混乱の街カンロの章 4-16

会議室では、次々と指示が出されていく。

さっきまでとは違い、今は全員真剣と言うか、必死になっている感じで指示を受けている。

まぁ、自分の今後がかかっているのだ。

そうなるよねぇ。わかるよ、うん。

だけど、それと同時にほっとしていた。

これならきちんとやってくれるでしょう。

私はそれを見てそう思ったが、それでも油断できないのだろう。

ミサの指示を受けて、各部署にはそれぞれ監視員が派遣される。

もちろん、その部門の幹部の方が階級は高い。

しかし、暫くの間は、監視員に領主命令として特別指示権を与えているし、彼らの報告一つで自分達の今までの悪事を公にして叩き潰されるという恐怖もある。

こういう方法は、確かに長期にわたっての管理は厳しいかもしれないが、今回のような短期では有効な手だ。

そして、落ち着いてから少しずつ膿をだして改革していけばいけばいい。

大体、歴史を見たらわかるが、一気の改革など、反発と恨みと血を生み出しかねないものだから。

それを考えれば、今回は上々の結果と言えそうだ。

ふぅーと息を吐き出す。

さて、これで道化の役は終わったわ。

ほっとして近くの椅子に座る。

気が付くと指示を受けた幹部たちは次々と退出していく。

さぁ、こっから大取物が展開するのだ。

忙しくなるだろう。

まぁ、これでうちらの役割は終わり、あとはミサの手腕を見せてもらおうかなと思っていたら、いつの間にか、会議室は私とミサ、それにランドルの三人だけになっていた。

そして、ミサが駆け出してくると私に抱きつく。

その表情は達成感に満ち満ちていた。

「やったわ。さすがはアキホね」

「お互いにうまくやったよね。ミサもいい感じでいけたと思いますよ」

お互いに互いの健闘をたたえ合う。

「しかし、こうもうまくいくとは……。信じられません」

ランドルの感情を出さないような鉄仮面が外れ、ふーっと息を吐き出している。

内心、冷や冷やだったのだろう。

まぁ、わかる気がする。

うまくいかなかったら、さっさとここを離れればいい私達と違い、ミサもランドルもそうそうここを離れるわけにはいかないのだから。

なぜ、二人がここまで安堵しているのか。

それは理由がある。

リーナの持ち込んだ証拠は、実は不完全なものでしかなかった。

元々、時間が足りない上に、急変で見切りで先行したのだ。

そんな有様で、必要とされる者達の悪事の証拠がそろっている訳はない。

つまり、現時点では、一部の者達を除き証拠は集まっていないのである。

では、どうするか。

やる事は一つ。

ネームバリューとはったりをうまく使うしかなかったのだ。

法を軽視し、悪事を働くものに対しては疫病神として名高いナグモのイメージと一部の証拠を淡々と名前を伏せて上げていき、何でも知っているのよというはったりを利かせたのである。

まぁ、詐欺みたいと言われればその通りなのだが、後ろめたい事がある彼らには効果抜群であった。

しばらくお互いをたたえ合った後、部屋を移動して私とミサは紅茶を楽しみつつ今後のことを話す。

「で、連中はどう動いてくると思う?」

私の問いに、ミサは少し考えた後、口を開いた。

「そうね、今頃捕り物が始まって、連中、身一つで逃げるので精一杯でしょう。そうなると頼るのは裏組織の連中でしょうか」

その言葉に私は頷く。

ここまで手詰まりになると連中の打てる手は極端に少なくなる。

その上、この追い詰められた状況をひっくり返すにはよほどの策か、後は実力行使ぐらいしかないだろうが、その実力行使する連中の幹部や拠点はすでに私達によって潰され、捕まっている。

こうなるともっとも劇薬である裏組織に頼るしかない。

彼らにしてみても、出来る限り手は借りたくなかったはずである。

彼らの手を借りることは、その分の見返りがとんでもない事になりかねないからだ。

だが、今の彼らはそんな事を言っている余裕も時間もない。

「やっぱり、ここを襲撃してくるかしら」

私がそう言うと、ミサは頷く。

彼女の忠実な部下達の多くは、捕り物の監視に向かう為、ここが手薄になっているからだ。

「ふう……」

私は息を吐き出すとミサを見る。

「護衛料は、ちゃんといただくわよ」

私がそう言うと、ミサは笑って言い返す。

「もちろん、お友達価格でいいわよね?」

そのしたたかな言葉に、私は苦笑するしかない。

「わかったわ。それでうちの仲間は?」

そんな言葉に、ミサは益々楽しげに笑って言う。

「もう手配してるから問題ないわ。すぐに来るわよ」

その言葉に、なんか違和感を感じたが、些細なことだと思って気にしないことにした。

「そう。なら……」

そう言いかけた時だった。

バンっと扉が開かれたのだ。

「は~いっ。アキホ~っ」

ミルファを中心に、うちのチームの面子が現れたのだ。

えっ、ちょっと早すぎない?

そして、ある事に思考が働いた。

まさか……。

恐る恐る聞く。

「えっと、みんなはいつから……」

ふふっ。ミルファが笑って答える。

「最初から」

「えっと……」

「だから、最初からっ」

くすくすと笑う声が部屋に響く。

「アキホ、かっこよかったですよ」

リーナが最近よく見せるようになった楽しげな表情でそう言う。

「おうよ。あの見えの切り方っ。いい悪役になれるぜ」

そう言ったのはノーラだ。

私は悪役になりたくてやったんじゃないやい。

まだ、かっこいいっていうリーナの方が受け止めれるわ。

ノーラの言葉に、サラトガも楽しげに笑った。

「おうよ。中々の悪役ぶりだ。あんなのされたら、普通の男はぶるって何も出来ないし近づこうとも思わないだろうぜ」

あのー、それって少しきついんですが……。

男に相手にされないって聞こえるみたいで……。

そして、シズカは、みんなの言葉を聞きつつ、何も言わず私を可哀そうな人を見る目で見ている。

ちょっと、それが一番きついんですがっ。

頼むからそんな目で見ないで。

そして、唯一の私の真の友であるニーは、私の身体を駆けあがってくると頬をぺろぺろ舐めて唯一慰めてくれる。

そんな私とチームの様子を見て、ミサは実に楽し気に、そして羨ましそうに見ていたのであった。



捕り物は一気に進められた。

時間が夕方から夜にかけてというのもうまくいった要因だろう。

仕事も終わり、誰もが落ち着き、ほっとする時間帯であるからだ。

もっとも、これから働く人や残業だったりする人もいるが……。

ともかく、順調に進み、多くの関係者は抵抗らしき抵抗も出来ず捕縛されていった。

もちろん、薄汚く罵り、文句を言うものも多かったが、弱みを握られている各部署の幹部たちは、命令をきちんと遂行するしかなく、色々言われたくない為に、猿轡をして連行する者もいたほどである。

まぁ、連行中に声高らかにいろいろ言われてしまっては、彼らの立場も吹き飛んでしまう可能性さえあったためである。

次々と入ってくる報告に、ミサは満足そうであった。

「ふふっ。これでほとんどの首謀者を捉えましたね」

「しかし、一番の大物が……」

ランドルがそう言うと、他のミサの腹心たちも頷く。

未だに捕縛できない首謀者。

ラバハット・リンべラーゼン。

カンロ一の地主であり、カンロを中心に展開するリンべラーゼン商会の主でもある。

ある意味、カンロの裏の支配者とも言われる大物である。

その人物が捕まっていないのだ。

時間だけが刻々と進んでいく。

そんな中であった。

「賊だっ」

そんな声と共に屋敷が襲撃されたのは。

そして、その襲撃者の中に、アキホを襲ったあの男の姿もあった。

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