第3章 始まり


 ビンゴ大会も終わり、少し会場も静かになった。


「キャーーーーーーー!」


静寂に包まれていた会場はざわついた。悲鳴は廊下の方から聞こえた。


「通してください!」


私は怒鳴りながら現場へ向かった。私がついた時には既に十数人きていた。群衆をかき分けて部屋に入るとそこには変わり果てた姿の男性が横たわっていた。


「旦那様ー!」


泣きながら男性が入ってきた。どうやらなくなった男性はどこかの会社の社長らしい。


「誰か警察に連絡お願いします。あと現場保存のため誰も死体に触れないでください。そして検死をしたいので誰か医者を呼んできてもらえませんか?」

「あのー、、、あなたは何ものでしょうか?」


執事の男性だった。


「私は決して怪し物ではありません。探偵の井上唯と申します。」

「探偵の井上唯!あの名探偵の!」


周囲がざわついた。


「大雨のせいで警察の方が来れないみたいです!」


誰かがそう叫んだ。


「だったら仕方ありませんね、この会場に元刑事のかたがいらっしゃると思いますのでそちらの方を呼んでもらえますか?」


菜穂子さんがきてくれた。


「ナイフでひとつきだなんてひどい殺し方ね。」


素っ気なく彼女はいった。

 私は菜穂子さんと二人で部屋の中を調べた。特に荒らされた様子もなく、部屋の物も取られた形跡はなかった。


「気になる点があります。」


私はいった。


「なぜこの男性だけ個室が与えられていたのでしょうか?今回はただのパーティー、流石に一泊するほどのことでもないじゃないですか。」

「さすが名探偵と言いたいところだけど私からしてみれば別に不自然には何も思えないけど」

「個人の見解に過ぎません。もしご不満があるのなら聞き過ごしていただいて結構です。」



 捜査が始まってから約2時間がたった。決定的な証拠は何も見つかっていない。菜穂子さんは正直なところ何もしていない。ただ突っ立って私のことを見ているだけ。


「何か見つかりました?」

「まだ何も」


自分は何もやっていないのにと思いながら私は返答した。

 部屋の扉は密閉されていて、しかも窓は嵌め込み式。たった一つしかない鍵は部屋の中しかも被害者のジャケットのポケットの中。

不可能犯罪。密室殺人。


「はー」


ため息が漏れた。


「どうしました?」

「何もありません。」


凶器も見つかっていないし、しかも密室殺人。これは解くまで時間がかかりそうだ。



 今夜はもう遅い。私は内部犯の可能性が高いと見たため、パーティーの出席者は全員このパーティー会場に泊まるように指示した。


「後の調査は私一人でできますのでおやすみになられて結構ですよ。」


菜穂子さんにそう伝えた。


「あらそう。だったらお言葉に甘えさせてもらうわ。」


菜穂子さんは部屋を出て行った。やっと一人になれた。正直一人じゃないと何も進まない。早速部屋をもう一度調べた。

 棚の中を調べると薬壜が複数あるのを見つけた。睡眠薬が大量に入っていた。その隣にはクロロホルムの壜も見つけた。部屋の中をある程度確認したらスタッフがいる部屋に行った。


「コンコン」

「はい!あっ探偵さん!何かご用でしょうか?」

「ええ。もしかしたらここのスタッフの方ならパーティーの最中に会場を出て行った人がわかるのではないかと思ったのですが」

「私ずっと扉のところに立っていたので顔を見ればわかると思います。出て行ったのは数名だったので」


 そのあと各部屋に出向き、会場から出て行った人を確認してそこから犯行可能の人を絞った。以下は犯行の可能な人だ。


・中井修也さん(25才)外出時間 約30分

・四條彩花さん(22才)外出時間 約30分

・三井洋子さん(32才)開始時刻から約1時間遅刻


この3人は犯行時刻である20:30〜21:30の間のアリバイがない。この中の中井さんと四條さんにはそれぞれ被害者を殺す動機があるみたいだ。中井さんはかつて、父親の会社を被害者に潰されてしまったらしい。四條さんは母親がこの人に殺されてしまったらしい。三井洋子さんは私の依頼人なのでちょっと置いて置くことにする。

 まずは、部屋の中を探した。もうとっくに凶器はどこかに捨ててしまったかもしれないが私が犯人なら正直どこかに隠して時効が過ぎるのを待つはずだ。だとしたらまずは部屋の捜索から始めるのが無難だろう。


4


 まずは中井修也さん。彼は電話をしていただけと言っていたが、アリバイの証人がいない。部屋を見ていると睡眠薬などの薬がいっぱい出てきた。


「なんのために大量の睡眠薬を?」

「僕はもともと寝つきが悪くてね」

「それにしても少し多すぎませんか?」

「心配性だからなんでも多めに持ってくるようにしているんだよ。まぁ僕を疑いたいのなら好きにすればいい。どうせ何も出てこないけどな。」


彼はそう答えた。それ以外疑わしいものは持っていなかった。ナイフの代わりになるようなものもなく唯一疑わしいものはさっきもいった大量の睡眠薬のみだった。


5


 次は四條彩花さん。彼女はお腹が痛いと言ってトイレに行ったと言っているが、アリバイの証人がいない。部屋を探していると、薬がまた出てきた。睡眠薬と風邪薬。


「なんのために大量の薬を持っているのですか?」

「私、一人旅初めてで、念のためにいろいろな薬を持っていこうと思って。」

「なるほど。ちなみに今日は睡眠薬や風邪薬を飲みましたか?」

「えっ?飲んでいませんけど。」

「そうですか。」


それ以外は特に何も変わった様子はない。


6


 次念のため私の依頼人でもある三井洋子さんの部屋もチェックしておく。彼女はトラブルがあって会場にくるのが遅くなったと言っていたが、アリバイの証人がいない。この部屋からは何も怪しいものは見当たらなかった。この部屋にあるものの中で一番尖っているものは彼女が身につけているピアスぐらいだ。


「あなたは薬などは持っていないのですね。」

「薬を飲んでもあまり効果がないので持ち歩かないんです。」

「そうなんですね。」


それ以外は何も聞かず部屋を後にした。


7


 一度頭の中で整理した。中井さんは大量の睡眠薬。四條さんは大量の薬品。そして三井さんは特に怪しいものはなく、強いていうなら尖ったピアスぐらいだ。薬に関しては、もう一度被害者の部屋にあったもののがどこで買われたのかを確認して、中井さんのと四条さんの薬と同じ場所で買われていないか確認する必要性がありそうだ。

 とにかく、そこまでわかったところで今日は、寝ることにした。


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