第10話 小さき者×小さき者

 パンケーキ屋では結構話しこんだので、出る頃には日が沈み始めて空が赤らんでいた。


 時間帯を考えて晩飯を買って帰ったので、家に帰る頃には夜の始まりを感じさせるような空の色に変化していた。


「すごーい、宿屋さんみたい!!」


 ラリルレはオレ達の家の前で驚いた声を出す。


「ふっふっふ、流石ラリルレ……鋭いぜ。何を隠そう、オレ達の家は元は宿屋だったらしい」


 正しくは、何故かカフスが所有していた宿屋予定の建物だ。


「外を眺めるのもいいけど、中に入ろうぜ」


 扉を開けて中に入ると、軽いベルの音が家の中に鳴り響いた。


「ただいまー」


「お帰りなさい。遅かったですね」


 シアスタは食堂でオレ達の帰りを待っていたらしく、玄関のベルが響くとすぐに玄関で出迎えてくれた。


「ああ~っ!! かわゆいよぉ!!」


 その姿を見てラリルレは即座に動き出した。


 オレに続いて中に入ってきたラリルレはシアスタを見るなりすぐに抱きついて顔をぷにぷに押し当て始める。


「ちょ、なんですか!? どちら様ですか!?」


 シアスタはというと、急に抱きつかれて困惑していた。


「私はラリルレだよ。あなたはキョーちゃんが言ってたシアスタちゃんだね!!」


 ラリルレはシアスタを離して自己紹介をしたかと思うとまた抱きしめ始めた。


 シアスタに抱きつくとか冷たそうだなぁ。


「シアスタ、この子はオレ達が探してた仲間の一人だ。今日町で偶然再会した」


「あっさり過ぎません…?。ということは、今日からここに住むんですか?」


「そうだよ、よろしくねシアスタちゃん」


「こ、こちらこそよろしくお願いしましゅ」


 シアスタはまだ抱きしめられているので喋りづらそうだ。


「ラリルレ一旦落ち着いて。とりあえず座って自己紹介でもしよう」


「そうだよね。ごめんね可愛くてつい抱きついちゃった」


「そうですか。なら仕方ありませんね、フムー」


 可愛いって言われたシアスタはドヤ顔をしながらそう言い放った。


 前から思ってたけど、シアスタって結構自信家な所あるな。


 ラリルレは抱きつくのをやめて、いつもの食堂の隅にあるテーブルに全員移動する。


 いつも通り、オレとソーエンが並んで座り、ラリルレはシアスタ側に座る。ロロは2人の間のテーブルに置かれた。


 晩飯を食べながら喋ろうと思い、食卓に買ってきた料理を出す。ロロも食べられるよな?パンケーキ食ってたし。


 紅茶を見ると、ラリルレは懐かしいなぁと言いながら喜んでいた。


 オレとソーエンの紹介はいらないので飛ばして、シアスタがオレ達にしたような紹介をラリルレにした。


「シアスタちゃんは氷の精霊なんだ」


「そうです。精霊については?」


「治療で何回かお話ししたことあるから知ってるよ」


 ラリルレはただ治療をしていたわけではなく、治しながら色んな情報を集めていようで、この世界の知識はそこで手に入れていたとか。


「次は私だね。私はラリルレ、レベルは315で種族はドライアド、職業は神官だよ。目的はそうだなぁ、今は皆を捜してるよ。怪我をしたらいつでも言ってね、すぐに治すよ」


「珍しいですね、ドライアドの方が森を出て旅をしているなんて」


 シアスタはオレ達のレベルを知っているのでラリルレのレベルを聞いても驚くことは無く、平然と種族のことを質問した。


 どうやらドライアドは森に引きこもっている種族らしい。


「ん、んふふ~私は珍しいドライアドだからね」


「それに加えて、ドライアドの方が教会所属の聖職者をしてるなんて。本当に珍しいです」


「せーしょくしゃ? 違うよ?」


「?」


 ラリルレとシアスタはお互いに顔を見合わせて首を傾げている。


 そうか、この世界には職業というと自分が働く仕事のことを指す。職業って言うんだから当たり前か。


「シアスタ、ラリルレが言う職業ってのはギルドの言うところのクラスみたいなもんで、自分の能力の特徴を表すもんなんだ」


「クラス?」


 今度はラリルレが首を傾げて聞いてきた。


 お互いに知らないことがあるから、2人にまとめて職業とクラスについての説明をする。


「叛徒、ガンナー、神官…」


「前衛、中衛、後衛、ぶつぶつ」


 説明した2人は頭を回してくらくらしている。


「シアスタがぴんとこないのは分かるけど、ラリルレがその反応はおかしくない?」


 よくネトゲで使われる用語で、オレ達も作戦を組むときに使っていたはずだ。


「久しぶりに聞いたから思い出すのに時間がかかるの。でも今思い出したよ!!」


「それはなによりだ」


「ラリルレは冒険者になってないのか」


 ソーエンはラリルレに尋ねる。


 クラスについての説明は冒険者ギルドで受けるはずだ。自分でも決めるからそんな簡単に忘れるものじゃない。


「なろうとしたんだけど、ロロちゃんが危ないことはするなって」


「無論だ。怪我をしたらどうする」


「わっ!? 喋っりました!!」


 ここに来てロロが初めて口を開いて、それを聞いたシアスタが驚いた。


 怪我をしたらどうするとか、邪神の癖に過保護過ぎんだろ。邪神から邪悪さ完全に無くなってるよ。


「もしかしてこの方…? も、はぐれたお仲間なんですか?」


 シアスタがロロについて尋ねてくる。


「んなわけない。ラリルレが旅で出会ったタコだ」


「我はタコではない。じゃし」


「ロロちゃん」


「…ロロだ」


 ラリルレとロロには、邪神だということはカフスに話を通すまで内緒にしてくれとお願いしてある。


 邪神が復活したとか安易に広げていい話じゃないし、邪神復活とかこの世界を混乱に陥れそうなので、偉大なるドラゴン様に相談しないとオレ達でどうすればいいかなんて判断できない。


「ロロさんですか、よろしくお願いします」


 驚いたシアスタだったが、意思疎通が取れると分かるとちゃんと挨拶をする。


 シアスタはオレ達と関わってから、段々肝が座ってきた気がするな。


「そうか」


「ロロちゃん」


「…よろしく頼む」


 今までラリルレと料理しか見ていなかったロロの目が初めてシアスタの方を向く。ちょっと不気味だ。


「ロロさんもここに住むんですか?」


「ラリルレが住むならば我も住もう」


「そうだ、部屋のことなんだけど、余ってるから好きに使ってくれ」


「じゃあロロちゃんと一緒に使わせてもらうね。ね、ロロちゃん」


「分かった」


 ラリルレの中ではもう決定事項のようで、どうやらロロに選択権は無いらしい。


 旅の間もこんな感じで過ごしてきたんだろうな。


「これからどうする。冒険者になるのか」


 この町に住むにあたってどうやって金を稼ぐかをソーエンは聞いている。


「みんなも冒険者なんだよね? 私もなってみたいな!!」


「私もパーティに回復できる人がいると助かります」


 シアスタの中ではラリルレがパーティに入ることは決定しているらしい。拒否されなくてよかった。


「我は反対だ。ラリルレの言うことでもこれだけは譲れん」


 やる気に満ち溢れたラリルレをロロが止める。


 ロロの中ではラリルレのことに関しての一線があるようで、初めてラリルレに反抗している。


「なんでー、いいでしょロロちゃん。今はみんなもいるし大丈夫だよ」


「ダメだ。金ならまた治療で稼げば良いだろう」


「えっ!? 教会関係者以外で治療代を貰うことは禁止されているので、お金を稼ぐのは無理ですよね?」


「「え?」」


 知ってて当然ですよね?みたいなシアスタの言葉にラリルレとロロはぽかんとして声を上げる。


「教会の決まりで、詐欺やお粗末な回復魔法を未然に防ぐ為に決められているはずですが…」


「それって、見つかったらどうなるんだ?」


「普通なら牢屋行き、悪質と判断されたときは死刑ですよ」


 結構重い罪状を教えられる。激重じゃん……。


「どうしようロロちゃん、私達捕まっちゃうよ!!」


「我が封印されている間に世界は変わったのだな。ラリルレが捕まるくらいなら教会を滅ぼす」


 ラリルレは慌てふためき、ロロは邪神らしい発言をしている。理由は邪神らしくないけど。


「やめろタコ!! ここまでばれなかったんだから今後控えれば大丈夫でしょ。にしてもよく金を貰えてたな」


「そういえばみんな、こんなちっちゃいのに教会に入れるなんていっぱい勉強したんだねって褒めてくれてた…子供じゃないのに…」


「堂々とやっていたから疑われなかったのだろう。それにラリルレの魔法は我を治すくらいに完璧だ。疑われる余地は無い」


 周りもこんな小さい子が詐欺を働くなんて思わないだろうし、疑われても完璧な回復魔法を見れば勝手に向こうが教会所属って勘違いの納得をしていたから今まで無事だったんだな。


 ラリルレの装備している杖も神聖っぽい感じのする杖だし、治療を受けた側の思い込みに一役買っていそうだ。


「そうだ!! 今から教会に入れば、今までのこと大丈夫かな?」


 名案を思いついたようにラリルレが発言をする。


「ダメだと思いますけど…。それに教会に入ると3年は住み込みで修行するって聞いたことがありますし、試験も難しいので今からですと時間が掛かりすぎます」


「それじゃせっかくみんなに会えたのに、また離れ離れになっちゃうよぉ…」


「仲間捜しも出来なくなっちゃうな」


「ラリルレ、今後は回復魔法で金を稼ぐな。お前が捕まるところは見たくない」


「そうするよぉ…やっぱり冒険者になるしか無いよロロちゃん」


「他で金を稼げばよかろう」


 ロロがラリルレの意見を断固として否定する。


「私、回復魔法以外にお金を稼げるようなもの持ってないよ」


「我が稼ごう」


「でもロロちゃん、ずっと私のお金でご飯食べてたよね?」


「むぅ…」


 このタコ、ヒモだったのかよ。


「…分かった。ただし、我も付いていくぞ」


 散々反対していたくせに、最悪の折れ方をしたぞこのタコ…。でも、ロロがやっとラリルレが冒険者になることを認めた。


 こう、お前よぉ、邪神としての威厳がさぁ。ヒモって。


「やったぁ!! ありがとうロロちゃん!!」


 冒険者になれることが嬉しいらしく、ラリルレはロロを抱きしめる。


 ロロは力いっぱい抱きしめられたことでひょうたんのようになるが、ラリルレが手を離すとぷるんと揺れて元に戻った。


「どうなってんだよお前の体…」


 にしても力いっぱいか…。


「今ので思い出したんだけどさ、ラリルレは同行の指輪は持ってるか?」


 本当はカフスとの約束があるのでこの町で生活するなら、早くに確認しておくべきことだった。でもラリルレと会えて浮かれてしまったから確認するのを忘れてしまっていた。


「50レベルのを着けてるよ。じゃないと色んな物壊しちゃうもん」


 ラリルレは右手を前にかざして人差し指にはまった同行の指輪を見せてくる。


「なら話が早い。緊急時以外ではそれをずっと着けててくれ。オレ達がこの町で平和に生活するための決まりなんだ。よろしく」


「分かったよ、ちゃんとつけておくね」


 確認することや話すことは一通り終わったので、ここからは雑談タイムだ。


 みんなで今日あったことや今までのことを話す。


 ラリルレの話を聞いている最中、シアスタがずっと尊敬するような目でラリルレを見ていた。


「ラリルレさんは凄いですね。旅をしながら色んな人を助けてて、とても同い年とは思えません」


 まあ…シアスタとそんな身長変わらないし、そう思うのも仕方ないよな。


「違うよ?そういえば自己紹介のときに言うの忘れてたね。私はもう17歳の大人だよ」


「17歳!?」


「なんで驚くの!?」


 レベルや種族、回復魔法のことを聞いても驚かなかったシアスタが、今日一番の驚きの声上げて食堂に響き渡った。


 ……オレから見たらどっちも年齢よりもちっさいよ。なんて下手なことは言わずにオレとソーエンはその驚く様をただただ見ていた

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