記憶の砂

夜寝るときに必ず考えることがある。

私の名前はエッカルト・ゼルトマン。

ユイコ君を引き取って以来、私は彼女に海のことや夜空の星座について詳しく教えた。

ユイコ君は今年で17歳になる。

彼女は好奇心旺盛で根は純粋だ。

私は彼女と二人で話していると、彼女は必ず自嘲的に笑いながら言った。

「ゼルトマン博士、私は親に捨てられたんです。捨てられるようなことを過去にしたのかもしれません。まあ、これは運命なのかもしれませんね…」

彼女は苦笑いをしながら私を見つめた。


その夜、ゼルトマン博士は怪しいアイス売りの男と話した。

ゼルトマン博士は白人の太り気味の男性だが、このアイス売りの男は国籍が不明だ。

「今の話は聞かなかった事にしろよ」

男は勿体振った言い方でゼルトマン博士に話す。

「パラオにジェリーフィッシュレイクっていう場所がある。俺は一度だけ行ったことがある。あんたみたいな偏屈研究家はクラゲとかに興味ないと思うが…」

「クラゲもアザラシも海洋生物だ」

「そのパラオの湖に棲むクラゲが特殊なんだよ。この湖ができたのは1万年以上も前だ。外海と遮断されちまったため、取り残されたクラゲたちはこの湖で天敵がいなくなってしまったんだ。そのため、この湖に棲むクラゲは独自の進化を遂げ、毒が退化してしまったってわけさ」

それについてはハワイモンクアザラシも同様である。

アザラシはほとんどの種が寒冷水域で暮らしているが、ハワイモンクアザラシは熱帯で暮らす珍しいアザラシである。彼らの生息域はハワイ諸島の北西だ。その小さい島々や環礁は、まったくの無人かほとんど人間を寄せ付けない場所であり、豊かなサンゴ礁に囲まれ、アザラシにとって格好の狩猟場所となっている。彼らは狩りの名手で、魚やイセエビ、タコやウナギを捕って食べる。ほとんどを海で過ごすが、時には浜辺に上がって休息したり、嵐の日には海辺の植物を使って雨風をしのいだりすることもある。

パラオのクラゲにしろ、ハワイモンクアザラシにしろ、独自の進化を遂げた。

アイス売りの男はゼルトマン博士の顔を覗きこむ。

(なるほど…。こいつはただ者じゃねーな…)


2019年インド

インドの金融都市ムンバイにゼルトマン博士はいた。

此処はインドか…。

立ち並ぶビル群を見上げては歩く。

シヴァ。

伝説のラピスラズリの記述は古代インドの文献にもある。

ヒンドゥー教の最高神であるシヴァ神がヒマラヤでの苦行中に伝説のラピスラズリの輝きを見たという。

真相は闇の中だが、伝説のラピスラズリとシヴァの関係は確かにあった。


余談

『リグ・ヴェーダ』では「シヴァ」という言葉を見つけることもできます。これは単純に「慈悲深い、吉祥な」という意味での添え名として使われているにとどまり、ヴェーダ時代の様々な神に対して使われる修飾辞のうちのひとつです。一方、ヴェーダ時代の文献では天候に関係し、恐ろしい力を持つルドラという神について言及されています。






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