第12話 サキュバス騒動の始まり
ギルドで決まった不浄への制裁作戦のために、オレ達は家に帰って寝ることにした。
家に帰ると人の気配が無かったので2人…3人はどこかに出かけたようだった。町の案内にでも行ったのかな?
睡眠を取ること数時間。
オレとソーエンは作戦の30分前に起きて1階で合流し、中央班の集合場所へ向かうことにした。
家を出る前に、いつの間にか帰って来ていて食堂にいたシアスタとラリルレ、ロロにちょっと出かけてくると伝えると、曖昧な返事をされたが恐らく今日町の探索をしてきて疲れたのだろう。早めに休むようにと言って家を出た。
集合場所は家から少し遠いので作戦決行10分前の到着となった。
もう他のメンバーは揃っていたのでオレ達が一番最後だ。
「悪い、遅れた」
「気にするな。時間前だ」
オレの謝罪に絶・漆黒の影の一人が返事をする。
「ありがと。にしても意外だな。絶・漆黒の影がこういう依頼を受けるなんて」
硬派っぽいし、俗物的な依頼は受けないのかと思っていた。
「我々は情報収集でよく使うからな。色町の客が減るのは困る」
スパイ映画みたいな理由だな。厨二病集団かと思ってたけど結構ガチな集団なのかもしれない。
「どこかの組織の人間とかなのか?」
「我々は自由を愛する冒険者だ。自ら縛られることは無い」
「あっ、そうですか…」
なんか胡散臭いような、でもやっぱり唯の厨二集団のような…。でも言い切られては、これ以上は深掘りできそうにも無い。
「キンス達もやっぱ無料券目当てか?」
「いや、町のやつが困ってんだ。助けないわけには行かないだろ」
「けけ、当たり前だ」
「……タスケル」
……冗談だろ?中央班でオレだけじゃねぇか。邪な考えを持って作戦に参加してるの。
待てよ?つまり、平和の旗は無料券を必要として無いってことだよな。
「だったらモヒカ、無料券とアメ交換してくれよ。個数はそっちの希望分出すからさ」
「いいよ、今のイチゴミルクも美味しいけど他の味もあるなら教えて」
「他の味かぁ、そしたら好きな」
話の途中に空が白む。
突然、空に魔法が打ち上げられたからだ。
「うお!? 作戦開始前だぞ、もう見つかったのかよ!!」
その魔法は対象発見の合図だった。
「今魔法が上がったのは西区だ。少し早いが作戦通り、中央班はこのまま西区へ直行する」
絶・漆黒の影の指示に従い、オレ達は町を駆けて西区までの移動を開始する。
冒険者は、中央班は全員で、他区は一部を残して発見場所に向かう手はずとなっている。
衛兵は巡回と見張り以外の待機組みがそこに急行する予定だ。
町は広いが、大通りと裏道を利用して走れば到着の時間は大幅に減らせる。
オレ達は町の道にそこまで詳しくないので、先行している絶・漆黒の影の後ろを付いて走る。
「まさか1日目から、しかも作戦開始前に掛かるとは」
「ああ、予想外ではあるが嬉しい誤算だ。今日中に片をつける」
「西区に入ったぞ、気い引き締めて行くぞ!!」
キンスの言葉で今西区に入ったことが分かった。似たような町並みなのによく分かるな。
「待て、今東区から発見の魔法が上がったのが見えた」
裏路地から大通りに出て魔法が上がったと思われる場所に行こうとすると、ソーエンが変なことを言い出す。
「東区? ここから真反対だぞ、ありえないだろ」
「いや、我々も捕捉した。中央班を再編成する。我々が東区に向かうので、お前らはこのまま西区の発見場所に進め」
どっちが本当なんだろう。何で二回も上がったんだろう、見間違いとかかな?
とりあえず指示に従うか。
オレとソーエン、平和の旗印は指示通りこのまま西区を進む。
走っている最中にもう一度西区で魔法が上がったので、ルートを少し変更してその魔法が上がった場所に向かった。
そこは大通りの真ん中で西班の集合場所だったはず。
集合場所にサキュバスが現れたのかと、全員不思議に思いながら道を走る。
「おーい、対象はどこだ!!」
大通りを走っていると集合場所に冒険者の集団らしき影が見えたので、走りながらキンスは大声で発見情報を聞く。
だが、キンスの声に誰も反応を返さない。
ちなみにサキュバスとは言えないので対象と呼ぶことになっている。
「おい!! 聞こえて無いのか!!」
キンスはさっきよりも大声を出すが、やはり誰も反応を返さない。
なんでだ? これだけ大声出してるなら聞こえてないはずは無いだろうし…。
「止まれ。様子が変だ」
ソーエンの指示で皆の足が止まる。
「なんか……フラフラしてる?」
遠くからでは分からなかったけど、近づいて分かったことがある。
冒険者の集団は棒立ちをしながら、小さく左右にユラユラと揺れていた。
「おい、何があった!! 返事をしろ!!」
キンスが大声を出すと、ようやく1人の冒険者が振り返った。
「よかった、話が聞け、そう…だ?」
1人が振り返ったのを皮切りに、1人、また1人と振り返る。段々その数は増して行き、ついには全員が振り返った。その顔は皆虚ろでまだ体をユラユラと揺らしていた。
「様子が変だよ」
モヒカが見たままの感想を言う。でもオレもそうとしか感じない。
「なんかやばくね?」
だって、どう見ても普通じゃない。
「おい!! 大丈夫か!! お願いだ、返事をしてくれ!!」
キンスの大声に反応したのか、全員がこちらへ向かいおぼつかない足取りでゆっくりと歩き始める。が、返事は一切無い。
こんなのどこかで見たことあるな。どこだっけなぁ…。
「まるでゾンビだな」
「それだソーエン!! いやー、すっきりすっきり」
そうだそうだゾンビ映画のワンシーンでよく見るやつだ。
「………なぁ、ソーエン。不味くね?」
「ああ、不味いな」
まさにゾンビのように近づいてきている集団が目の前にいる。
「皆、逃げるぞ」
「あいつらをほうっておくってのか!?」
この世界にゾンビ映画は無いのでキンスたちは今の状況が分かっていない。
「安心しろキンス。多分あいつらがオレ達のことを放っておかないから」
「訳が分からん…が様子がおかしいのは分かる。分かった、撤退しよう」
キンスのそういう判断が早いところ本当に尊敬するわ。
「絶・漆黒の影と合流を目指すってことで…ダッシュ!!」
オレの掛け声と共に5人で来た道を戻って走りだす。
「「「「「「ヴぁう~~~」」」」」」
それと同時に似非ゾンビ軍団も走り出してオレ達を追いかけてきた。
「現代版の方かよ!! 昔のみたいにもっとのんびりしとけや!!」
この前はスケルトンで今回はゾンビと追いかけっこかよ、勘弁してくれ!!
「逃げろ逃げろやべーって!!」
「なんでこんなことになってんだよ!!」
「オレだって知りたいよキンス!!」
「「「「「「ヴぁう~~~」」」」」」
似非ゾンビ軍団は一心不乱にオレ達を追ってくる。
「見てよ!! 路地から衛兵達が出てきたよ!!」
モヒカの声で後ろを見ていた顔を前に向けると複数の路地から衛兵が大勢出てきた。
「おい!! お前らも逃げろ!!」
キンスが大声でその衛兵達に逃げろというが、全員こちらに向かって来る。
その姿は背後からオレ達を追いかけてくる冒険者達にそっくりだった。
「キンス違う!! 衛兵もやつらと同じだ!!正気を失ってる!!」
「何だって!? 一体何が起きてんだ!!」
「何だっていい、このままじゃ挟み撃ちされる!!オレについて付いてきてくれ!!」
前方の衛兵、後方の冒険者。巡回中だった奴等や、合図を見てここに先に着いたやつらが混ざっているのか、数はものすごく多い。
でもオレがこれくらいで捕まると思うなよ。
<生命感知>を使って似非ゾンビが居ない方向を探し、退路を捜す。周囲の反応はまあ沢山あるが、アステル全ての路地にいる訳じゃない。だから、反応が一切しない路地に逃げ込む。
「やつらの居ない方向が分かるのか?」
「なんとなくな」
「凄いよイキョウ。このまま先頭を任せてもいい?」
「任された。ついてきてくれ」
後ろからやつらは追ってくるが、狭い路地に逃げ込んだので一気に大勢では通れない。
そのまま敵を避けつつ路地を使って逃げ回り、大通りを何度か抜けて絶・漆黒の影がいる東区を目指していると、今度は北区と南区から同時に発見の合図が上がった。
「また逆かよ!? どうするキンス!!」
「恐らく絶影はどちらかに向かったはずだ。このまま東区に向かうよりも俺達が分かれて合流したほうがいい」
あいつら絶影って略されてるのか。初めて知った。
「なら俺とイキョウで片方に行く」
「それでいい。俺達は南、お前らは北だ。絶影を見つけ次第モヒカが空に魔法を打ち上げる」
「分かった、オレ達もそうするよ。それじゃ早速向かうわ」
「十分に気をつけて向かえ。行くぞ!!」
キンスの掛け声でそれぞれ分かれる。
全員何が起こってるのかは分からないけど、これだけは分かる。今絶対非常事態だ。
そしてこの事を引き起こした犯人は他でもないサキュバスだろう。だからオレ達はそのサキュバスを見つけるために行動を始める。
オレとソーエンはこのまま道を走るよりも上から行ったほうが速いから、屋根に上って北区を目指すことにした。
屋根の上に上って分かったけど、オレ達が思っているよりも広範囲で似非ゾンビか現象が起きていた。
「助けてくれぇぇぇええええ!! このあと色町に行く予定なんだ!!」
「色町が!!俺には色町がぁ!!」
「人の淫は、終わらねぇんだよ!!」
家を飛び越えるたびに男たちの虚しい断末魔が聞こえてくる。
お前らの意思、オレが受け継ぐから。どうか安らかに。
混沌とした町の上を駆けていて思う所がある。
「何でサキュバス騒動がゾンビ騒動になってんだよ…」
当初の予定と全く違うじゃないか。
「夜間の外出を控えさせたのは正解だったな」
ソーエンの言う通り、これで町の人まで巻き込まれてたら相当な被害になったろうな。
男たちの断末魔と共に似非ゾンビを何体も確認しながら家を飛び越えて進む。
屋根の上にはゾンビがいなかったので順調に進むことができた。けど、男たちの虚しい叫びを聞くたびにオレの心が磨り減っていく錯覚を覚えたのでメンタル的には順調ではなかった。
辟易しながらも魔法が上がった近くまでは問題無く近づけたけど、詳細な位置は分からない。だから適当に上から探索する。
もう一度魔法が上がればいいんだけど……。
「北区まで来たはいいけど、もう手遅れだろこれ」
絶対無理じゃん。だって正気の冒険者いねーもん。
北区も西区と同じで、そこかしこに似非ゾンビが徘徊していた。
進んでも進んでも見えるのは同じ光景。行く先々でこんな景色を見ると、作戦失敗どころかアステル壊滅の言葉さえ頭によぎる。
「おい、絶影がいたぞ」
「マジ? とりあえず合流すっか」
オレとは反対の方向を見ていたソーエンが絶影を発見したらしいので足を止めて、屋根の上からその方向を見る。
絶影なら打開策を持っている可能性があると思い、見てみると。
「あいつら追われてんじゃん」
絶影の2人が忍者走りをしながらゾンビの集団から逃げ回っているのが見えた。
忍者vsゾンビとか言うB級映画ありそうだな。
2人しか姿が見えないので、どうやらあちらも二手に分かれていたようだ。
「おーい!! 絶影ー!!」
オレは絶影のほうに近づき、建物の上で併走しながら声を掛ける。
2人はこっちを見るとオレに気づいて、凄い身のこなしでオレ達のいる建物を上ってきて合流した。
本当に何者なんだコイツら。
「無事だったか同胞達よ」
「そっちも無事そうで何よりだ。南区には今キンス達が向かっている」
絶影と合流できたので、平和の旗印に報告するためにソーエンが無言で魔法銃を何発か空に向かって打ち上げる。
今撃った魔法銃の弾は普段の弾よりも大きく、上空で破裂する。
「いつもより派手だな。どうやったんだ?」
「MPの圧縮を抑えた。威力はほとんど無い」
「器用なことをするもんだな」
絶影はソーエンの銃に眼を奪われて、無言でじっと見つめている。
「同胞よ。良い武器だな」
「一点ものオリジナルだ。詳細は開かせん」
ソーエンの言葉を聞いて、絶影は満足そうにフッっと笑う。
「なぁ、一体何が起きてるんだ?」
満足感を感じているところ悪いが、今はそれどころではない。
「見当もつかん。このようなことは聞いたことが無い」
「対象を捕まえることが出来ればわかるのだが、生憎姿すら確認できていない」
「つまり手詰まりかぁ……」
人海戦術で見つけ出すつもりだったけど、それも今は使えない。それどころか逆に利用されてしまった。
そのまま屋根の上で作戦会議をしていると、南区の方からも魔法が上がったのであちらも合流できたようだ。
「後の手はずはこちらで立てる。一旦中央区の集合場所に戻って全員合流だ」
「あいよ」
作戦を考えるなら頭数が多いほうがいいのでその指示に賛成する。
オレ達は4人そろって屋根の上を移動し、集合場所を目指す。
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