散乱し、とても狭くて臭い劣悪な環境だった。


「んあ? ……爺さん、どうしたんだよ、おい!? 爺さんってばっ!」


 おれの夜目がよく効いてきた頃、仰向けに寝転がる人影にブッチが肉球を何度も押し当てているのがわかる。

 そばまで寄れば、顔から血を流した老人が脂汗を流してひどくうなされていた。


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