17.『二人目』


「あたしたちは残るよ。元々ここが故郷だし、シノとリュナのお墓も作ってあげたい」




 そういえばそうだった。


 イヴたちはここグローシティ周辺の狩り場でクォーツたちに襲われ、命からがらセドニーシティまで逃げ出してきたのだ。




 ということは、帰りは一人か。


 最近は一人で狩りをすることが多かったが、いざこうやって誰かと馬車で旅をしたあとだと、たった一人の帰り道は無性に寂しいものがある。




「あの……本当にありがとうなの。もし良かったらまた来て欲しいの」




「はは……どうかな。そうだな。またくるよ」




「おにーさん、またね!」




 そうしてイヴのネスは歩き始めた。


 仲間を失ったのは辛いだろうが、強く生きてほしい。




 そうだ。この街に嫌な思い出しかないのなら、これからいい思い出を作っていけばいいのだ。


 また来よう、この街に。







 クォーツたちも近衛兵に引き渡したし、これで本当にこの街でやることは何もない。


 あとは馬車を手配して帰るだけなのだが、それが中々曲者なのだ。




 何がかと言うと、この街じゃ馬車は冒険者ギルドでしか手配できないということ。


 なんだかんだこの街には顔馴染みもいるし、ちょっと気まずいのだ。




「別に歩いて帰ってもいいんだけど……」




 今の俺なら全力で走れば2時間程度でセドニーシティまでたどり着けるだろう。


 けど、全力で走らなきゃいけないのか……ちょっと嫌だな。




 こういうどうでもいいところで悩むのも馬鹿らしいし、やっぱり冒険者ギルドに行こう。今や俺だってS級冒険者。堂々としてればいいんだ。




 そう考え直し、俺は久しぶりにグロー冒険者ギルドの前にいた。




「いやぁ、久しぶりだなぁ……つっても、一ヶ月くらいじゃ何も変わってないか」




 なんて外観を眺めながら微妙な感慨に浸っていると、どうやらギルドの中が騒がしくなってきた。


 なんだ、もしかしてこっちでも既に俺は有名人なのか!? いやぁ、照れちまいますな。やっぱり俺はS級――、




「――冒険者の方ですか!?」




 と、てんやわんやの中から一人の受付嬢が出てきた。


 大層焦ってるご様子で、俺を見るなりギルドの中に引きずり込んできた。強引なんだから、もう。




「ランクを教えて貰っていいですか!?」




「あ、えっと……S級、です」




「S級!? 本当ですか!? しょーもない嘘だったらぶっ飛ばしますよ!? こっちは必死なんですから!」




 えぇ!? いや本当なんです、ぶっ飛ばさないでください! っていうかなんだ。俺のこと知ってたわけじゃないのか。




 ……いやおかしくない? 俺、よく見たらこの人の事知ってるんだけど。


 よくこの人から依頼を受けてたんだけど。


 なんで忘れてんの? 俺そんなに印象薄かった?




「……本当ですよ。ほら」




 若干機嫌を損ねつつ、セドニーシティのギルドカードをこれみよがしに見せる。


 すると、受付嬢の態度が急変した。




「――! 本当なんですね、失礼しました! セドニーシティの冒険者様ですか……あの、この街の依頼を受けて頂けませんか!? 街の存続に関わる重大な案件なんです!」




「それは大変ですねぇ。詳細を伺っても?」




「はい! えっと、あの、【マウンテンザラタン】が、その、街に、存続が! 危ない!」




 ちょっと落ち着いてください。


 マジで何言ってるかわからないです。




 相当緊急を要するんでしょうね。


 それだけは伝わりました。大変だァ。


 何が大変なのか全く分からないけど。




「落ち着いて一から説明して貰えますか?」




「――そ、そうですね。失礼しました。えっとですね、街の近くにS級モンスター【マウンテンザラタン】が出現しまして……」




 S級モンスターか、それはまずいな。


 とっとと何とかしなければ、誇張抜きに街の存続に関わる案件だということだ。




「マウンテンザラタンというのは、それはもう巨大な亀のモンスターでして……一説によると、本物の山を持ち上げて甲羅にするそうです」




「やっば」




 山て。


 山を持ち上げるて。




 本体のサイズがどんなもんかは分からないが、少なくとも歩くだけで街が滅びる。


 どうやって倒すんだろうか……剣とか効くの?


 仮に倒したとして、その後どうすんの?


 死骸とか、その場に放置された山とか。




「その辺はギルドが上手いようにやります」




「ギルドすげぇな……」




 死骸はともかく、山はどうしようもない気がするが。




「どうやら進行方向にグローシティがあるようなのですが、幸いなことにマウンテンザラタンの歩く早さはかなり遅いです。今から大規模な討伐隊を組めばなんとか……ということで、腕の立つ冒険者さんを探していたんです!」




 と、いうことらしい。


 そういうことなら、協力しようじゃないか。




「わかりました。じゃあ、手伝わせてください」




「ありがとうございます! ――みんなァ! S級捕まえたぞォ!」




「――ウオォォォ!!!」




「俺ってレアモンスターか何か?」




 捕まえたってなんだよ。捕まったよ。


 なんで湧いてんだよお前ら。


 ちょっと物申したいところあるよ?




「これで二人目だなァ!」




「はい! 何とかなるかもしれません! というわけで冒険者様、よろしくお願いします!」




「ん? 二人目ってのは? まさかこんなに冒険者が集まってるのに、俺ともう一人しか協力しないとか……」




「あ、違います! S級冒険者様がもう一名いらっしゃるんですよ! 『白夜』って通名で知られる、あの」




 あの。って言われても知らないよ。


 でも、S級冒険者か。


 これはまた、頼りになりそうな人がいてよかった。




 タマユラと同じくらい強……タマユラの話はやめようかな。


 とにかく、もう一人S級がいるなら心強い。




「あ、でも……その方は、絶対にパーティも組まないし、味方と共闘もしないんです。でも今回は本来ならS級冒険者様四人がかりで挑むような災害……何とか説得しておいてください!」




 おい。そういうご機嫌取りみたいな仕事を俺に押し付けるんじゃないよ。


 一気に幸先が不安になったよ。


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