ケモナーのガチンコ勝負!

「あ、着いたよ! もうモフモフに釣られないでね」


「ごめんって、もうしないからさ! ……いや、ごめん、やっぱモフモフしないなんて無理だよ。どんな状況でも見つけたらモフモフしたい!」


無理矢理洞窟に連れてこられたフロスはようやく正気に戻る。


「はあ……だめだこれ。でも洞窟の中ならモフモフしたものは居ないんじゃない?」


「ふっふっふ……甘いよ、リルは洞窟の中で出会ったんだ! つまり……」


「つまり?」


「私は洞窟の中でも正常じゃ居られない可能性がある!」


フロスは、清々しいほどのドヤ顔でもって自分は役に立たないと言うことをアリスに告げた。


「なんでドヤ顔!? まあ多分居ないだろうしいいけどね。それじゃ素材集めしよっか」


「それじゃどっちが多く集められるか勝負ね!」


「オッケー! ……って私ラック4だよ? フロスは?」


「私26だよ!もうこれは私の勝ちかな?」


アリスのLUKを聞いた途端、フロスは満面の笑みを浮かべる。


「ちょっとそれズルくない!?」


「甘いわね、勝負の世界は厳しいの」


「こうなったら……!」


アリスは何かを思い付いた顔をして一旦洞窟を出て行く。


「アリス何しに行ったんだろ? まあいいや! 今のうちに!」


勝負を諦めたのか、はたまた戦術なのか、どちらにせよ今がチャンスだと考えどんどんと素材を集めることにした。


「フロス!」


およそ5分が経った頃、先程出て行ったアリスが洞窟へと帰ってきた。


「あ、アリス何しに行って……た」


アリスの方を向いたフロスは固まった。


「ふふふ……これを見てもまだ素材集めが続けられる?」


アリスはニヤニヤしながらフロスを見つめる。


「……モフモフだぁ!! たくさんのモフモフだぁ!!」


そう、アリスが一度洞窟を出てまでしたかったこと……それはフロスの意識を逸らせる物……つまりはモフモフだ。


「モフモフ! こっちおいで! 君はコロ! 君はチーズ! 君はリィン! 君はルーク!」


大量のモフモフを前に落ちたIQで、必死にモフモフ達の名前を考える。


「ふふ……もう私が負ける未来は見えない! この勝負もらった!!」


アリスは遅れを取り戻すために早速採掘に取り掛かろうと、二人で買ったピッケルを取り出す。


「よーし、一つ目みーっけ!」


そして見つけた鉱石にピッケルを振り下ろそうとしたその時、勝負が動いた。


シュルシュルと音が鳴る。勝負の分かれ目となる運命の音。


「ヘビさんだ! かわいいっ!!」


そう、アリスにとっての天敵、ヘビさんである。ヘビがそこに姿を表した時点で、アリスの敗北は決したも同然だった。



「モフモフ気持ちなー楽しいなーああ……もっとモフモフを……もっと……!」


「ふええ……かわいい……ふへへ……いいよ……いい……!」


勝敗が決してから三時間後。彼女らはまだやっていた。この間、洞窟の中まで入って来れた者は0人……洞窟までたどり着いた者、その全てが奇怪な光景を見て別の場所へと向かっていったらしい。


「……はっ! やばい! ハメられた!? アリスは……何してんの?」


一通りモフり終わり、満足して正気に戻ったフロスはアリスにハメられたことに気がつき、アリスのいるであろう方向を探す。


そして見てしまった。弛みきった顔で蛇を頬擦りしているアリスを。


「アリス……? ねぇ、ねえってば!」

「ふへへ……えへへ……」


フロスの呼びかけにも気が付かずにひたすら蛇を頬擦りし続ける。


「もうっ! 【アンクリスタル】」


痺れを切らしたフロスはアリスがすりすりしている蛇をターゲットに取り魔法を放つ。


下級モンスターであった蛇は、フェンリルシリーズの効果もあってか一撃で絶命した。


「ああっ錦の御旗が! フロス酷いよ!」


「大層な名前つけたね!? それよりさ、時間見てよ……」


「え!? もう8時!? ご飯もう食べちゃったかなあ……」


モフモフすりすりしているうちに恐ろしく時間が経っていたことに驚く二人。


「ねぇ……私思ったんだけどさ……」


「うん、多分同じこと思ってると思うよ」


「「もう一人誘わないとまずい!」」


彼女達には絶対的に必要なものがあった。ストッパーである。


「ところで素材をどのくらい集まった? 私は20個だったけど……」


「あ……えーっとね……驚かないでね? ……ろ」


「ん?なんて?」


「だからゼロ! 私の負けよ……」


そう、彼女は鉱石を取ろうとした瞬間に錦の御旗を見かけてしまったのだ。この勝負、フロスの勝ちである。


「……明日は普通に集めよっか」

「うん、そうだね……」


二人はそのまま落ちることにした。

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