第2話 インフィニティーサミット
スケルトン大量発生騒動から3週間が経ち、アステルには平穏な日々が続いていた。
オレ達はちょくちょく小さな問題を起こしながらもクエストをこなし、暇があればクランメンバーの情報を集めているけど、これといった手がかりになる情報は今のところ見つかっていない。
でも、仲間達はオレ達2人より賢いので絶対大丈夫と信じているから心配はしていない。気長に捜していこうと思う。
冒険者パーティを組んでいるオレ、ソーエン、シアスタの3人はカフスから貰った元宿屋の自宅にある食堂の片隅に集まっていた。
「<インフィニ・ティー>点呼、1!!」
「2、シアスタは3」
「!! です!!」
ソーエンに点呼を取られたシアスタは元気に手を上げて返事をする。
点呼ってそういうもんだっけ?
「よ…し?……うん、全員居るな。ただ今より、第七回<インフィニ・ティー>お茶会議を始める」
緑のバンダナことオレは、黒コート赤マフラーと真っ白ゴスロリの2人に今回の議題を言い渡す。
ソーエンがなぜ、また家の中で顔を隠しているのかというと、急な来客が来たときに見られてしまう可能性があるからとの理由で、自分の部屋と風呂以外はまだ隠しっぱなしだ。
「今回の議題は、食と金についてだ」
哲学や環境問題の話では無い。今オレ達に起こっている問題の話なのだ。
オレ達は3人そろって誰も料理が出来ない。それにより、食事は全て外食かテイクアウトで賄うはめになっている。そうなると、いかんせん食費がバカにならない。
同行の指輪のおかげか異常な食事量は大分減ったが、それでも人よりは食べる。
安い店を探したりはしたけど、結局外食は外食。自炊するよりも高くつく。
このままでは給料のほとんどを食に使っている、アステルの代表カフスと同じになってしまうではないか……!!。
「自炊が出来れば万事解決なんだけどなぁ」
「俺の料理は食べられない訳では無いだろ」
確かにソーエンの料理は食べられないものではない。でも
「じゃあ、試しにまた作ってみろよ」
「任せろ」
オレ達は食堂の裏にある広いキッチンに移動して、ソーエンのクッキングを見させてもらう。
「まずは食材を切るだろ」
「うん」
ソーエンは包丁とまな板を使い、野菜や肉などの食材を丁寧に切ってく。
「次にフライパンに油を敷いて炒める」
「うん」
火の魔石とかいうよく分からんもので火が点くコンロを使って熱したフライパンに、油と食材を入れて炒め始める。
「そして食材に火が通ったら調味料を加えて混ぜる」
「いい匂いです」
シアスタが言うように、炒めた食材と調味料が混ざって、食欲をくすぐる匂いがキッチンに立ち込める。
香りはそう。例えるならシンプルな肉野菜炒めだ。
「そして盛り付ける」
コンロの横に用意していた皿に野菜炒めが盛り付けられていく。
そして。
「完成だ」
ソーエンは自慢げに皿を持って見せ付けてくるけど……。
なぜか皿にはカ○リーメイトが2本乗っていた。
「どうして!!さっきの料理どこ行ったんだよ!!」
「不思議ですよね、ほんのり甘くて美味しいですけど」
小分けに切って食べるとそこそこ紅茶には合うからお茶請けとしては及第点だけど。
「調味料や食材は毎回違うのに何で味は一緒なの!!」
以前、味が変わるかもと思って、ソーエンに頼んで色々な食材と調味料を使って貰った。でも、全て同じのカロリーメ○トが出来上がると言う結果に終わった。
「俺にもよく分からん」
「なんで作ってる本人が分かんねぇんだ!!一瞬たりとも目を離していないのにいつの間にかカロ○ーメイトが現れるこっちの気にもなってみろよ。怖くて食えねぇよ!!」
「俺はこっちでも好物が食えて満足だ」
「甘いご飯はいやだぁ!!」
というわけでソーエンはご飯係失格。
「そこまで言うならイキョウが作ってみせろ」
「いいぜ、任せな。ちゃんとした料理を作ってやるよ」
ソーエンに挑発されたら受けて立つしかない。世の定めだ。
ソーエンと立ち位置を入れ替えてオレがキッチンの前に立つ。
「まずはキャベツを千切りにして皿に盛り付ける」
「ほう」
市場で見たときに、翻訳でキャベツって書いてあったしキャベツだろ。
「次に豚肉のブロックを薄切りにする」
「ふむ」
肉屋で見たときに、翻訳で豚肉って書いてあったから豚肉だろ。何の豚かは知らんが。
「で、フライパンで炒めて謎の甘辛いタレを投入する」
入れたのは、よく行くサンドイッチ屋から貰った名称不明のタレだけど美味しいから使ってみる。多分合うだろ。
「最後にキャベツを盛り付けた皿に、豚肉を乗せれば」
「ああ」
「完成、カレーだ」
どこからとも無く米やルー、具材が現れた皿をオレは二人に見せ付ける。
どうだ、最高の一品が完成したぞ。
「ふざけているのかお前」
そういわれもなぁ。
何故かオレも、何をしたって同じ味のポークカレーが出来上がってしまう。
「もう食べ飽きましたよ」
「そうか?オレは一生食えるけどな」
カレーはオレの大好物なのでいくら食べても飽きない。
「美味しいですけどちょっと辛いので、溶けるから毎回はいやです」
氷の精霊は辛いのもを食べると溶け出してしまうらしく、シアスタは食べ終わる頃には体がビシャビシャになっていた。
人の汗みたいなものだろう。精霊特有の生理現象的な。
あ、生理現象で思い出した。
「シアスタお前、前にトイレ行かないとか言ってたの嘘だろ!!夜にトイレ行ってたの見たぞ!!」
シアスタは自己紹介のときに氷の精霊はトイレに行かないとか昔のアイドルみたいなことを言っていた。
でもオレは昨日の夜に見た。こいつがトイレに行く姿を。
「はぁ!?今言いますか、デリカシーの無い人ですね!!」
シアスタが涙目になり批判してくるが、これだけは譲れない。
その涙は興奮で流れる意味の無い涙だから無視をして大丈夫。
「トイレ行くならお漏らしの恥ずかしさも分かるだろーがよ!!」
氷の精霊はストレスで雪を吐く。
それが人で言うところのお漏らしみたいなものらしいけど、他種族のお漏らしの恥ずかしさは分からないとシアスタは言っていた。でもトイレ行くならわかるじゃん!!嘘じゃん!!
「名誉の為に訂正します!!精霊はトイレに行く回数が他種族に比べて極端に少ないのでそもそもお漏らししません。だから分かりません!!」
「何その体質…」
また新しい精霊の不思議を知ってしまった。食べ物を魔力に変換しているとか言ってからその作用だろうか。
「トイレの話はそこまででいいだろ。今の議題は食と金だ」
ソーエンが話の軌道修正をし始めた。
シアスタについての疑問が解消されてまた新しい疑問が浮かんだが、議長はオレなのでしっかり会議に戻ろう。
「悪かった。で、どうやって食費を抑えるかについてだけど」
「人に恥をかかせておいて悪かったで済ませないでください。このスケベ」
「後でアメあげるから許してくれ」
このクソガキに欲情するわけねぇ。嘘をついていたシアスタも悪いが、話題をずらしたのはオレなので一応は謝罪しておくけど。
今のキャンディーボックスの中身はイチゴミルク味だ。本来は果物カテゴリーのアイテムしか入らないはずだったんだけど、異世界に来てからは果物以外も入れられたので、試しにぶち込んでみたら作れてしまったという奇跡の味。ゲームには無い一品だ。
「なら許します。次は私の番ですね!!」
ここにいるのはオレ、ソーエン、シアスタの三人だ。だから順番的にシアスタが料理を披露する番なんだけど…。
「やめてくれ食材がもったいない」
「俺からも頼む」
「……分かってましたよ。えぇ、分かってますとも。試しに言ってみただけです」
シアスタがうなだれて落ち込む。
オレやソーエンの料理はまだ食えるからいい。でもシアスタの料理は食えない。
理由は何を作っても単純にまずいのだ。料理未熟者のオレやソーエンが指導しても結果は変わらなかったので、もっとうまい人に教えて貰うまでシアスタの料理は禁止としている。
このように、誰かが料理を作ると他がけちを付けてくるので結局自炊は出来ず仕舞に終わる。
「食堂に戻って、腕ではなく頭で解決しよう」
ソーエンの提案に従ってオレは出来上がったカレーを、ソーエンとシアスタはカロメを一本ずつ持って、また食堂の隅にあるテーブルに戻る。
「お茶汲み係、お茶」
「へいへい」
パーティリーダー兼お茶汲み係のオレは全員分のお茶を注いでそれぞれ渡す。もうこの扱いにも慣れたもんだ。
お?カレーと紅茶も乙だな。美味い美味い。
「で、どうするんですか?」
「現状、出来たものを買う以外に方法はない」
二人はもそもそとカロメを頬張り、紅茶で流し込んでいる。
「だったら発想の転換をしよう」
オレはカレーを嗜みながら、優雅に紅茶を飲んで自分の案を二人に教えてあげることにした。っていうかこれしかない。
「食費を減らせないなら金を稼ぐ」
「結局それしかないか」
「ですね」
「満場一致で可決。今日の議会はこれにて閉廷だ。さっそくギルドに行こう」
今日の結論。金に困ってるなら困らないようにすれば良い。
オレはカレーを急いで嗜んでギルドへ向かうことにした。
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