第9話 私は不思議な幼虫


私は軍大学の校舎に向かう

龍鷹さんは軍本部に向かうみたい

まぁ、皇太子だし軍大学でトップを取ってるのだから推薦とか持っててもおかしくはない




しばらく歩き、第7会議室に着いた私は中に入る

そこには軍大学の教官と黒柳さんがいた

私は軽くお辞儀をした

「久しぶりだな。紅月さん」

「そうですね……」


隣の男性は私を嫌そうに見ている。この男は最初っから偏見を向けてるのがわかる

見た目の善し悪しで評価する奴なんだなぁとは思った。吸血鬼化した人間など貴族の多い第一では弱く見えるのかもしれない

「先に隣の淡中さんの話をしてから俺からの話をしよう」

「了解しました」

「では、お先に私からですね。えっと……紅月さんでしたっけ?」


煽り散らかしてるのは分かるけど下手くそすぎない?

明らかに『お前のような無能など覚えとく意味もない!』という感じだしてるし、無能とは言えどまともに私自身のことを見てもいないのに決めつけるのは後の昇進に関わると思うんすけど?

煽るならもっと巧妙な煽り方とかないのかなぁ……


「はい」

「ふん!そんなのどうでもいいのですがね。まぁ、あなたがここに入れたからと言って所詮、第3の上位クラス。無能がここに来ても無意味。なので芥場部隊の指揮官にした。おめでとう。紅月。貴様は無能だと軍本部が位置づけたようだ」

「芥場部隊?」

「17部隊だ。能力に問題は無いのだが態度や成績不振の奴らが集められている部隊だ」

「……なるほど」

「指揮官はおらずオペレーターすらいない。そもそも奴らは指揮にも従わないから居ても無意味だ」

「ふっ……。君のような生真面目な無能にはうってつけだろう?」

「上の指揮官が居ないのは楽ですね」

自由自在にできるのは私的には楽。自分なりのスタンスは家族に謀略してた時からあるしね


「ふっん。お前のような奴に指揮などまともにできるのか?まぁ、所詮お遊びでの指揮をしてきたんだ。指揮官としての苦しみを味わえばいいさ。まぁ、指揮を執れたらだがな」

「……」

「話は以上だ。皇太子殿下と同じ部屋になったのも空いていたのがあそこだけだったから。付け上がった末に落ちて残念だったな」

そう言って嘲笑っている。多分この人は学生時代の自分が私よりも優れていたことを誇り、バカにしているんだと思う。私の実力も可能性も全て捨てて

「では黒柳少佐。私はここで失礼します」

「ええ」


そう言って淡中さんは帰って行った

残された私たちの間に沈黙が流れる




こう見ると軍大学の教官というのは無能が故にここに送られてきた人か優秀だけど年齢的な理由で来た人の2パターンなのだと分かる

若い歳で中央統括本部の役員であろう黒柳さんは間違いなくエリート。地位は同じだけど能力はこちらの方が圧倒的に上なのは彼の態度でもわかる


「黒柳さんはあの人と似たような意見をお持ちなのですか?」

「軍本部はお前の能力を芥場部隊の指揮官につかせる事で成長または実力を見ている。素晴らしいことをすればエリートコースとして生きるだろう」

「私の記録がないからですか?」

「ああ。そうだ。お前は1度も軍大学に戦術に関するレポートがない。記録はあっても1戦だけ。それだけの記録では見分けがつかない。だから軍上層部は上は2つの可能性を考えている。策略家になるか謀略家になるかの2択の可能性を」

「……家族が私に暴力を振るってたことも。わたしがどのようにして切り抜けたのかも知ってると言うことなんですね」

「ああ。把握済みだ。その上で伸びしろのある謀略家の君に軍上層部は諜報員として軍に入れることにした。これがその書類だ」

黒柳さんは私に書類を渡した。私はそれを受け取った

「書類の提出期限はいつ頃で?」

「来週の月曜日だ。軍本部に来て俺の名前を出せば通してくれるだろう」

「分かりました」

「少なくとも俺自身はお前を有能だと思っている。本当の無能はさっきのような奴だからな」

「そうですね」


黒柳さんは軍本部へと戻って行った





きっと淡中さんは出世できないだろう

軍本部が直々に第3から第1に呼ぶほどの人間が無能であるなんてない。無能だったら第3に置いとけばいい。要は私は蝶にもなれるし蛾にもなれる


それさえも見分けられず罵倒した彼は私たちから愛想を尽かされた。彼はこれ以上出世はできない

黒柳さんがそれを許しはしない



可哀想なのは淡中さんの方だと気づくのはきっと死に際だろうね

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