第30話 真正面からの一撃

「また沼を作るんですか!?」


 <スワンプ>の足止めはあいつの筋力の前では意味が無い。だから


「<落とし穴>!!」


 あいつを落とすことにした。そして見事にガランドウルはオレの視界から消える。


 <落とし穴>は土判定のある地面に通り落とし穴を作るスキルだが、本来大型の敵が落ちるほどの大きさは無い。だからまたMPを注ぎ込んで拡張した。MP様様のごり押し戦法だ。穴の大きさは直径50メートル、深さが5~6メートルくらいでガランドウルが這い出して来られないようにしてある。焦って大きく作りすぎた。


 打ち捨てられた古城では床が石畳だったので使えなかったが、ここなら問題無く使うことが出来る。


 今のうちに穴の開いた装備を、<リペアツール>という何でも装備を直せるアイテムを使って塞ぐ。


「なんですかこの穴は…?」


 シアスタが近づいてきて、オレと一緒に穴を覗き込む。


 中ではガランドウルがガチャガチャしながら、どうにか出られないかと動き回っていた。


「策というのはこれか」


「ソーエンさん!?」


 復活したソーエンが、オレ達とは少し離れたの縁から穴を覗き込んでいた。


 あいつの復活位置的に穴に落ちるはずだったが<空歩>でも使って上がったのだろう。装備の穴も塞がってる。


「そう。で、後は皆で上から魔法を撃って倒す」


「だから私にも戦闘の準備をさせたんですね」


「理解が早いな。というわけで魔法を撃ちまくれ!!」


 ソーエンはMPが回復したので魔法銃を、シアスタは大量の氷の槍を、オレはMPがあまり残ってないので低級魔法とスローイングナイフを適当に撃ち投げまくる。


 策は見事にはまり、一方的な攻撃が可能となった。


「ウケケケケケ、ざまぁ見やがれ!!的がでかいと当てやすいなぁ!!蹂躙してやる!!」


「その笑い方やめてください」


 ガランドウルに遠距離攻撃は無く、ただオレ達の攻撃を防ぐことしか出来なかった。発狂モードもあるはずだったが、結局近距離の攻撃が増えるだけなので問題なし。


 そこからは魔法の雨がガランドウルを襲うだけの時間となった。


 オレ達との戦いでのダメージと大量の魔法攻撃により、段々とガランドウルの鎧が崩れ始める。


 一方的な攻撃。これはお前がさっきやってたことだぜ、ガランドウル!!


 因果応報でお前にも同じ事が起きてんだ、甘んじて受け入れやがれ!!


 対等に戦えばお前は強い。でも、対等に戦わないってのがオレの専売特許だ!!その点じゃオレの方が何枚も上手だったようだな!!


 成す術もなくガランドウルはただただ魔法を喰らう。


 振るえない力はもう力じゃないんだよ。だから大人しくくたばっとけ。


 そして、ついにガランドウルの全ては粉々に砕け散る。


 残ってるのは鎧の残骸だけだ。


 ……中身空っぽだったんすね。


「やったぜ!!作戦大・成・功!!」


 まさか、こんなに綺麗にはまるとは思わなかった。


 達成感を見せ付けるように、オレはシアスタにピースをする。


「私達…邪神の眷属に勝ったんですか…」


 シアスタが呆けながらオレに聞いて来た。


「そうだぞシアスタ。勝ったんだ!!」


「やったー!!やりました!!やってやりました!!いえーーーー!!ししょーーーーーーーーー!!」


 勝利の歓喜に包まれたシアスタとオレは抱き合いながら二人でルンルンする。


「やりましえれえれえれえれ」


 ルンルンでシアスタを持ち上げてくるくるしていたら突然ゲロ雪を吐きやがった。そのせいでオレの顔には雪が積もっている。


「はっはっはこやつめー、ゲロ雪吐きやがってー」


「だって、二人が死んだと思って、全部終わって安心したら、ふぐぅ」


 雪でシアスタの顔は見えないが、また泣かしてしまったようだ。


 そして感覚的に、持ち上げられている状態で丸くなってるなこれ。


「心配かけて悪かったよ」


 でも勝ったから結果オーライってことで、許してくれ。


「まだだ、まだ終わっていないぞ」


 こっちのほんわか雰囲気を、ソーエンの緊張した声がかき消す。


「どうした!!」


 シアスタを下ろして顔の雪を掃い、ソーエンの方を見る。


「俺ではなく敵を見ろ」


 ソーエンが穴の中を指差している……?


 おかしい、ガランドウルなら倒しきったはず。なら何を指差しているんだ?


 そう思いながら穴の中を見ると、バラバラにした鎧が、空中に浮いた紫色の輝きを放つ玉の方へ集まり始めていた。


「なんだあれ!?」


「分からんが復活する気だろう、とにかく壊すぞ」


「シアスタ、魔法を!!」


「さっき残りの魔力全部吐いちゃいました」


「なにしてんだ!! ソーエン、射撃!!」


「撃ってはいるが全て弾かれる」


 ソーエンが今撃っているのは通常の銃だ。恐らくMPが枯渇したんだろう。そして、あの玉に物理攻撃は効いていない。


 オレも初級魔法を撃つくらいしかMPが残っていないが、復活する時間はもう残されていない。


 …今出来ることをしよう。


「ソーエンは銃で鎧が集まるのを阻止し続けろ!!」


「お前はどうするんだ!?」


「突っ込む」


 そういって穴へと飛び下りる。


 最弱魔法は射程距離が恐ろしいほど短く、攻撃力も弱い。ゆえに最弱魔法なのだ。その代わり燃費が凄く良い。だから極僅かなMPでも発動することが出来る。


 紫の玉はオレが近づくまでに再生が終わらないと判断したのか、集まった鎧の破片の一部を着地したオレに飛ばしてくる。


 クソッ、避けている時間は無いのに!!


 たとえこの鎧の破片を避けようが、あの玉がある限りまた復活するんだろ?


 ガランドウルが動けるようになる状態まで回復されたら、またあの戦法を取らなきゃならなくなる。


 それじゃ堂々巡りだ。今決着を付ける必要がある。


「そのまま走れイキョウ!!」


 ソーエンはオレに向かってくる破片を全て的確に落としてくれる。


「ナイス!!」


 だったらオレはそれを信用して最短距離をただ真っ直ぐ走るだけだ。


 鎧の破片とソーエンの銃弾が目の前で弾けて飛ぶ。だがオレには一発も当たらない。


「バカめ、玉がむき出しだぞ!!」


 鎧を全部打ち出して、残るは空中に浮く玉だけとなっている。それじゃ本末転倒だろうがバーカ!!勝負を焦ったな!!


 それでも逃げようとしないのは、こいつがガランドウルだからだろうか。ま、どうでもいいけどな!!


 玉が目と鼻の先までの距離に来ると、左手にエレメンタルフィンガー(雷)を使って玉を鷲づかみにする。


 エレメンタルフィンガーで触れた部分にはすぐにヒビが入り始めた。


 やっぱり、思った通りこの玉自体もガランドウルと似た耐性だったようだ。ただ、鎧よりもずっと脆い。これならやれる。


 よく見るとうっすらだがソーエンの銃弾の跡も見えるけど、これじゃあ破壊するまで時間が掛かりすぎる。直感で接近して正解だったな。


「正々堂々真正面から戦ってやるよ」


 右手を引き、残っている全てのMPを込める。


「喰らえ、これが新技。エレメンタル右ストレート(雷)!!」


 思いっきり玉めがけて拳を振りぬく。


 硬くてちょっと痛かったが、オレのエレメンタル右ストレート(雷)を受けた玉は跡形も無く粉々に砕け散った。


「やった…のか?本当にやったんだよな?もう次はないよな?」


 周囲を見渡すが、もう何も起きていない。


 飛ばされた鎧も朽ち始めていて、直に風に乗ってどこかに消えるだろう。


 ってことは……。


「今度こそオレ達の勝ちだあああああ!!」


 勝利と成功の雄たけびを上げる。


 ソーエンが穴に下りてきてオレの方へ近づいて来る。


「よくやったなイキョウ」


「おうよ、これでもう邪神の眷属復活の証拠は全て消しきった!!」


 町の人や調査隊、冒険者はスケルトンの大群を見ただけで邪神の眷属の姿を見てはいない。だからここで殺しきってしまえば今回の件はただのスケルトン大量発生事件で終わる。


「それで、この穴をどうやって塞ぐつもりだ」


「あ」


 倒すことばかり考えて、後の事は完全に考えてなかった。


 どうしましょ。


 その後シアスタが合流したそうに見てきたのでソーエンに連れてきてもらい、オレ達はまた穴の真ん中に座り込んで、この場所で起きたことの証拠隠滅会議をするハメになった。

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