混乱の街カンロの章 4-13
見張りを無力化し、拘束して木の陰の方に運び込む。
もちろん、猿轡をしてだ。
運んだのは、ノーラと兵士の皆様。
どうやら中の連中は気が付いていない。
で、ドアの隙間からニーを侵入させる。
密告書には、空気穴以外にも人一人が通れる程度の裏口があるらしいのでその確認である。
ニーが私の話を聞いてコクコクと頷くとパッと中に入っていく。
その様子を同行していたランドルが驚いた顔で見ている。
どうやらニーが私のいう事を理解して行動するのが信じられないらしい。
ふふんっ。
私は心の中でニヤリと笑う。
うちの
うちの
そんな事を思っているとニーが返ってくる。
そして、コクコクと頷いた。
どうやら密告書の通り裏口があるらしい。
「ミルファ、こっち御願いしていい?」
私がそう言うと触媒の準備をしつつミルファが頷く。
「わかったわ。ノーラもいるし、罠も仕掛けるからこっちは大丈夫よ。それより……」
ミルファが顔を上げて私を見ると言葉を続けた。
「そっちは一人で大丈夫かしら?」
「裏口の方から煙を発生させるつもりだからね。そっちに追い込む形だから大丈夫だと思うわよ。それにニーもいるもんね」
私の言葉に、ニーが私の肩に乗って頷いている。
かわいいのう。
しかし、段々人と変らないように思えてしまうのは、気のせいだろうか。
ともかく、そんなにニーの様子にミルファは苦笑し、「ニーがいるなら、アキホも無茶しないか」と納得した表情になる。
おいおい、なんですかそれは……。
まるで人を暴発すること前提で話をしてませんか?
いや、確かにこっちに来てから、なんか暴走気味だし、色々やっちゃってるけどさ。
そこまで言われるといと悲し。
文句言いたそうな私をスルーしてミルファが指示を出していく。
確かにこっちの指揮を任せたけど、完全にこの場をミルファが仕切っていた。
おいっ。リーダー私なのに……。
そんな事を思っていると、ミルファが「ほれ、さっさと行ってよ、アキホ。時間ないんだから」とか言ってくる。
最近、私の扱い、雑じゃない?
まぁ、いいんだけど、もう少し労りが欲しい。
そんな私をニーが頬をぺろぺろ舐めて慰めてくれる。
うんうん。私の真の友はニー、君だけだ。
アキホが肩にニーを乗せて裏口に回っていく。
勿論、発煙材を手渡してからだ。
少し拗ねた様子に、私は思わす心の中で笑ってしまう。
アキホは、親しくなればなるほど構って欲しがる傾向があるようだ。
まぁ、無理もないか。誰も知らない異世界に呼び出され、元の世界に戻れないのだ。
どうしてもそうなってしまうのかもしれないな。
そして、エルフの里を飛び出し、人の世界で生活し始めた頃を思い出す。
仕方ないな。この仕事が終わったら、たっぷりかまってやるか。
そんな事を考えつつ、指示を出す。
まずは、洞窟の入り口のドアの側にロープを幾つか張り罠を用意しておく。
そしてそのわきには、兵士とノーラが待機。
飛び出て罠にかかってひっくり返った相手を次々と無力化させていくという形だ。
もちろん、逃がさない。
そのために入り口近くは敢えて薄暗くなるように魔法をかけている。
くーっ。光を吸収して暗くするなんて魔法、それこそあまり使わないから触媒高かったんだよなぁ。
必要経費で交渉しようかな。
そんな事を思っていると準備が終わる。
後は、裏口に向かったアキホがニーを使って火事騒ぎを起こせばスタートだ。
十分後、暗くなってしまった為によくわからないがうっすらと煙が夜空に流れる。
そして、叫び声が響いた。
「火事だぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
なかなか鬼気迫る感じの迫真の演技である。
まぁ、声だけなんだけどね。
その言葉と煙が洞窟内に充満していくのにパニックになったのだろう。
声が女の声と気が付かないまま、中にいた連中が慌てて外に出ようと駆け出してくる。
きたきたっ。
バンとドアが開き、外に逃げ出す男達。
そして、足元のロープに引っ掛かってドミノ倒し状態である。
いやはや、これは面白い。
やられてる方はたまらないのかもしれないが、仕掛けた方は実に楽しいし、気軽だ。
折り重なって倒れている男達に、ノーラがハルバード、兵士達が剣を突き付ける。
人数的にはどう考えても相手の方が倍以上いるはずなのに、最初から心が折れたのか、或いは意気地がないのか、煙を吸って意識がもうろうとしているのか、ともかく抵抗らしき抵抗もなく連中は武装解除され拘束されていく。
いや、いいんだけどね。ただ一言言わせてもらうとパンパドラの方が抵抗するぞ。
あっちは死に物狂いで。
つまりだ。こいつらは、パンパドラ以下って事でいいのかな。
そんな事を思っていたら、ノーラが実に不満そうな顔をしていた。
そして、こっちをチラチラ見ている。
駄目です。どうどう……。
なんか、猛犬を抑え込んでいる心境だ。
あー、夕食が不味かったのと、暴れられなくて機嫌が悪いんだな。
でも仕方ないじゃないの。ここまでガッチリ決まるって思わなかったんだから。
文句はアキホに言って欲しい。
そんな事を思いつつ、私は戦意を無くして唖然としている連中の拘束を手伝うのであった。
そして、作戦開始から20分が過ぎた。
もう終わりかと思っていたらドアが開いた。
「ストーップ。私、私だって」
そう言って出てきたのはアキホだった。
どうやら中の煙は空気穴からもう流れてしまったらしい。
それで、残った者がいないかアキホはチェックをしてくれていたようだ。
「中はもう誰もいないわね」
アキホはそう言うと手招きをする。
「中々面白いもの見つけたわよ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるアキホ。
拘束した連中の見張りをノーラと兵士達に任せて、私とランドルの二人で中に入る。
中はいろいろ改築されている。通路に部屋と言って感じの区分がされており、家とかよらない監視だ。ドアがある以外、自然の洞窟っぽい感じの外見に比べて結構手間暇かけて作ってある感がする。
「お金かかってるわねぇ。ちょっとした避暑地が狩り用の宿舎みたいじゃない」
思わずそう言うと、ランドルもそう思ったのか頷いている。
でいくつかの部屋を抜けて、案内されてのはある程度大きな会議室みたいなところだった。
テーブルにいくつかの椅子。中央には魔法のランプが釣り告げられて灯って部屋を照らしている。
「これよ……」
アキホが指さしたのは、テーブルに広げられた地図といくつもの封筒に紙である。
どうやら指示書と今回の騒動の配置のようだ。
そして、指示書には、ご丁寧にサインまで入っている。
で、部屋の片隅には棚があり、そっちにもいくつか紙の束が重ねて入れてあった。
どうやら、ここが連中の実行作戦室らしい。
まぁ、実際にやるのは郊外だし、街中でこういった施設を用意していたら何かの間違いで抑えられる恐れがあるからなぁ。
それを考えれば理に適っている。
恐らく、密告書がなければ見つからなかったかもしれない。
その点はありがたいのだが、疑問が一つある。
なぜ、あの男は、私にここを教えたのだろうかという事だ。
どう考えても領主側の動きや対応を考えれば、そっち側のスパイとは思えない。
なら、あの男はどの勢力か。
そして、今回の事で我々に手を貸すことでの利点は何だろうか。
ちょっと考え込むが、今考えても答えが出るはずもない。
そう割り切ると私は、アキホとランドルと一緒に書類のチェックを始めたのであった。
アキホとミルファの二人が次々と書類チェックを進めている。
もちろん、自分も必死でやっているが、とてもじゃないがその足元にも及ばない。
二人の事務処理の高さはかなりのもので、恐怖さえ感じてしまう。
なせなら、うちのブレインの一人であり、書類処理の天才と言われているラカバンヤよりかなり早いからだ。
それでいて、適当に見ているわけではない。
証拠となりそうなものを抜き出しては、お互いに見せあって確認している。
こっちは元々デスクワークが苦手という事もあって遅々として進まない。
圧倒的な差を見せつけられた感じだ。
もちろん、これ以外にも、彼女らの手際の良さ、チームワーク、そして彼らの戦闘能力の高さ。
とんでもないレベルのものを見せつけられてしまった。
ここまで差を見せつけられると彼女がナグモの一族であり、彼女の仲間は彼女が認めた一流ぞろいであるという事が理解できた。
ふー。息を吐き出す。
そして、我が主の人を見る目がある事にほっとしてしまう。
敵にまわしてはいけない連中だ。
間違いなく、敵にまわしたら、こっちが追い詰められるだろう。
それを今回の事でつくづく感じた。
絶対に味方につけなくては……。
結局、三時間程度のチェックの結果、もうね証拠が山のようにで出来ましたよ。
いかに有力商人と地主が裏で色々やっているかが……。
そして、もう一つ。
今回の事件は、裏組織が関わっていることが分かった。
もっとも、向こうからちょっかいをかけた訳ではない。
こっちから話を持っていって協力をお願いしたらしい感じだ。
なお、それらの書類は、すんなりと見つかったわけではない。
それらの書類の入ったスペースは、本棚の奥に偽装され、ご丁寧に魔法でロックされていた。
普通だったら見つからないだろう。
しかしだ。
こっちには魔力や力の流れに敏感なエルフの魔術師であるミルファいる。
場の微妙な不自然な力の流れに気が付き、発見となったのである。
さすがはミルファだ。
うんうん。友人として鼻が高いぞ。
ほんのさっきまで真の友はニーだけだと言ったのは嘘だ。
うんうん。
そんな感じで一人突っ込みしていると、確認が終わって証拠をまとめて集め始める。
「これらの管理は、そっちに任せてもいいですよね?」
私がそう言うとランドルはびしっと背筋を伸ばして頷く。
なんか、出会った頃に比べて態度変わってないかな。
そんな事を思いつつミルファを見るとミルファは苦笑している。
まぁ、いいんだろう。
気にしたら負けだ。
そう思う事にするのであった。
アキホ達が密告書でアジトを襲撃していた頃、リーナは荷物をまとめると預けてあった馬にまたがった。
すでに夜の帳が降りてきていたが、少しでも時間を稼ぎたいと思い、出発する事にしたのだ。
「リーナ、気を付けて行ってこい」
そう言ったのは、かっての私の直属の上司であり、チームのリーダーだった男だ。
流石に親父さんは見送りにこれなかったようだ。
まぁ、こっちが無理難題を押し付けた結果、その分余計なことに手を回さなきゃならなくって今頃はてんてこ舞いの有様だろう。
「親父さんにすみません。お世話になりましたって伝えてもらっていいですか?」
私の言葉に、リーダーだった男はニタリと笑った。
「どうした?えらいしおらしいじゃねぇか」
揶揄う様な口調に、思わず言い返す。
「そんなんじゃありません。でも……」
そう言って言葉を繋げようとした時だった。
リーダーだった男は笑って言う。
「あれで親父さんは喜んで楽しんでいるんだよ。だから気にするな」
その言葉に、私は頷く。
「はい」
「じゃあ、頑張って来いよ。お前が認めた友の為にな」
その言葉に、私は強く頷いた。
「はいっ」
こうして、私は馬を駆る。
友であるアキホの元に戻る為に。
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