第9話 一筋縄の邪神
「ゲームにガランドウルってボスいたじゃん。あいつがこの町の近くに邪神の眷属とか言われて封印されてたんだよ。で、この前オレ達がその封印を解いちゃって仕方なく倒した」
声を大にしては言えないので、声を落としてこのテーブルにいるものにしか聞こえないくらいの声量で話す。
店内はがやがやとしているので声を落とす必要は無いだろうけど、念のためだ。
「あやつを倒したのか」
「ガランドウルってあの!?2人で倒しちゃうなんて凄いね!!」
ガランドウルは強いが、ちゃんと対策をしていれば一人でも倒すことは可能だ。しかしそれは廃プレイヤーが廃装備を使ってようやく可能となることで、普通はパーティを組んで倒す。
「ゲームじゃできない作戦で勝ったから、そこまで凄いことじゃない。それにこっちの世界での仲間に手伝ってもらったからな」
「おいタコ。邪神がなぜここでパンケーキを食っている」
オレが謙遜をしている中、ソーエンが話を進める。
邪神だし何か目的があるのか? わざわざアステルに着たんだし、倒された眷族の復讐とか? そして今はその前の腹ごしらえをしているのかもしれない……。ヤバイな。ここで一戦交えるのか?
「ラリルレが入りたいと言ったからだ」
…うーん。邪神が邪神らしくない返答をしてきたなぁ。
邪神てもっとこう、自己中心的で悪っぽい存在だよなぁ。そんな友達感覚で言われても返答に困るぞ。
「ロロちゃんのお友達捜しをする前にご飯食べようってなって、美味しそうなお店があったから入ってみたの」
ラリルレはニコニコしながら説明をしてくれる。
「なぁ、ラリルレ。いいのか?コイツ邪神だぞ? それにロロもいいのか?オレ達お前の眷属倒した敵なんだけど」
「構わん」
「いいのかよ…」
ロロは即答するが、ラリルレは少し考えている。
ラリルレは優しい心の持ち主だ。だから、可愛がっているタコが邪神と聴いて悲しくなってしまうかもしれない。
「うーん、ロロちゃんは旅の途中、あっ、私達はここに来るまで色んな町や村で治療をしながらお金を稼いでたの。それで、ロロちゃんは治療を手伝ってくれたり、皆が見つからなくて落ち込みそうになった私を励ましてくれたりしてくれたんだよ」
ラリルレの旅路にはいつもこいつが居てくれたようだ。
「ロロちゃんが言うように、邪神だとしても、良い悪いはこの世界の人が決めることで私が決める事じゃないと思うの。私の中じゃロロちゃんはロロちゃんで私の大切なお友達だよ。それに今はとっても優しいロロちゃんだもん。ね?ロロちゃん。でも悪いことしたなら反省しなきゃダメだよ」
「ラリルレが言うならそうしよう」
「私が言わなくても反省してね?」
「……分かった。ラリルレに誓って二度と世界を滅ぼそうなどとは思わない」
そんな簡単に信念捻じ曲げていいのかよ……。邪神ってなんなんだよ……。
にしても過去に物騒なことをしてたらしいなこの邪神は。
「時にガランドウルのことだが、あやつは戦いの中で死んだのか?」
「戦いの中というならそうだな、戦って死んだよ」
あれも一つの戦いだから嘘は言っていない。
「ならば良い。あやつが戦いの中で死ぬなら本望だろう」
邪神の中でそんな想像がされたかは不明だが、絶対にその想像とは違うことだけは分かる。
「なぜあのガランドウルがお前の眷属になっている」
ソーエンが聞いたことはオレも気になっていた。
あのガランドウルはゲームと同じ存在にしか思えなかった。どうしてゲームのボスだったあいつが、この世界で邪神の眷属になっているのかが分からない。
「愚かにも、我に戦いを挑んできたから返り討ちにし、腕が立つようだったから配下に加えた。それだけだ」
あのガランドウルを返り討ちって、邪神は相当強いやつなのかもしれない。
なんでオレ達の脅威になりそうな存在なのに、こんなに危機感を感じないんだろう。まだガランドウルの方が焦りを感じたぞ。
「ガランドウルについて知ってること教えて欲しいんだけど」
ガランドウルについては大部分が謎に包まれてる。だから、ここで情報を収集しておきたい。
「なぜ我がそこまで」
「ロロちゃん、お願い」
「……あやつは口数が少なかったから何も知らん。我の軍は力があればそれだけで良かったからな」
何も新しい情報は無しか。偶然ゲームとこの世界での似た存在だったのか? でも偶然にしては何もかも一緒だしなぁ。
今ある情報だけじゃ何も分からない。重要な参考になりそうな邪神すらも何も知らない。
また手詰まりかぁ。
「ラリルレも貴様らも先ほどからガランドウルについてよく知っているような口ぶりだが、何か知っているのか?」
邪神からしてみれば戦ったことのないラリルレやただ戦っただけのオレ達が、ガランドウルのことを理解しているように聞いてくるのが疑問なんだろう。
「ロロちゃん、私達は異世界で何度もガランドウルと戦ったんだよ。それにフレーバーテキストで情報も知ってるよ」
「フレーバーテキストとはなんだ? それに、異世界の話は聞き飽きた。大方どこかでガランドウルについての書物を読んだのだろう」
「信じてよー。ねえねえキョーちゃん、ソーちゃん、ロロちゃんはいっつも異世界のこと言っても信じてくれないんだよ?2人からも説明してよぉ」
異世界から来た、か。
ラリルレ、オレ達もシアスタやカフスにそのことを話したことがあるんだ。でもな、誰も信じてくれなかった。あのカフスや今ここにいる邪神でも信じないならもうこの世界で誰も信じてくれないと思う。だから無駄なあがきはしないことにしたんだ。
「諦めろラリルレ。オレ達はこの世界の住人ということにしておこう」
「仲間達の中で分かり合えればそれいい」
「どーして2人ともそんな遠くを見つめてるの?」
「なんでもない。それよりラリルレとロロはどうして一緒に旅してるんだ?」
邪神と少女の組み合わせ。知れば知るほど謎な2人…1人と1匹だ。
「んふふ~、良くぞ聞いてくれました!! それはね、私が飛ばされたときにおっきいロロちゃんがいる洞窟に飛ばされたの。でねでね、おっきいロロちゃんは怪我してたから治してあげたら、割れてちっちゃいロロちゃんになったんだ。とっても可愛かったから皆にも教えようと思って一緒に旅を始めたの!!」
ニコーっと笑ってラリルレが話してくれる。あぁ、癒される。
なんともラリルレらしい理由だった。ラリルレはゲームの頃から可愛いモンスターやアイテムを皆に紹介して可愛いを共有しようとしていた。でも可愛いの範囲が広すぎて、紹介された大半はよく分からなかったな。
「我は気まぐれだ」
邪神は気まぐれで1ヶ月近く一緒に旅をしたり治療の手伝いしたり励ましたりするのか。
……本当にそうかぁ?
「邪神様は優しいんだなおい」
「違う、気まぐれだ」
邪神はオレの言葉を否定してくる。
「そうだよ、ロロちゃんは良い子なんだよ」
「気まぐれと言っているだろう」
何を考えているのかは知らないが、ラリルレに危害を加える気は無いことが感じられるからこれ以上追及はしないが。
「気まぐれなタコさんよぉ、お前の配下はまだ残ってるのか?」
もしまだガランドウルのように強力なやつが残っているのなら情報が欲しい。もしかしたら他のボスとかも居るのかもしれない。
「ガランドウルが最後だった。他は全てとうの昔に散っている」
「ならその敗れた配下の情報を教えてくれ」
出来れば名前を聞いておきたい。ガランドウルのようにゲーム時代の敵が邪神の眷属になっていた可能性はある。ガランドウルだけが特別ではないのなら、この先また出会う可能性だってあるはずだ。
「なぜ我が貴様に」
「ロロちゃん」
「……長い封印とこの姿になったことによって、忘却の彼方へ消えた。ガランドウルは封印されて存在が残っていたから覚えていたが、他はもう姿さえ思い出せん」
またラリルレによって邪神の意思が変わる。ラリルレに言わされているから多分嘘じゃないだろう。
もう邪神と言うより、ラリルレが飼っているタコのロロって感じだな。
「思い出したら教えろ」
ソーエンが邪神に命令をする。
「何ゆえ我がそんなことを」
「ロロちゃん、私からもお願い」
「思い出したら伝えよう」
ロロは素直だなぁ。
ドラゴンといい、邪神といい、なんでこんなに威厳が感じられないのだろうか。
「ありがとう、ロロちゃん」
「気まぐれだ」
ロロとの約束をした後、オレ達は今日まで過ごしてきた日々をお互い話して、いつの間にかパンケーキの皿とコーヒーのカップを空にしていた。
その間に絶・漆黒の影が依頼主との話が終わったらしく、オレにお礼を言って店を出て行った。
ちょっと店に長居しているので、そろそろ出ようかという空気になったが、その前にオレはあることをラリルレとロロに聞く。
「そういや、2人ともこれからどうすんだ?」
このまま旅を続ける可能性は無いと思うけど、何かすることがあるかもしれない。フレンドリストには登録したからチャットを使えばいつでも連絡が取れるので、離れてしまっても問題はない。でも、出来ればこの町に残って一緒に暮らしながら他の仲間捜しをしてほしい。
「決まってないよ。2人がいるならこの町に残って一緒にいたいなぁ」
「よかった。そういってくれると嬉しいわ。さっさと他の奴等も見つけようぜ」
「決まりだな。俺達の家で暮らそう」
「お家持ってるの!? 凄い!! ソーちゃん達お金持ちだ!!」
「偶然の産物なんだよなぁ」
「偶然でお家手に入れたの? もっと凄い!!」
昨日までエンゲル係数に悩まされたし、今日も一時的に財布が温かいだけで金なんてそんなに持ってない。しかも家は金で買ったわけじゃなくて、お詫びみたいなもんだからなぁ。
それはさておき。
シアスタには事前に仲間が見つかったら一緒に住むかもと言って、事前に許可を取ってある。
むしろシアスタは自分が邪魔になるんじゃないかって心配していたけど、オレ達の仲間にそんなやつはいないと言って説得はしたので大丈夫。
「ふっふっふ、家を見たら驚くぞ」
オレの言葉を聞いてラリルレはウキウキしながら店を出る。
ロロはラリルレの頭の上が定位置らしく、帽子のように頭に載せている。
タコを頭に乗せるのは奇妙な光景だったが、パンケーキ屋の店員さんは綺麗にスルーしていたので、オレ達も突っ込むことをやめた。
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