第3話 Go to quest

 いつも、ギルドが混む時間を避けて行くから今日もクエストボードの前は空いていた。


 <インフィニ・ティー>はオレとソーエンが4等級。シアスタも、まだプレートは受け取ってないが、4等級に上がったので今は4等級のクエストボードの前にいる。


 今までは報酬の美味いファングボア大量討伐のおかげでランクは楽に上げることが出来たけど、昨日ファングボアの討伐クエストが急に取り下げられた。


 理由は伏せられていたがなんとなく理由は想像できる。


 そのクエストの依頼主は唯でさえの金が無いグルメドラゴンだったから、多分オレ達があまりに討伐してくるもんだからカフスの手持ちの金が無くなったのだろう。


 そして、実入りの良いクエストが取り下げられたこともあって食費の問題が発生した。


 本来なら金が無いんだから、朝早くに来て美味いクエストを探さなければいけない立場だ。


 今の時間に来ても残っているクエストは報酬が不味いものか、報酬は美味いけど達成条件が難しくて並大抵の冒険者じゃクリアすることが出来ないような依頼しかない。


 でも、オレ達なら難しいものでもクリアできる。だから後者の方を絶賛選定中だった。


 1人が見つけたクエストを2人が却下する作業がひたすら続き、ようやくシアスタが良いクエストを見つけた。


 ってなわけで、早速それを受付に持っていく。


「これお願い」


「あっ、はい、見させていただきます」


 受付さんはあの応接室の一件以来少し笑顔が固くなり、オレとソーエンは若干距離を感じるようになった。


 それでも受付さんを選んだのは何とかして、前のような怖いけど普通に接してくれる受付さんに戻って欲しいからだ。といっても3週間経っても変わらないので別な方法を試したほうがいいのかもしれない。


「ワイバーンの卵を取ってくるクエストですね」


 クエストの内容はワイバーンを殺さずに卵を取って来いというものだ。個数に応じて報酬は上がる。


 どうして殺してはいけないのかまでは書いていなかったから理由は知らんけど、ワイバーンは速くて強いので倒さずに卵だけ奪うのは至難の業だ。普通の冒険者なら難しいだろう。


 でも、オレ達ならそう苦労せずにやれる。


「問題ありません。受領いたしました」


 受付さんが依頼書にオレ達の名前を書いて、カウンターの下に仕舞った。


 これにれ受付は完了だ。


「あれできてますか、あれ!!」


 シアスタはそわそわしながら受付さんにあるものを催促する。


「ふふ、待っててねシアスタちゃん。今持って来ますから」


 受付さんは奥の事務スペースにあるものを取りに行く。


 受付さんはシアスタにだけは以前と変わらない接し方をするんだよなぁ。


 審議師の指輪が効くからだろうか。でも、レイラの話じゃ日常生活では外してるって聞いたし、指輪は関係無しにやっぱりオレ達が単純に怖いんだろう。


「お待たせしました。はいシアスタちゃん」


 戻ってきた受付さんがカウンターにあるものを置いた。


「イキョウさん」


 それを受け取る為に、シアスタが両手を広げてオレを見てくる。


 受付カウンターはシアスタには少し高いから、誰かが抱え上げないと手が届かない。


 以前5等級に上がってプレートを貰うときに、オレが「貰ってからシアスタに渡した方がスムーズだろ」と言ったら「子供っぽいじゃないですか」と返されたので、今の受け取り方のスタイルが確立した。


 こっちの方が子供っぽい気がするんだけどなぁ。


「ついに私も4等級ですよ。むふー」


 シアスタが受け取ったのは4等級のプレートだった。


 オレに担ぎ上げられながらプレートを満足げに掲げている。それを見た受付さんはオレ達には向けない優しい笑顔をしていた。


 受付さんは本当にシアスタを可愛がってくれている。ありがたいことだ。


「お前5等級のときもプレート見てニヤニヤしてたよな」


「嬉しいんだからいいじゃないですか。喜ばないお二人がおかしいんですよ」


 ちなみにオレ達が4等級に上がったときに5等級のプレートはまたシアスタに回収され、カフスに買ってもらったポーチ型の白いマジックバッグにしまわれた。


「今晩は全員が4等級に上がったお祝いをするとしよう」


「おいバカ、さっきエンゲル係数について話し合いしたのもう忘れたのか?」


 シアスタが5等級に上がって、パーティ全員が晴れて5等級になった時もお祝いはしたからやらないわけではないけど……金のことを思うと頭が痛くなる。


「金は今日のクエストで稼ぐ」


「です!!」


「ファングボアの次はワイバーンの卵の乱獲かぁ」


「げ、限度はありますのでほどほどにお願いします」


 受付さんは引きつった笑みを浮かべながらオレとソーエンを見てそう言ってくる。


 オレ達をなんだと思ってるの?。オレ達は無益な殺生はしない健全なパーティだよ。


 どうにも苦手意識というか恐怖を持たれているな。


「そうだ!! 今日のお祝い受付さんも来る?」


 受付さんに受付をして貰うだけじゃ現状は変わらない。なら新しいアプローチを試みよう。


「え゛!?」


 受付さんはにこやかな笑みのまま凄い声を出しましたわ。


 初めてこんな受付さんの声を聞いた。こんなん来たくない時に出す声じゃん。


「ローザさんも来るんですか、楽しみです!!」


「えっと…」


 喜んでいるシアスタの言葉で、受付さんが迷いを見せる。


 お?いいぞシアスタ。今のお前は最高の援護射撃機だ。


「来ないんですか…?」


 少しシュンとしたシアスタが悲しそうに受付さんを見る。


 この攻撃はシアスタを可愛がっている受付さんには相当効くだろ。


「…参加させていただきます」


 シアスタの純粋な心で受付さんが折れた。


「よっしゃ!!」


 ついつい成功の歓喜をあげてしまう。


「なら即効クエストを終わらせてパーティの準備だ!!行くぞヤロー共!!受付さん、仕事終わる頃に迎えに来るから!!」


「え、ええ。7時頃にお願いします」


 受付さんは不安そうにしてるけど、約束してしまえばこっちのもんだ。


 今日でこの微妙な距離感を解消してやる。怖がられたままなんて嫌だからな。


「じゃあ行って来ます!!」


「ます!!」


 オレとシアスタは言葉を、ソーエンはまた軽くお辞儀をして挨拶をする。


 早速クエストに出発だ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る