第29話 ガランドウル
「オレの名はイキョウ」
ここからは作戦と戦略のことだけを考える。そのために何でもいいから時間を稼ぐ。
「ソーエンだ」
「ガランドウル」
名前をしゃべっていることなどは気にしてはいけない。何か勝つ方法を考えるんだ。
「目的はなんだ」
「……」
「和解はできないのか」
「……」
くそ、無言で剣を構えてきやがった。考えている時間はもう無い。
「武器を構えろ」
ソーエンの指示でオレはダガー二刀を構える。左は順手で右は逆手がオレの基本の持ち方だ。
ソーエンは魔法銃を構えている。そっちの方がダメージが出やすいからだろう。
お互い同行の指輪は外す。手加減して勝てる相手ではない。
覚醒極武器を使いたい気もするが、最初は皆揃って使おうと約束しているので絶対に使わない。本当は使いたい。でも約束は絶対に違えたくない大事な約束なんだ。コイツ如きに使ってなんてやるもんか。
それに、手に馴染んだ武器の方が扱いやすい。初武器をこんな危ない場面で実践投入はちょっと遠慮しておきたい。
「前衛はオレ、後衛は任せた」
「ああ」
オレは前衛というよりは戦場をチョロチョロ駆け回るオールラウンダーなんだけど、物理盾がいない今は回避盾で代役するしかないので前衛をやる。
それに、MPもあまり残っていないからトリッキーな戦いはあまり出来ない。だから盾役をやるしかなかった。
役割は決まった。あとはもう戦うしかない。
「行くぞ!!」
オレはまっすぐ突撃をし、ソーエンは相手の背後を取るように円を描くようにして走り出す。
ヘイト管理はオレの仕事じゃないから慣れてはいないけど、ようはガランドウルをソーエンの方へ動かさなきゃいいだけだ。しがみついてでも足止めをしてやる。
今はまだスキルの使い所ではないので、そのまま突っ込む。
ガランドウルは突っ込んでくるオレを見て、剣を右横に構えている。なぎ払いをする気だ。
予想通り、距離を詰めて剣の間合いに入るとすぐになぎ払いをしてきやがった。
オレはそれを飛んで回避し、鎧を左のダガーで突くが金属のぶつかる音と共に弾かれる。
軽口を言って自分を落ち着かせたいが、そんな余裕は無い。
ガランドウルの背後からはソーエンの銃弾がヒットする音が聞こえてくる。一応出だしは順調のようだ。
これは叛徒の戦い方ではない。でも、今出来る最善の策はこれしか思いつかない。
ガランドウルに遠距離攻撃は無い。だったら一人がひたすら引き付けておけば他に被害が及ぶ事は無い。
ただ、一撃すら当たっていけないという条件の下どこまでやれるか……。
避けることは得意だけど、いつまで避けていれば良いのか分からない状況で回避を続けるのはあまり好ましくは無いな。
コイツは特殊行動がほとんど無い分、自力が試される。単純な力ってのは堅実に強いから、搦め手が得意なオレとの相性は最悪だ。
顔の前を剣が横切る。
余裕で避けるんじゃない。ギリギリで避けるんだ。そっちの方がオレに喰らいついてくるだろう。
ガランドウルに利用できそうな感情や思考があるのか分からないけど、取れるだけの戦法は惜しみなく使っていく。じゃないと勝てない。
っていうか、そもそもオレ達二人だけで勝てんのか?
いや、オレ達二人は勝つ。じゃないと次はシアスタ狙われる。そんなことは絶対にさせない。
絶対に泣かせない。
どんなことをしてでも絶対に勝つ。
* * *
斬撃を回避し、効いているか分からない攻撃を当て、ソーエンの方へ向かいそうになるとスキルを使って阻止をするという攻防を繰り返した。
どれほど戦ったのだろうか。ガランドウルにダメージは与えているはずだが全然倒れる気配は無い。オレとソーエンのMPもたった今尽きた。
ソウルコンバーションテールはスキルのクールタイムは存在しなく、職業の基本スキル以外は全てMP消費で行う。
なんでも、リアリティ重視なゲームがコンセプトだからだとか。リアリティってなんなんすかね。
だからMP管理がとても重要だ。MPを回復する手段は自然回復、MP吸収、死亡からの復活の3つがある。MP吸収は魔法職しか使えないので、今のオレ達は2つしか手段が無い。
「まだ倒れねぇのかよ、クソッ」
息が上がる。呼吸が苦しい。
このままでは勝てない。そもそも叛徒なのに前衛をやること自体無理があったんだ。
オレの本分は敵をかき乱すことであって切り合うことじゃない。
何か、何か策を考えなければ。頭を回転させなければ。
勝つための作戦を。
「イキョウ、止まるな!!」
頭を使おうとしたせいで一瞬足が止まってしまった。
ガランドウはそれを見逃さず、オレの体を掴んで来る。
前衛しながら頭を使うなんて慣れないことをするもんじゃないな。
この攻撃はガランドウル最強最大の一撃、スカイダイビング串刺しの刑 (ユーザー命名) だ。
オレの体は空中に放り出されてそのままガランドウの上へ落下する。
ガランドウルは下から突きをするような構えをしている。その剣は黒い光を放ち、切っ先はオレに向けられていた。
「イキョウさーーーーーん!!」
シアスタの声が聞こえた。じっとしてろって言ったのにいつの間にか広場に出てきていたのか。
そしてオレは落ちながらその剣に貫かれ、その後黒い爆発が起こる。たとえ空中を移動して逃げても追尾してきて絶対に当たるスカイダイビング串刺しの刑は、オレを殺すに十分な一撃だった。
* * *
……また暗闇だ。虚無に落ちていく。空から落とされ、虚無にも落とされ、落ちて行くばっかだな。
すぐに復活をして戦わなくちゃな…このまま復活しても大丈夫だよな?
体は吹っ飛んだけど復活ウィンドウがあるからいけるだろ。
復活したところでオレに有効打は無いから、ソーエンは申し訳ないが回復のために死んでもらおう。オレも落ちたんだからあいつも一回落ちやがれ。でも、やっぱりこの光景は誰にも見て欲しくは無いな。この全てが落ちて行く感覚は心底怖い。
……落ちる、落ちるか。
「いいこと思いついちゃった」
心のニヤケが止まらねぇ。早速復活して実行することにしよう。
オレは復活を選択してこの虚無の暗闇から抜け出す。
* * *
日の光がまぶしい。手足の感覚もある。どうやらオレは無事復活できたようだ。
辺りを見ると、離れた場所でソーエンがガランドウルの攻撃を避けながら戦っていた。魔法銃が使えなくなって通常の銃に持ち替えているようだった。
「イキョウ、復活したなら早く戦え!!」
ソーエンは余裕が無いのか焦ったような口ぶりでオレに命令してくる。
「ソーエン、策があるからお前も一回落ちろ!!」
「…信じていいんだな!!」
「もち」
ついついニマーっとしながら返事をしてしまう。
「分かった」
そういうとソーエンも足を止めて抵抗することなくスカイダイビング串刺しの刑を喰らう。
「ソーエンさーーーーーん!!」
シアスタがボロボロ泣きながらソーエンの名前を叫んでいる。
「シアスタ!!戦闘態勢に入れ!!」
「イキョウさん!?」
今頃オレの復活に気がついたらしい。
「色々聞きたい事はあるだろうが、説明は後だ!!」
復活したオレを認識したガランドウルがこっちへ走ってきているので、オレは急いで地面に手を付いてスキルを発動する構えを取る。
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