混乱の街カンロの章 4-18
太守の館襲撃から三日が過ぎた。
あれ以降、私達はまだ館にいる。
黒幕とも呼んでもいい人物がまだ捕まっていない為、その人物を捉える為に兵達は捜索でその多くが出払ってしまっているからだ。
もっとも、まぁ、警戒はしているとはいっても、恐らく裏組織が動く可能性は低いと思っている。
すでに彼らの依頼人であるラバハット・リンべラーゼンの財産は没収され、指名手配されてしまっている。
だから、いくら繋がりがあるとしても普通の人間なら巻き込まれるのを恐れて手を貸したくないだろうし、裏の連中ももう返り咲くのは難しいこの人物に手を貸すことはないだろう。
今回の件は、裏の組織にしてみれば、依頼であり、自分達のプライドやらが傷つくわけではない。
そうなってしまうと連中は損得勘定にシビアになる。
無償なんてものは、世の中に存在しない。
何かしらの利益がなければ、何も起こらないのだから。
だが、可能性が全くないわけではないし、何が起こるかわからない以上、用心に用心を重ねておくに越したことはない。
そして、そうこうしているうちに三日が経っていた。
ただ、警戒していた私達と違い、ミサはとんでもなく忙しそうだった。
関係者の洗い出しから始まり、その人物の確保。資産の凍結と没収とやる事は山盛りであり、事務処理能力を買われて、私とミルファも駆り出される始末であった。
もっとも、その分は別料金をいただくけど……。
だが、そのおかげで反領主派の勢力はその力を大きく失っていった。
リーナの用意した証拠と情報を元に芋づる式で捕まっていく様は、いかにリーナの用意した証拠と資料が大きかったのかがよくわかる。
ともかくだ。
時間が経つごとに、ミサが狙われる可能性は低くなっていったのである。
そして、四日目の早朝、待ちになっていた報告が来た。
もっとも、捕獲ではなかったが。
街の近くの森の中でラバハット・リンべラーゼンとその側近たちの遺体が見つかったのだ。
死体は、動物たちに食い荒らされていたものの、まだ原形はとどめており、間違いないという事だった。
その報告に、リーナはぼそりと言う。
「恐らく、裏組織も持て余したんでしょう。自分らに火の粉がかかる前に始末した可能性が高いでしょうね」
「やっぱりそうなるのか……」
私がそう言うと、ミルファがニタリと笑う。
「私はそれだけじゃないと思うけどね」
その言葉に、思わず聞き返す。
「どういうこと?」
私の問いに、ミルファだけでなくリーナもくすくす笑っている。
「えっと……二人にはわかってるの?」
その言葉に、ミルファは笑いつつ言う。
「アキホは、相変わらず自分の立場をわかっていないわね」
「そうですね。でも、そんなところもアキホらしいですけど……」
リーナがそう言う。
「どういうことよ?」
少しムッとしてそう言うと、ミルファがポンポンと私の肩を叩いて言う。
「アキホは、ナグモの一族で、今回も色々活躍した。つまり……」
「ナグモが介入してくるかもしれないと思ってるわけ?」
「そう言う事」
だが、それはおかしい。
だって、私は南雲さん達とは直接つながっていない。あくまでも、南雲さんが気を利かせて、私の立場をよくするために、ナグモの一族だと言っているだけである。
つまり肩書だけであり、実際に南雲さん達を動かすことも何かやらかす実権もなにもない。
「だけどね、アキホの事情を分かっていない人から見たら、アキホはナグモの関係者で、裏で繋がっているとしか見えないのよ」
ミルファの言葉で、何となくわかった。
そういうことか……。
私はため息を吐き出す。
そして、首から下がっていて服の中に入っている南雲さんからもらった身分証明のプレートを服の上からポンポンと叩いた。
心配してくれるのはうれしいんですけど、すごく重い気がしますよ、南雲さん……。
で、困ったような表情をしていていたらしく、私の顔を見て、ミルファとリーナが笑っている。
それをみて、まぁいいかと開き直ることにした。
だってさ、ミルファだけでなく、リーナもあんなに楽しげに笑っているんだもの。
それで良しとしておきましょうか。
それと気になっていたもう一つの点。
後藤義明と名乗る男との戦いにおいて角が実体化したのではないかという事だが、どうやら実体化まではしていなかったようだ。
ノーラもシズカも気が付いていないみたいだったし、ミルファもそんな事はなっていなかったわよと教えてくれた。
どうやら、戦いに集中しすぎて気の流れに敏感になり、また鬼故によりはっきりと角の存在を感じた為ではないかと思われた。
どちらにしてもよかったわ。
私が鬼であるという事は、ミルファ以外はまだ知らない。
いつかは言わなければならないにしても、まだ私自身、とても怖くて言えなかった。
だから、これからの十分知友いしていかなければならない課題である。
そして、死体発見から二日が経ち、街は完全に落ち着きを取り戻し、治安が回復していった。
反領主派は、そのほとんどが犯罪者として捕縛され、または追放された。
そして、それと同時に、股の不正役人たちも少しずつ入れ替えられていく。
こうして、ミサはやっとこの街、カロンの領主としてきちんと手腕を発揮できるようになったのである。
いやはや、めでたい、めでたい。
だが、それはミサの私達への依頼の終わりであり、この街に留まる理由がなくなった事でもあった。
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