18.『不審者じゃん、俺。』
本日中に討伐隊を編成。
実働は明日だという。
今晩は、決戦を明日に控えた冒険者たちが酒場に集い士気を高めあっていた。
戦に参加する冒険者の数は32名。
うちS級が2人。
A級が4人で、B級が6人。C級が12人、それ以下が8人だ。
突発的に集めたにしては中々粒ぞろいと言えるだろう。
この規模の討伐隊に参加するのは初めてだが、この大人数なら通常であれば余裕を持って戦闘に臨むことができる。
だが、相手はS級モンスターだ。
俺ともう一人の『白夜』はともかく――あ、A級もサポートとしてはいい働きを見せてくれるだろう。
しかし、それ未満の冒険者は……言い方が悪いが、役に立つのだろうか。
守らなければならない人間が増えるのはごめんなのだが。
なんて疑問に思っていると、隣に座ったガタイのいい半裸の男が教えてくれた。
「俺たちはよォ、正直戦力としてはクソだと思うんだよ。アンタらの足引っ張っちまうのは忍びねぇ。ってことで、物資の補給とか戦況の確認を担当するってこった。なにしろ、長期戦になるだろうからなァ」
との事らしい。
物資の補給ってなんだろう。お弁当とかかな。
肉料理がいいなぁ。
「ポーションなんてのはいくらあっても足りませんからね」
と、反対の隣に座っている優男風の冒険者が補足する。
あ、ポーションか。
肉料理ではないのか。
魚でもいいよ?
ところで、先ほどからチラチラとこちらに目線を配る人がいる。
遠目から観察されるのはどうも落ち着かない……って、あれは受付嬢じゃないか。
「あの……なんでしょう」
「いえ……パートナーの方が見当たらないなぁ、と」
パートナー? タマユラのことなら、俺の方が見当たらなくて困ってるんですよ。どこにいるんでしょうね、全く。
冗談だ。S級冒険者『白夜』のことだよね。
だって、酒場に来ないんだもん。
美味しいお酒が待ってますよ。早く来ないと酒が逃げちゃうぞ。
実際、人との関わりを避けている者からすれば酒場は地獄だ。そこにいるだけで誰かに絡まれるし、S級ともなればなおさらだ。
わざわざこんなところには来ないだろう。
「その『白夜』はどこにいるんですか?」
「一応、近くの宿を取ってあるようです。よろしければ、伺ってみたらどうでしょうか」
「いや、初対面で宿に押しかけるのは……」
「よろしければ、伺ってみたらどうでしょうか」
わかったよ! いけばいいんだろ、いけば!
どんな奴かは知らないけど、天才は変わり者が多いって言うし、S級ともなれば相当個性的な性格をしてらっしゃるんでしょうね。
あぁ、気が重い。
案外俺って人見知りなのかもしれないな。
■
ということで、受付嬢に聞いた宿までやってきた。
それにしても、勝手に他人が泊まってる宿を教えたりしていいんだろうか。
俺も、勝手に部屋に侵入するファンがいないか警戒する必要があるかもしれない。俺にファンっているんだろうか。
「こんばんはー。S級冒険者のヒスイと申しまーす。明日、あなたと一緒にマウンテンザラタンを倒す者ですけどー」
ドアをノックしてみるが、反応はない。
当たり前だ。今の俺にはあまりにも脈絡というものがない。
どうやったらドア開けてもらえるんだよ、これ……。
「急に押しかけてすみませーん! 僕も本意じゃなくて、あのポンコ……受付嬢が初対面済ませてこいって言うのでー! 開けて貰えますかー!」
不審者じゃん、俺。
これダメだ。開けて貰える気がしないし、これで開けちゃったら不用心すぎて不安だ。
まぁ、S級冒険者だから不審者なんて返り討ちにできるだろうけど、俺となると話が変わってくる。
……よし! グローシティが滅ぶ前に退散――、
ガチャ。
ん? なんだろう、何かが空いた音がした。
いやまさか、鍵が開くなんてことはあるわけないし……あれだろう、一人の時に「ガチャ」って呟くのが趣味の方なんだ、きっと。
「…………なに」
「――あ、えっと……ビール、飲む?」
「……飲まない」
振り返ると、俺よりも頭一つ分ほど小さい……黒髪の美少女が、ドアの隙間から覗き込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます