ケモナーの新ボス邂逅!
「さーて! 今日も新たなモフモフを探すぞー! おー!」
一人掛け声をやり今日もログインする。
「うーん……誰か誘おうかな……ま、いいか! 後で考えとこ! それじゃ【召喚サモン】ポチ!」
ポチとは昨日テイムした狼につけた名前だ。一世代前の名前だけどフロスはものすごく気に入っていた。
「ポチ、モフモフさせて? あ、ついでに乗せて!」
するとポチは一声鳴いてフロスに背中を差し出した。
「よーし! それじゃしゅっぱーつ!」
フロスはポチの背中に乗り森を駆けていく。その手は常にポチをモフモフしていた。
「はぁー萌えるわぁー」
時折小声でこのようなことを呟きながら。
しばらく爽快に走っていると急に地面に穴が空いた。無論飛べるわけもないフロスとポチは穴に一直線。ただ幸いにもポチの上に乗っていたフロスはダメージを受けなかった。その代わり……ポチが瀕死になり指輪の中へと姿を消してしまった。
「ポチイイイイイイ!!」
ポチの姿が消えたのを見てフロスが叫ぶ。
「誰よ……こんな落とし穴作ったのは……絶対に許さないんだから!」
まともな魔法も覚えてない、レベルも一なのでステータスも低い。それなのに彼女は薄暗い洞窟を一人歩く。全てはポチをこのような目に合わせたものへの復讐。彼女の心は復讐心で満たされていた。
洞窟には人っ子一人、魔物の一匹もおらず低ステータスのフロスでも順調に最奥に進めた、否、進めてしまった。そこにとてつもなく強大な死の権化が待っているとも知らずに。
「グルルル……」
ポチとあった時のようなうめき声、しかし数段威圧感のある声を出す洞窟の主。
「わー! モフモフだ! おっきいモフモフだぁ!!」
フロスの思考は洞窟の主、狼王フェンリルを見た瞬間に停止した。そしてその心に沸る復讐心も一瞬のうちに忘れてしまったのだ。
「モフモフしたぁい!」
フロスはトテトテとフェンリルに近づく。
「ガルルル……!」
なんの警戒心もなく近づいてくるフロスに、フェンリルは困惑しながらも声を張り上げ威嚇する。
「もぉ、なんでそんなに威嚇するのー? もしかして……ほら、これあげる!」
そう言ってフロスはきびだんごを一つフェンリルの口の中に投げ込んだ。
「ガルルル……!」
「あれ? 飲んだはずなんだけどなぁ……一つじゃ足りないのかな? それなら……持ってけ泥棒!!」
フロスはおよそ十個、一気にフェンリルの口に投げ込む。すると今度はどうだろうか、先程は無反応だったフェンリルが突然のたうち回り始めた。
「え……!? ちょっと大丈夫!? 後ついでに一モッフお願い!」
フロスは心配するように近寄りついでにモフる。おそらく彼女にとってはモフることが本題であり、心配は次いでなのだろう。言い直そう。彼女はフェンリルをモフるために近寄りついでに心配をした。
数回モフった後、フェンリルも音を立てて消えてしまった。
「ああ……モフモフが……モフモフが足りない……! ポチ……はダメだ。明日まで呼び出せない……さっきのフェンリルは……あれ? なんで召喚出来ないんだろう? んー……仕方ないや、とりあえず宝箱開けよ。もしかしたら代替品があるかもしれないし」
フロスはそう考えフェンリルが消えたところに現れた宝箱に近づく。宝箱は縦二メートル、横三メートル、高さ一メートルとかなり大きい物だ。
フロスが近づくと宝箱はひとりでに開く。
「あー……綺麗な色してるけどモフれない……」
その中身にフロスは落胆する。純白の美しい服にこれまた美しい輝きを持っている魔法使い用の杖。さらには、綺麗な鞘に収められ、美しく装飾された脇差。
しかし、これらはフロスのツボを刺激することはなかった。
「おお……おおおおおお!!!」
そして最後に出てきた物にフロスはひどく興奮した。何とケモミミが出てきたのだ。おそらくは装備品だろう。
「ふへ……ふへへへ……私、モフる。私、モフれる、私、モフられる……ふへへへへへへ」
あまりの興奮に思考が回らなくなってしまう。ケモミミはフロスの憧れだったのだ。現実世界リアルだと何故だか恥ずかしく感じてしまい付けては歩けない。何より作り物感がとんでもなく正直モフれた物じゃないのだ。
「この感触……ふへ、これ本物だぁ! モフモフ!」
それに対してこちらの被り物は感触が本物のそれだった。
『装備【白狼の衣】を手に入れました』
『装備【白狼の杖】を手に入れました』
『装備【白狼の脇差】を入手しました』
『装備【白狼の靴】を手に入れました』
『装備【白狼の被り物】を手に入れました』
純白の衣に美しい輝きを持つ杖。そこに加えて頭にはケモミミ……なんとも不恰好だ。しかし彼女はものすごく気に入っていた。というかケモミミ以外は眼中になかったようだ。ちなみに靴はこれといった特徴はなかった。
『スキル【白狼の絆】を取得しました』
『レベルが六になりました』
「あ、レベル上がったんだ。まあ良いや! モフモフしてよー」
レベルが上がったことも気にせずにまた自分のケモミミをモフモフし続ける。
自分をモフることに夢中ですでにフェンリルを呼べるようになっていたことには気が付けなかった。
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