21.『二人乗り』
「目標はここグローシティより南西に20キロメートル。馬車で行けばすぐでしょう」
朝。
存分に士気を高めた冒険者たちが、街の広場に集合した。
屈強な男もいれば、転んだだけで折れちゃうのではないか心配になるような華奢な女性もいたりして、冒険者というのは実に多種多様だ。
それにしても、集まった人数はこんなもんか。
32人と聞いた時は中々の大人数だなと思ったものだが、いざ目にすると不安になってきた。
こんな人数で、超巨大モンスターと対峙しなくてはいけないのか。
「突然かき集めた32名ですので、指揮官がいません。ですが、今回はなんとS級の冒険者様が二人もいます! 皆さん、おふたりの指示を最優先で聞いてくださいね!」
受付嬢がこちらに目配せをする。
なんだ、お気持ち表明でもしろってか。
「えー、ヒスイです。誰一人死なせません。皆さんは、ひとりひとり与えられた役目に全力で取り組んでください。全員で勝ちましょう」
「…………ん」
俺が声を上げると、『白夜』も申し訳程度についてくる。
まぁ、これでS級二人のスピーチは終わりってことで……いいですか?
「――ウオォォォ!!」
微妙な顔をしている俺をよそに、冒険者たちが一気に沸きあがる。よかった、合ってたっぽい。
受付嬢もなんか片目を閉じて親指を立ててこっちを向いている。なんだそれ、親心か何かですか?
「じゃあ、出発――!」
「――ウオォォォ!!」
「よっしゃいくぞー! ――え、ちょっと待って。受付嬢も行くの?」
「……? そりゃ行きますよ。ギルドの人間も必要でしょう?」
そうなのかもしれないけど……受付とは。
受付嬢という名の何でも屋じゃないか。
この街のギルドマスターに騙されてるんじゃない?
まぁそれはともかく。
俺たちは、S級モンスター【マウンテンザラタン】行きの馬車に乗り込んだのだった。
■
「……当たり前のように俺らが相席なんだよな」
「…………ん」
馬車は7人乗りのものが5台。
A級以下の冒険者30人とギルドの職員がいい感じに振り分けられた。
それと、S級冒険者には特別に2人乗りの馬車が手配された。いらん気遣いだ。気まずいったらありゃしない。
「……なんか食べる?」
「……いらない」
「ですよねー、あはは……」
なんだこの空気感は。
地獄か? S級の気まずさだ。
昨晩は酒が入ってたこともあって若干強引に話せたが、目的地に辿り着くまでの二時間をこの密室で。
しかもシラフな上に隣同士で過ごさなくてはいけない。
うっかり失礼でも働いてみろ。
今度は氷漬けにされるんじゃないか?
「君はさ、いつから冒険者やってるの?」
「……昔から」
「……そうか」
会話を続けさせる気がないぞ、こいつ。
まぁいいか……無理に間を繋ぐ必要は無い。
話したくないのなら、こっちから無理に話す必要はないのだ。向こうからしても迷惑なだけだろう。
「…………ヒスイ。最近S級に昇格した冒険者」
「…………ん? お、おお! そうです、最近S級になりました!」
彼女から話しかけてくるとは、予想外すぎて反応が遅れてしまった。
なんだ、俺に興味があるんですか? おお?
「……怪しい」
「怪しくねぇよ!? なんだよ不躾に!」
俺のどこが怪しいってんですか!
確かに夜な夜な乙女の部屋に上がり込んだり、今まさに密室で二人きりになったりしてるけど。あれ、俺もしかして怪しいのか?
「……ヒスイなんて名前聞いたことなかった」
「まぁ、そうだろうなぁ」
ほんのひと月前までE級だったわけだし。
ごまんといる有象無象の中の一人を、S級冒険者たる『白夜』が認識してるはずもない。
だから、ここにきて突然現れたぽっと出に思えてならないのだろう。
彼女にもS級としてのプライドや責任があるだろうから、新参者を認めたくないのかもしれない。
「……誰の弱みを握ったの?」
「握ってないですぅー! 憶測でドン引きするの辞めてもらっていいですか!?」
とんでもなく渋い顔をしながら何を言い出すかと思えば、根も葉もないことだった。
やめてよ、変な噂が広まったらどうすんの。
「……弁えないと死ぬから」
「そりゃそうかもしれないけど……大丈夫だよ、S級モンスター倒したこともあるし」
うわ、胡散臭い。
そう思ってる顔だな、それは。よくわかるぞ。
こいつ、無口で人付き合いが嫌いそうなのに、めちゃくちゃ表情に出るな。意外とわかりやすい奴なのかも知れん。
「……S級モンスターの弱みを握ったの?」
「握んねぇよ! そんなもの!」
冗談か!? 本気か!?
こういう時に限って表情に出てないから何を思ってその発言をしたのか全く分かりません!
これからS級モンスターを倒そうという時にふざけてる場合じゃないんですよ!
でもまぁ、こうやって誰かと賑やかに狩りに出かけるなんて久しぶりだ。
ちょっとくらい、楽しんでもバチは当たらないだろう。
そんなこんなで、馬車は俺たちを乗せて歩み続けるのだった。
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