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夏というものは、どうも好きになれない。
強過ぎる陽射しや焼けたアスファルト、それに
軽い火傷でもしたのか、ヒリヒリと痛む肉球を途中にあった木陰で舐めていると、
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
顔を上げてみれば、
「やれやれ……」
軽く痛む足をふたたび地面に着けたおれは、ハチワレ猫の動線に立ち塞がった。
ゆっくりとした歩みを徐々に激しく刻み、やがてアスファルトの上を全速力で走り出して風になる。向かう先では、ハチワレ猫がおれを見つめながら目を丸くして驚いていた。
「ええっ!? ちょ、ちょっ、ちょっと待ってくれぇぇぇぇぇぇ!!」
さらに血相を変えるハチワレ猫の頭上を優雅に飛び越えたおれは、小さい暴走車に何発も目にも止まらぬ速さで肉球の連打を浴びせた!
ギュイイイイイイ……!
ギュイイイイイイ……!
仰向けにひっくり返った車体の四隅で、車輪が前後に激しく空回りする。もがくように車体までくるくると回りだしたのも束の間、小さい車は奇妙にタイヤを
「なんだ、ありゃ?」
「はぁ、はぁ、はぁ……たっ、助かったぁ~……」
息も絶え絶えにハチワレ猫は尻餅を着き、股を広げて毛繕いを始める。
「もう大丈夫そうだな。それじゃあ、あばよ」
軽い運動を終えたおれは、避暑地を求めて
「あっ、待ってくれよ
突然の大声に振り返ると、髭袋の黒斑模様が目の前にあった。
ハチワレ猫は、おれの顔や体にゴロゴロと喉を鳴らしながら絡みつく。
「おい……! おまえっ……やめろ!」
「へへっ、きょうから兄貴と呼ばせてください。オイラ、ブッチって言いやす」
ブッチは、嫌がるおれの気持ちもなんのその。しつこく、なおも絡みつく。
「おっと、頬っぺたの毛が乱れてやすぜ。兄貴、どうかオイラに舐めさせてください!」
「やめろよ、気持ち悪いな! おい、やめろ……ブッチ、やめろって!」
これが、おれとブッチとの出会いだった。
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