裕太の頬。
沙姫視点
「沙姫何してんの?」
私は齋藤の問いを無視してタクシーに乗り込む。そしたら齋藤に腕を引かれてタクシーから降ろされる。
「沙姫。なんで逃げんの?」
「触んないで。あんた私に近づくなって怒られてたでしょ。」
「別にもう高校卒業したし、関係ないだろ。」
「通報するよ?また警察沙汰になりたいの?」
「は?俺話しかけただけじゃん。」
こいつは高校で2年間私をストーキングして、警察に連行されたクセに、まだ私にちょっかいかけるつもりなの?
「普通に通りかかったら沙姫がいたからさ、話しかけただけでしょ?別に悪いことしてないし、通報されてもなぁ。」
「わかったわかった。久しぶりね、さようなら。」
「つれないなぁ。今から飲みに行こうぜ?」
「話しかけないで、今から私"彼氏"の所に行くの。邪魔しないで。」
「へぇ〜。彼氏できたんだ。そっかぁ。じゃあまたな。」
やっとどっか行った。ほんとに気持ち悪い。ああ、そんなことより裕太だよ。
「〇〇っていう居酒屋にお願いします。」
「分かりました。お客さん。さっきの友達かい?」
「…いえ、友達とは思ってないです。」
「そうかい、まぁそうだろうねぇ。」
「どうしてですか?」
「お客さんあの人と話してる時すんごい顔してたよ?誰が見てもわかるぐらいにね。」
えっ、そんな顔してた?どんな顔してたんだろ。
「もう、わかりやすかったよぉ。お客さんあの人の事嫌いでしょ。」
「そ、そうですね。あはは…」
そんなにわかりやすいのか、気をつけなきゃ。
「まぁ、お客さんにも色々あると思うからねぇ。仕方ないことだけど、嫌いな人はすっぱり切った方が楽ですよ。」
「…まぁ、そうですね。」
「すいませんね。いきなりこんなこと。いやぁ、私も昔にそーやって曖昧な対応をして失敗したことがあったもんでね。少しばかり言いたいなと思ってしまって。ほんとにすいませんね。」
「いえ、大丈夫ですよ。逆にありがとうございます。やっぱり私よりも長生きして色んな経験しておられるので、そういう意見もあるんだなって捉えれるので、大丈夫ですよ。」
「ふふふ、ありがとうございます。もうすぐ着きますからね。」
なんか不思議な人だ。話しててもイライラしない。直感的にこの人はいい人だってわかるような人だった。
居酒屋について中に入って、裕太とお母さんがいるであろう個室に向かう。
個室の中からお母さんの笑い声が聞こえてきた。ん?裕太起きてる?いや、裕太の声は聞こえない。何に笑ってるんだろうと思いながら個室の引き戸を引く。
中には、スマホで動画を撮影しながら裕太の頬をつついて笑い転げる母がいた。
「…何してんのよ。」
「あ、」
「あ、じゃないわよ。裕太に何してんのよ。」
「いや、寝たからさ。ぷふっ。こーやって、ほっぺたを…いひ、ひひ、あーっはははは。」
あ、お母さんも酔ってる。はぁ。めんどくさいなぁ。
「ちょっとお母さん。外にタクシー待たせてるから、裕太運ぶよ。」
「あははは…はぁ、久しぶりにこんな笑ったわ。」
「はいはい。じゃあほらそっちの肩持って。」
「わかった。んっ、うっわ、意外と裕太重いのね。あんたよくこんな重いののピストン受け止めれるわね。」
「へ!?ちょっ、お母さん!こんな場所で堂々と言わないで!」
何言ってんのよこの人!恥ずかしいじゃない!
「あぁ、ごめんごめん。」
「もぉ!許さないからね!」
そう言って睨みつける。お母さんは、気にした風もなく、ニコニコしている。まぁ、お母さんに何言っても変わるわけないか。
「んしょっ、じゃ!裕太のことお願いね。」
「お母さんはどーやって帰るの?」
「私は代行呼ぶから大丈夫!じゃこの後楽しんで。」
「おやすみ。」
「はいはーい。おやすみぃ!」
何とかタクシーまで運んでお母さんと別れる。そのままタクシーに乗り込んで家の住所を言う。
「お客さん、彼氏さんですか?」
「えぇ、まぁそうです。」
「いやぁ、いいですねぇ。私にはもう昔のことですから。微笑ましいですね。」
「いやぁ、そうですか?うふふ、ありがとうございます。」
私が寝ている裕太の身なりを整えている時に運転手さんは話しかけてきた。彼氏さんですか?って言われた時に、ちゃんと彼氏彼女として見られてるんだって思って嬉しくなった。
そうこうしてる間に、家に着いた。運転手さんにも手伝ってもらって家の中まで裕太を運んだ。玄関まで手伝ってもらい、そこからは1人で大丈夫ですと言って運転手さんとは別れた。
そして私もやっぱりお母さんの娘でした。
裕太の頬をつつきながら動画を回し、にやけていました。
頬をつついていたら裕太はくすぐったいのか時々身動ぎをします。
「んぅ…んん。」
起きないか心配だったけど起きたら起きたでいいやと思いそのまま裕太が起きるまで私は裕太の頬をつつき続けました。
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