ケモナーの最初の試練

「えっとたしか……ステータス!」


かすみがそういうとフォンという効果音と共に、彼女の前に白い板が現れる。


フロス

Lv.1 HP 3950 MP 95


《STR》 16

《LUK》16

《DEX》16

《VIT》16

《AGI》16

《RES》16

《INT》16


装備品

頭部 【なし】

身体 【なし】

メイン武器 【初心者の杖】

サブ武器 【なし】

足  【なし】

靴  【初心者の靴】

補助品【なし】


スキル

なし


SP4


「あらら、ちょっとHP振り過ぎちゃったかな? まあいっか! さあ、モフモフしに行くぞー!」


ステータスを確認して一人で叫んでいたフロスは周りから奇異な目で見られていた。後に掲示板にて『変態美少女見つけた』というスレッドが立つのはまた別のお話……



「かっわいぃぃいいい!! 天国か? 天国なのか!? 天国だ!!」


フロスの前には彼女にとっての楽園が広がっていた。獣、獣、獣、どこを見ても獣だらけなのだ。


「グルルル……」


1匹の狼が唸りながらフロスの方へと近づいていく。


「おー、可愛いねぇ、怖くないよ? こっちおいで!」


それに対しフロスは両の手を大きく広げ狼を待つ。しかしいくら(彼女にとって)可愛くてもこの世界ではプレイヤーを襲う敵なのだ。当然フロスにも普通に襲いかかるわけで……


「おいでーっ! ギャアアアアアア!!!」


先程の猫撫で声とは一転、とても女子が出していいものではない悲鳴をあげる。


もちろん痛みもあっただろう。しかしそれよりもショックだったのは仲良くなれる、そう一方的に思い込んでいた中で、いきなり牙を剥かれてしまったことだった。


「っ……! これも試練か……! なんて非道な!! しかし私は耐え抜いてみせるぞ! ケモナーの宿願、モフモフをその身に受けるんだ!!」


フロスは再び狼の前で手を広げ「おいでっ!」と声を出す。今度は狼がゆっくりと近づいてきてフロスの身体に頭を擦り付ける……なんて事もなく再び噛み付いた。


「まだまだーっ!!」 


フロスは懲りずに繰り返す。幾度噛まれようとも彼女の心が折れることは決してない。だが彼女もまた縛られる者。心の前に身体が折れてしまった。彼女の身体は光り、光が収まった時にはこの場から消えていた。このゲームにおいて初めて死を感じた瞬間であった……



「諦めて……たまるかぁ!!」


フロスは再び森へと赴く。全てはあの子達をモフモフするため。彼女の決意は固かった。何度噛まれようとも、何度襲われようとも、何度HPがゼロになろうとも、彼女は一切諦めなかった。その結果彼女が死亡した回数は……ついに50を突破した、


「またーっ!? もう無理なのかな……」


ついに心が折れかけたケモナー、フロス。そんな折、彼女の頭にピコンと一つの効果音が、そして目の前にスキル獲得の表示が出ていた。


『スキル【動物愛護】を手に入れました』


なんだかよく分からないが直感でわかる。私の目的モフモフにとっては都合の良いスキルだと。


スキル【動物愛護】

このスキルの所有者は魔物をテイムすることができる。

 取得条件 一日の間に無抵抗で魔物に50回以上殺される。


「あー……ちょうど50回か……よし! 次こそ!!」


そう決意し狼達のところへ向かおうとした時、もう一度ピコンとなる。


『アイテム【きびだんご】を手に入れました」


うん、見るまでもないね。そう考えてフロスはいつの間にやら腰についてたきびだんごを一つ取り出す。新たなスキルときびだんごへの期待を胸に再び狼達のところへと赴いた!



「おいでーっ! 怖くないよー?」


できるだけ優しく声をかける。今までだったらばすぐに襲われてゲームオーバーだったが今は違う。なんたってスキルととっておきの物を手に入れたのだ。


「グルルル……」


いつぞやのやりとり、フロスが声をかけて狼が唸る。お互いに見合う。しばらくして、痺れを切らした狼がフロスに襲いかかっていった。


「今だ! これでも食らえ!」


フロスはきびだんごを狼に食らわせる。瞬間、狼はぴたりと止まりフロスの足元へとゆっくりと向かって行って伏せをした。


「ふ……ふは……ふははははは!! 私は手に入れたんだ……手に入れたんだ!! モフモフを……!」


フロスが感激しているときびだんごを食べさせた狼が消えて、代わりに謎のアイテムが落ちる。


『アイテム【絆の指輪】を取得しました』


【絆の指輪】

テイムした魔物を指輪の中に仕舞う。HPがなくなった場合も自動的に魔物は仕舞われる。最大10体まで。


「よし! 出てきて!」


先程の狼が再び目の前に現れる。


「うーん……最大10もふまでか……慎重に選ばないとな」


フロスがそういうと、狼が少し悲しそうな顔をした(ように見えた)。


「大丈夫大丈夫! お前は捨てないよ! と言うわけで……モフモフさせて?」


そう言うとフロスは返事を待たずに狼をモフりだした。


「ハア……ハア……た、たまらない……! この感触……! このモフモフ! まるで現実でモフモフしてるような……ハア……!!」


そこをちょうど一人の人間が通りかかった。そして彼がモフモフしている彼女を見て真っ先に下した選択は……逃亡だった。後に彼はこう語る。


「恐ろしい……とんでもねえものを見ちまった……だが何故だ……幸せそうなあの笑顔を、そして気持ちよさそうな狼を見ていると『混ざりたい』って思っちまった。俺はもうダメかもしれねぇ……俺はもう……獣を殺せない……!」


ケモナー、それは伝染する……

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