未完のラピスラズリ

タラゴン

眠れる者

2021年8月ハワイ

2021年6月27日時点で、直近1週間(6月21日~27日)の新規感染者数は260万人以上が報告され、新規死亡者数は5万7,000人以上が報告された。前週と比較して、新規感染者数は同程度、新規死亡者数は10%減少した。2020年11月初旬以降の報告において、最も少ない新規死亡者数となったが、世界的に見ると、COVID-19の発生率は依然として非常に高く、過去1週間で毎日平均37万人以上の感染者が報告されている。これまでに全世界で報告された感染者の累計は1億8,000万人を超え、死亡者の累計は約400万人となった。

アフリカ地域では、前週と比較して新規感染者数が33%、新規死亡者数が42%と大幅に増加した。また、東地中海地域とヨーロッパ地域では、新規感染者数が増加した。アフリカ地域を除く全ての地域で、過去1週間の新規死亡者数の減少が報告された。

直近1週間における新規感染者数が多い上位5か国は、ブラジル(新規感染者数521,298人、3%増加)、インド(新規感染者数351,218人、12%増加)、コロンビア(新規感染者数204,132人、5%増加)、ロシア連邦(新規感染者数134,465人、24%増加)、アルゼンチン(新規感染者数131,824人、11%減少)だった。また、過去1週間で人口10万人当たりの新規感染者数が最も多かったのは、セーシェル(708人)、ナミビア(509人)、モンゴル(491人)であった。


懸念すべき変異株(VOC)の状況について、アルファ株は172の国・地域(前週比+2)、ベータ株は120の国・地域(前週比+1)、ガンマ株は72の国・地域(前週比+1)、デルタ株は96の国・地域(前週比+11)で、それぞれ報告されている。各国の検査能力の向上やデータ収集が強化されている影響もあり、VOCを報告する国や地域が増加し続けている。アルファ株の報告が続いている一方で、デルタ株の拡大が進んでいる。


私はスマホでコロナのニュースを見て溜息を吐く。

この研究所にもコロナの影響のせいか六人の研究家達が離れていった。

この研究所にいるのは私とゼルトマン博士だけだ。

私の住む研究所は海の近くにある。

遠くのビーチにはハワイモンクアザラシが生息していて立ち入り禁止だ。ゼルトマン博士はハワイモンクアザラシを保護したいと考えていたが…コロナが流行っていたので仲間の研究家達から反対された。

私はハワイモンクアザラシを見たことがない。

[ハワイモンクアザラシはすでにハワイ政府のもとで保護されている。ゼルトマン博士だけが保護するのは法律に背く]

私の名前は本城ユイコ。

日系人の子孫でハワイに住んでいる。12歳を過ぎてから私は父の離婚でゼルトマン博士の研究所で暮らすことになった。

いわば居候である。

ゼルトマン博士は変人で有名だった。偏屈で頑固なゼルトマン博士は初老の太り気味の男だ。

「うちにはろくなもんがありませんからね。ユイコも承知した上でここに来たんですよ」

父は陽気に笑いながらゼルトマン博士に事情を話した。

「女房と別れてからユイコ1人育てるのは経済的に苦しくて…ゼルトマンさんなら大丈夫かと思いまして」

ゼルトマン博士はビールを飲みながら言った。

「ユイコ君は偉いですな。分かりました。ユイコ君を預かりましょう」

何が偉いのか。私には全然わからなかった。


あの砂浜にはウミガメがいる。ウミガメの産卵地でもあるこの砂浜は有名だ。ゼルトマン博士は朝からずっと寝ている。

あの人は研究者なので別にいいが。

私はビーチサンダルを脱いで砂浜を歩くことにした。ウミガメの赤ちゃんらしきものが目の前を通らなきゃいいのだが。

女の子1人が砂浜にいるのはおかしいだろうか。例の男の人と会いませんように、と私は心の中で唱えた。

例の男の人は茶髪でつり目の感じ悪い人で話し掛けにくい。

私はウミガメの巣を発見した。ウミガメの巣から二匹の小さなウミガメの赤ちゃんが出てきたのを間近で観察した。

二匹のウミガメの赤ちゃんは海を目指す。

あんな小さな体で海へ進むなんて。

私はウミガメの赤ちゃん達を見送ることにした。


転生したいなら私はイルカになりたい。

オアフ島の綺麗な海で自由に泳ぐイルカになりたい。

ゼルトマン博士はイライラしながら遠くの日本にいる友達と電話で話していた。

「え?いまだに私が日本の総理大臣を安倍晋三だと思ってるだって?

今は菅義偉だろう。君こそアメリカの大統領がいまだにドナルド・トランプだと思い込んでるんじゃないのかね?今のアメリカの大統領はジョー・バイデンだろう」

「コロナの時代になってしまったので総理大臣や大統領が代わるのはそうでしょう。それより、エルニーニョの研究のほうは?」

エルニーニョよりラニーニャだね、とゼルトマン博士は友人に言った。


5月のエルニーニョ監視海域の海面水温は基準値より0.5℃低く、ラニーニャ現象発生の判断に使用している5か月移動平均値の3月の値も基準値より0.6℃低くなった。4月に比べると基準値との差は縮小している。

海洋表層の水温は西部から中部にかけて平年より高く、東部では平年並だった。また、太平洋赤道域中部の貿易風(東風)は平年よりも強い状況が続いているものの、日付変更線付近の対流活動は平年並みとなっている。

このような海洋と大気の状態はラニーニャ現象発生時の特徴が不明瞭になったことを示していると考えられる。

ゼルトマン博士は抑揚のない声でラニーニャのニュースを見ていた。

ラピスラズリですよ、ゼルトマン博士。

秦の始皇帝から現代の権力者までを虜にした伝説のラピスラズリがあるらしいんですよ、ゼルトマン博士の友人は言った。

始皇帝、ドナルド・J・トランプ、エマニュエル・マクロン、習近平、ウラジミール・プーチンまでも魅了したあのラピスラズリだ。

ゼルトマン博士は宝石に興味がない。

私にとって宝石は魅力的なものなのだが。



余談

伝説のラピスラズリは架空のものであり、実在しません。

始皇帝が不老不死を求めて水銀を服用したのは世界史でも有名です。

始皇帝やラムセス2世が伝説のラピスラズリを求めていた、というエピソードを本編では描いています。


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