第14話 マヨネーズ(三)

 テーブルには数々の料理が並んでいた。


 パンとスープは昨日と同じ。サラダが無く、魚の煮物を取り分けた皿があるのが昨日との違いか。

 そして言うまでもなく、最大の違いは、テーブルの中央に置かれた大皿──危険な色彩の肉野菜炒めである。

 そのテーブルをゴキブリ女子高生ゆるふわ痴女、ミーナ、アイラ、リンが囲んでいる。


 蛇足だが、食事に困るからか、この部屋の灯りは廊下とは違い普通の白っぽい光である。おかげで真っ赤な料理は、その危険性を隠すことなく存在感を示している。


「…………」


 女子高生ゆるふわ痴女は、すでに表情を凍らせていた。彼女は確かめるように、アイラに質問する。


「アイラさん。その野菜炒め……赤いのはなんですか? ラー油?」

「マヨネーズですわ。ゴキブリから作り方を聞いたので」

「マヨネーズ……?」


 彼女は少し考える仕草をした後、「あ!」と声を上げた。


「どうしたの? ゆるふわ痴女」

「いえ、ミーナさん。なんでもないです」

「?」


 ゴキブリはその反応を見て、彼女も材料の誤りに気付いたのだと察する。

 つまり、この野菜炒めのやばさに気付いていないのはミーナ一人という状況となった。ミーナは首を傾げながら、その赤い物体を取り分け用のフォークで自分の小皿に移す。


 早速、食べるのか……。


「みんな、食べないの?」

「ああ、食べる」

「た、食べます」

「ええ食べますわ」

「食べる食べる」


 ゴキブリ女子高生ゆるふわ痴女、アイラ、リンと順に返事をして、それぞれパン、スープ、魚の煮物を食べ始める。もちろん野菜炒め(赤)には手を出さない。


「リン。これ、からくないのよね?」

「マヨネーズというものを使っている……。聞いた話ではからくはないとのことだ」

「味見は?」

「した……と思う」


 答えるリン。それを聞いて、安心したように真っ赤な野菜炒めを口に運ぶミーナ。


 次の瞬間、時が止まった。


「ん、んん。うん。なかなか香ばしくて、旨味が強い。これがマヨネーズ……」

「…………」


 しかし意外にも、平和的な反応だった。まさか見た目に反してからくない?


「キャベツともベーコンとも良く合っています。ええこれは美味しゅうううううううう」


 そう安心した矢先、唐突に彼女は壊れた。


「ううううううううううううううううう」


 大量の汗を垂らしながら、うめき声を発する。フォークを落とし、両手で自らの顔を扇ぎ始める。


「きゃらいいい……」

からかったか。それは気付かなかったな」

「リン、うそつけえええええ、こんなきゃらいものつくっておいてきづかないとかうそだああ」

「う」


 その後、彼女はごくごくとスープを飲み干し、テーブルにあった各人のコップを奪って水を飲み干し、それでもしばらくは犬みたいに舌を出してハアハア言っていた。

 他のメンバーは、相変わらず野菜炒めには手を出さす、パンとスープと魚を平らげていく。早く食べ終えて、この場を去ろうとしているのは明白だった。


 だが、それをミーナが許すはずがない。彼女はまず牽制するように言った。


「ああ、からかった。ねえあなたたち、だれもにてをださないってことは、からいことしっていたのよね」


 誰も答えない。


「まさかとおもうけど、このままたべないおつもり?」


 誰も答えない。


「これ、のこしていくなら、おまえらぜんいん、ころす」


 棍棒が用意された。そこでさすがに弁解を始める。


「いや、ちょっと材料が間違っていたみたいで。気付かなかったんだ」

「あたしも材料間違っていたのを訂正できてなくて、ごめんなさい」

「私は言われた通りに作っただけだ」

「わたくしも……ちょっと赤いかなとは思ってましたけど」

「おまえら、からいとわかっておきながら、そしてわたしがからいものがにがてだとしっておきながら、とめなかったな」

「…………」

「のこさずたべるのよ、おまえら」


 ひゅんひゅんと棍棒を振るう彼女を見ながら、四人は地獄の始まりを予感した。

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