第6話 言葉使い

 本来、アステルからこの森までは馬車を乗り継いで来るそうだがオレ達は草原や荒地を一直線に走ってきた。しかし、流石に走り回ったり卵の回収をして疲れたので、帰りは道で適当に馬車を拾うことにした。


 道に出たときに運よく馬車が通ったので、御者に料金を払い他の乗客と相乗りをしてアステルに戻ることになった。


「なんなんですかね、その水晶」


 シアスタがオレの横で水晶について尋ねてきた。


 逃げ始めてからここまでノンストップだったから、ようやく落ち着いて水晶について話すことができる。


「ソーエンが持ってるんだし、なんか分からない?」


 ソーエンは向かいであぐらをかきながら、その上に水晶を乗せて座っている。結局じゃんけんでどちらが持つかを決めて、オレが勝ったのでソーエンが水晶係になった。


「分からん。ただ、自然回復分も吸収しているからMPが全然回復できん」


「ならしまえばいいじゃん」


 ここはオレ達の他にも人がいるので主語は伏せてもらったが、アイテムボックスにだ。


「お前はしまえるか」


「絶対やだね。そんな得体の知れないもの。仕舞ったら最後、他のアイテムや装備が食われちまうかもしれない」 


 それに、異世界産の物はゲームのアイテムと違って説明は表示されないから、アイテムボックス入れても何かは分からない。


「分かっているなら言うな」


「とりあえず、アステルに帰ったらカフスに渡して見てもらうか」


 乗客の全員の会話が止まり、睨まれた気がした。


「…間違えた、カフス様にだ」


 乗客の全員がうんうんと頷いてまた会話を再開し始めた。


「えぇ、怖い…」


「どうしたんですか?」


 シアスタはオレが睨まれたことに気がついていないようだ。


「なんでもない。その水晶、売ろうと思っていたがオレ達の魔力を無尽蔵に吸っているところを見ると、なんだかヤバイ代物のような気がしてきたぞ」


「だったら捨てていくか」


 ソーエンが馬車の後ろに水晶を出して、手を離せば落ちるようにする。


「やめろ。あれだけ苦労して取ったんだ。捨てるくらいなら売る。流石に銅貨一枚とかじゃないだろ」


「せめてカフス様に見せてから判断しましょうよ」


「ここで捨てるならの話だ。ちゃんとカフス、様には聞くから安心しろ」


 また睨まれたくは無いので様をつけておくか。


「分かりました。なら現状保留ですね。…それで、今日の夜は何を食べますか!!」


 シアスタの中では水晶の話題は終わって、ずっと楽しみにしている今日の夜についての話に切り替わる。今日はずっとこうだ、行きの道中も今日は何食べるとか何かしますかとかずっと聞いてくるほどパーティを楽しみにしている。


「分かった分かった。町に着くまで話し合おうな」


 これ以上ここで水晶について考えても結論は出ないので、オレ達も今日の夜についての話をしよう。

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