22.『顔合わせ』


 気付けば、前方に巨大な山が現れていた。


 見上げてもピンとこないほどに高く、俺はただ圧倒されていた。


 これは、雄大な大自然そのもの。それ以外に形容できない。




 人間が決して逆らうことのできない存在、自然。


 俺たちは、こんなものと戦わなくてはいけないのか。




「――これが、マウンテンザラタン」




「…………山だと思うけど」




 山か。なんだ。


 早とちりしちゃったよ。




「……でも、これくらい大きいみたい」




「ヤバいじゃん……」




 図らずも俺の勘違いによって、改めてマウンテンザラタンの規格外さを知る。


 マジでこのレベルなの? 本当に勝てるのだろうか。


 っていうか、どうしたら勝ちなの?


 あくまで山は甲羅扱いで、本体の息の根を止めればいいの?




「……山にも神経が通ってるって」




「山を操って噴火させてきたりするの? もう人類おしまいじゃん」




 改めてS級モンスターっていうのはぶっ飛んでるな。


 まぁ色々考えたところで俺が出来るのは剣を振ることだけだし、開幕は『白夜』の一撃と決まっている。


 ならば、余計なことを考えることもあるまい。




「……そろそろ着く」




「お? 本当だ」




 先導する馬車が速度を緩める。


 とりあえず、この辺を拠点にするらしい。




「皆さーん。目標はもう少し先ですけど、一旦ご飯にしませんか?」




 と、受付嬢が小走りで近付いてきたのを合図に、馬車が停止したのだった。







「ヒスイ様から伺ってますが、最初の一撃は『白夜』様の魔法だとか。もう少し細かく聞いてもいいですか?」




 小休止がてら、他の冒険者たちにも作戦を伝えておくこととなった。


 伝えると言っても、俺だって詳しくは聞いていないのだ。


 説明求む、『白夜』。




「……私の【凍テツク旋律】で凍らせる」




「へぇー……」




 ほらみろ。言葉が少なすぎてイマイチわかってない感じの反応されてるじゃないか。


 それすらも今初めて聞いたけどな、俺。


 っていうかやっぱり、氷属性の魔法が得意なのだろうか。




「…………」




 おい、なんか言えよ。


 何でこれで全部説明した気になっているんだ。




 え、マジで終わり? 


 ダメだ、もう与えられた食物をむさぼるだけの人形になってる。




「その一撃の後は、ヒスイ様が前に立つ感じですか?」




「それがですね……」




「……私一人で十分」




 と、言うんですよ。


 受付嬢さんからも何か言ってやってください。


 無謀すぎるだろ、どう考えてもって。




「一人で――!? まさか、ヒスイ様を危険な目に合わせないために――」




 違いますよ。


 めっちゃ自信家で人を信じられないタイプなだけです。




「………」




 だから口をへの字にしてこっちを見るなっての。


 眉間に皺まで寄せて、見る人によっちゃ変顔だぞそれ。


 言いたいことあるなら言えよ、受付嬢に。




「では、そろそろ出発しますが……B級以下の方は、ここでお留守番です。A級の方は前線に出てもらいますので、S級のお二人と一緒に馬車に乗ってください」




 ということで、A級の冒険者と顔合わせになる。


 まぁ酒場で見かけた顔ではあったのだが、実際に面と向かって話をするのは初めてだ。




「初めまして……A級パーティ『晴天の夜空』リーダー、ノアと申します。この度は、S級冒険者様とご一緒出来て大変光栄に思います。どうぞよろしくお願いいたします」




 礼儀の正しいイケメンがやってきた。


 透き通るような蒼い髪はやたらツヤツヤだった。手入れしてるのかな。




 ノアに続いて、残るパーティメンバーの3人も自己紹介を済ませる。


 そして最後に、S級の俺らの番ということだ。




「ヒスイです。皆さんには主に補助に回ってもらいます。具体的には、補助魔法、回復魔法、ポーションの持ち運び。それから、戦況の確認なんかもお願いしたいと……」




「……いらない」




「お前さぁ! 今俺が話してるの! いらないってことはないだろ空気読めよ!」




 暴言甚だしいぞ!


 ぶっちゃけ俺らS級から見たらA級もB級もそんなに変わらないからって、あからさまに態度に出すことはないだろ!




「あはは……仲がよろしいんですね」




「あれ!? そう見えました!?」




 仲がいいっていうか、こいつと人間関係を構築するのは中々の難易度だと思う。


 コミュニケーション力が不足しているってレベルじゃない。


 まるで、他人との関わり方が全く分かっていないようだ。




 こいつ、もしかしてずっと友達いなかったんかな……ちょっとかわいそうになってきた。




「…………なにその目。ムカつく」




「優しい目だろうが!」




 慈悲の塊みたいな目をしてただろうが!


 ふと思ったが、S級ってこんな変人ばかりなのだろうか。




 もしかして、俺も変人のひとりなのだろうか……いや、タマユラは常識人だったし、俺もその枠だと信じたい。信じることにしよう。




「じゃあ、馬車に乗りましょうか」




 そんなこんなで、俺たちはついにマウンテンザラタンと対峙することになったのだった。


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