混乱の街カンロの章 4-14
どうやら無事に終わったらしい。
出発した翌日の夕方に、ランドル達が帰ってきた。
誰も怪我はしていないようだ。
彼らは、味方の少ない私達の貴重な戦力であり、同士なのだ。
そんな彼らが無事帰ってくる。
それだけでも少しほっとする。
その上、先行して帰って来た者の報告では、かなりの証拠と証人を手に入れたらしい。
だが、実際に会ったランドルの様子がおかしかった。
何か思いつめたような表情をしている。
何かあったのだろうか。
捉えてきた者達を屋敷の地下牢に牢獄し、手に入れた証拠を地下の秘密の部屋にしまう。
全てを終わらせて報告に来たランドルに私は尋ねた。
「どうしたの?何かあったの?先に受けた報告では大成功だと聞いたけど……」
私がそう切り出すと、ランドルは私を見て口を開く。
「やはり、ミサリナ様の言う通りでした」
彼はそう言って、今回の事を報告し始めた。
その報告に、私だけではない。
その場にいた者達は、全員が唖然させるものであった。
そして、最後にランドルは「あれがナグモ一族の力とかと……痛感させられました」と締めくくった。
彼は、最初、アキホ・キリシマを軽視していたはずだ。
その彼がここまで言うという事は、恐らく報告で言った以上の事をやったんだろうと思う。
とんでもない相手だ。
そう痛感した。
しかし、どうやら彼女は、我々に力を貸してくれるという事らしい。
実に頼もしい限りだし、今回も彼女のおかけで私達は手札を一枚手に入れた。それも強力なものを。
だが、それだけでは足りない。
なんせ、私達が保有する手札は余りにも少なすぎるのだから……。
「ふうっ。帰って来たーっ」
途中の街道でランドル達と別れ遅れて街に入った私達は、門番の人と確認を済ませると宿に向かう。
今日は、さっさと休もうかな。
なお、お昼は腕によりをかけて作ったおかけで、昨日の晩から不機嫌全開だったノーラはすっかりご機嫌だ。
「やっぱ、アキホの料理はうまいよな」
余程気分がいいのかそんなことを話しかけてくる。
「誉めても何にも出ないよ」
私がそう言うと、「何も出なくていいよ。ただし次の時もうまい料理食わしてくれたらいいからさ」とか言っている。
「まぁ、私も美味しい料理の方がいいからね。出来る限り頑張るけど、どうしょうもない時は……」
そう言ってちらりとミルファを見る。
それでわかったのだろう。
ノーラが苦笑して笑う。
「ああ、その時は我慢するさ。それに今回みたいに次に奮発してくれるんだろう?」
やっぱり美味しく食べてくれる人がいるっていのは、料理を作る人にとってやりがいを感じさせる。
だから、即答で返事をする。
「ええ。もちろん」
その私の答えにノーラは満足そうに頷くと、ちと寄るところがあるからといって大通りの方に向かっていった。
「ありゃ、屋台の食い歩きって感じかしらね」
ミルファが苦笑してそう言う。
うん。私もそう思う。
確か彼女お気に入りの串焼きの屋台がまだやっているはずだ。
そんな事を思っているとミルファがつんつんと私の手をつつく。
「で、私の方を見てたのは、どういう理由からかしら?」
そう聞かれ、私は慌てて誤魔化す。
「いや、大したことじゃないのよ、本当に」
「本当?」
「本当、本当っ」
疑う様な表情でじーっと私を見た後、ミルファは苦笑する。
「まぁ、大体想像できるけど、アキホが必死に誤魔化すことで許してあげましょう」
そう言ってくすくすと笑った後、フリーランス組合に向かいつつミルファがぼそりと言う。
かなり小声だ。
「で、あれでいけると思う?」
そう聞かれ、私はふーとため息を吐き出して言う。
「無理かなぁ……」
「やっぱり?」
ミルファも同意見のようだ。
「やっぱり、アキホの言う通り、現場を従わせる手札が必要よね」
「ええ。でも私達ではそれは何とも出来ないのよね」
私の言葉に、ミルファもため息を吐き出す。
私達が用意できたのは、あくまでも反領主側が法を破り、裏組織と手を組んでまで行政を妨害していたという証拠だけだ。
しかし、その証人も証拠も領主自らが管理しなければ、うやむやにされてしまう可能性があるという状況。
さて、どうするかなぁ……。
私が言った領主側に必要な3つの手札の内、二枚がまだ入手できない。
恐らく、時間はそうない。
今回の作戦が失敗したときかづいたら、反領主側は、証拠隠滅に動くだろう。
そうなってしまっては、今手にした手札も効果が半減してしまう。
何事も賞味期限があるのだ。
永遠なんてものはないのである。
フリーランス組合で依頼完遂を報告し、金額は明日支払うという事で話をまとめて、私達は宿に戻ってきた。
宿屋の一階の食堂では、もう日が暮れかけているという事もあって結構なお客でにぎわっている。
「よう、お帰りっ」
そう言って手を上げたのはサラトガで、その横にはシズカがちらりとこっちを見た後も黙々と食事をしている。
流石は、食欲魔人二号。
もっとも、某仮面なんとかの特撮ヒーローとは属性は逆。
某仮面なんとかは技の一号、力の二号だったが、こっちの食欲魔人は馬鹿力(ちから)の一号、薬技(わざ)の二号だけど……。
ともかく、一緒に食事をとりつつ情報交換をする。
どうやら、サラトガは反領主ではない商人や住民たちと連絡を取り合い、色々やってくれたようだ。
シズカはシズカで反領主派の動きを調べてくれていたようで、その結果、連中はまだ手駒の連中が捕まった事も、証拠を押さえられたことも知らないようだった。
「うーん。連中が失敗を知って尻尾切りする前に何とかしたいわねぇ……」
私がそう呟くと、ミルファがポンポンと慰めるように肩を叩く。
「世の中、早々思う通りにはならないって」
そう言うと、サラトガも苦笑する。
最初の頃の思い込みの強い彼女の様子はもうない。
あの後の話し合いで吹っ切れたんだと思う。
そんな様子を見つつ、シズカは黙々と食べている。
あ、おかわり頼んでる。
彼女とは絶対割り勘とかしない。
そんな事を思っているといきなり後ろから近づいてくる相手に抱き締められた。
殺気も何もなかったから油断していたけど、それでも感知できなかった。
「だ、誰っ」
私がそう言って振り向くと、そこには嬉しそうに顔を摺り寄せるリーナの顔があった。
「え?」
視線をリーナから前に向けると、してやったりという顔をしているミルファとサラトガ。
そして、我関せずとばかりに食べているシズカが目に入る。
要は、近づいているのに気が付いていたが、黙っていた方が面白そうという判断をしたんだろう。
くぅぅぅぅぅっ。
なんか悔しい。
でも、それ以上にうれしかった。
「お帰りっ。リーナっ。でも帰ってくるのは……」
私の言葉に、ふーと息を吐き出して「アキホ成分補充終わり」とか呟いてリーナが離れる。
そして、私の隣に座ると口を開いた。
「いや、色々噂を聞いてね。前倒しで動いたんだよ」
「それで……」
私が思わずそう聞くと、「あー、それは後で。私お昼抜きなのよね」と言って女給に注文を始めたのであった。
その夜、みんな宿屋の私の部屋に集まった。
勿論、馬車の警戒の為にカラワンとモーガンの二人はここにはいないが。
まぁ、そんな用事がなくても女性の部屋に男性を、それも夜に呼んだりしませんけどね。
ミルファが消音の魔法陣を用意していく。
いやはや、密談の際に必要必須魔法になってますね。
魔法が使えたら、真っ先に覚えたいやつだな。
そんな事を思っていると準備が終わったのか、ミルファが頷く。
「では、始めましょうか」
こうしてまずは情報共有を始める。
特にリーナは全く情報がない有様だったから、きちんと伝えておく。
小さな情報の違いが、大きなミスになりかねない場合も多々あるからだ。
その辺はしっかりとやっておく。
するとミルファがくすくすと笑っていた。
どうやら南雲さんと似ていたらしい。
まぁ、あの人も私と同じですからねぇ。
情報の大切さと共有の重要性は、情報化社会であるこっちではかなり大切であるのはわかっているのだろう。
で、そこまでいった後、今度はリーナが口を開く。
向こうで手に入る情報は、かなりごちゃまぜで、虚実が交じり合っているという事がわかる。
だが、それでも一つわかっていることは、領主側には時間がない事だ。
あまりにも争いが続くようなら、父親であるカルスト男爵が動くという話まで出ている。
恐らく、この話は本当だろう。
いつまでも自領で争いが続くようなら、他の貴族や王族が介入してきてもきてもおかしくないからだ。
かなり不味いわね。
そんな私に、リーナはバッグの中から書類の束を手渡す。
「時間内に何とかなったのは、これだけ……」
ざっと書類に目を通す。
なるほど、なるほど……。
少し考える。
ミルファがちょいちょいと指を動かす。
書類を見せろという事らしい。
書類を手渡すと食い入るように見ていたが、渋い表情だ。
そう。この資料はよく出来ている。
だが、あくまでも一部の者達のものだけで、現場の不正全てではない。
うーん、どうしたものか……。
そんな事を思っていたら、ミルファが何か思いついたらしい。
ニタリと嫌らしそうな笑みを浮かべてこっちを見ている。
ち、ちょっとまって……。
もしかして、私に何かさせる気?!
そんな私の表情でわかったらしい。
「やっぱりこういうのは、やり方次第よね」
そして、ミルファは、方法を説明した。
「えーっそれ……」
私がそう言いかけるも、ミルファは私に顔を近づけて言う。
「時間がないんでしょう?」
くーっ。圧をかけてくる。
そんな私とミルファの駆け引きを、他の面子はクスクスと笑って見ている。
誰も止めてはくれないらしい。
えーいっ。いいわよ。わかったわよ。
女は度胸だっ。
「いいわっ。やりましょうっ」
私が開き直ってそう言うと、ミルファが「そうこなくっちゃ」とか言って笑っている。
他の連中もよかったよかったという流れだ。
くうううっ。
私の味方は、誰もいないのっ。
そんな私に、ニーは肩まで登ってくると慰めるように頬をぺろぺろと舐めたのであった。
やっぱり、真の友は君だけだよ、ニーっ。
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