猫の名探偵 ~ネコジャラシ迷宮~

黒巻雷鳴

猫の名探偵 ~ネコジャラシ迷宮~

プロローグ

 まだ春だというのに、月初めの陽気は夏を想わせるほど暑かった。

 背広の上着を邪魔そうに抱える小太りの中年男性が、ひたいの汗を拭おうとスラックスから格子縞のハンカチを取り出したとき、それはアスファルトの地面に転がり落っこちた。


「なんだ、これ?」


 目の前にあるのは、足早に立ち去った中年男性の置き土産。

 おれは注意深くにおいを嗅いで正体を探る。

 紙で作られたそれは、どうやらストローの包み紙のようで、時間の経過と共に白い包み紙は細長くニョキニョキと伸びていき、終いにはネコジャラシみたいな形になって止まった。


「ネコジャラシ……か」


 おれはふと、アイツのことを思い出す。



 いまも忘れない。



 それは、きょうと同じくらい暑い、ある夏の出来事だった。








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