第26話 嫌な予感は外れて欲しい

「おはよう、何かあったのか?」


 平和の旗印もそこに居たので、話しかけて事情を聞く。


「おお、お前らも来たか。なんか森の様子が変でな」


「森の様子が?」


 試しに<生命探知>で軽く森の方を探ると、一匹も生き物が掛からなかった。


「本当だ」


「ケケ、静かってもんじゃないね。異常事態だよ」


「モヒカもおはよう。アメ舐める?」


「貰うよ、ありがとね。今度オススメのカフェを奢るよ」


「楽しみにしておくわ、これからどうすんだ?」


 モヒカにアメを渡して話を続ける。そろそろアメが尽きそうだな、今度果物ぶち込んどくか。


「今そのことについて調査隊員同士で話し合っている。冒険者はまだ待機だそうだ」


「そっか、なら煙草でも吸って待つとするかな」


 オレとソーエンはキンス達と少し距離をとってから煙草を取り出し火をつけて吸う。


「アメください」


 シアスタはオレ達が煙草を吸うと決まってアメを要求してくるようになった。


「ほらよ。あとでちゃんと歯磨けよ。で、ソーエンはフローと何話してたんだ?」


 オレがキンスとモヒカから事情を聞いている間、ソーエンはフローと二人で何かを話しているようだった。


「なに、他愛の無い話だ」


 ソーエンの目は何も言わないので、本当に他愛の無い話だったのだろう。


「そっか。にしても何が起きてんだろうな」


 森の生き物が居ないことに加え、今日は風が無いせいか辺りはとても静かだった。空が晴れているからまだ良かったけど、曇っていたらかなり不気味な空気に包まれていただろう。


「わからん。ただ、何かが起きたのだろう」


「当たり前だ、今その何かを聞いてんだろがよ」


「わからんと言っただろバカが」


「んだとコイツッ!!」


「お前らちょっといいか」


 オレとソーエンが喧嘩しそうになったところをキンスの言葉で止められる。


「なんだ」


 命拾いしたなソーエンと思いながら後ろを振り向くとオレ達の方に人が集まっていた。調査隊員の服は着ていないから冒険者だろう。


「ただ待つのもなんだから、冒険者同士でも情報交換くらいはしておこうと思ってな」


「煙草吸いながらでもいいか? 魔法の煙草で体に害は無いからさ」


 まだ吸ったばかりなので消すのはもったいない。


「魔法の? 珍しい物持ってんだな。まぁ、問題ないだろう」


「ありがとう。初めてだから自己紹介するよ、パーティ<インフィニ・ティー>だ。よろしく」


 平和の旗印以外初めての顔なので、礼儀として紹介をする。


「俺達はにゃんにゃんにゃんだ」


 オレの紹介に続いてスリムマッチョのネコミミ男が何かを言った。


 ……今なんて言ったんだ?


「…悪い、聞き逃したみたい。もう一度言ってくれ」


「にゃんにゃんにゃんだ」


 どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。


 剣を背負ったスリムマッチョのネコミミ男3人が固まって立っているところをみると…にゃんにゃんにゃんは、にゃん×3のパーティってことか。……平和の旗印といい見た目と名前が違いい過ぎる。


「思ってたのと違う…」


 ソーエンは横でボソッとそれだけ言う。目が凄い落ち込んでいる目をしていた。前にも気にしてたし何か思う所があったのだろうか。まぁ、理由はなんとなく想像は付くけどな。


「我々は絶・漆黒の影」


 今度はゆったりとしたフードを被っていて布で口を隠している、ソーエンの亜種みたいな灰色4人組みのパーティが自己紹介をしてきた。


 今度は見た目通りだけど名前の癖が強すぎる。


「そちらの同胞よ。いいセンスだ」


 それだけソーエンに言って絶・漆黒の影は黙った。


「私達は太陽の恵みです」


 女の子3人の一団が紹介をする。


 よかった、見た目も名前もまともなやつらも居てくれたようだ。


 でもこうなってくると前に聞いたひまわり組が凄く気になってくる。


 3組中2組にツッコミを入れたかったが、そんな空気じゃないから我慢だ我慢。


「俺達は知ってのとおり平和の旗印だ。お前ら以外は皆顔見知りだぞ」


「そうだったのか。時間とらせてすまんかった」


「気にするな。しないよりよっぽど良い」


 にゃんにゃんにゃんのリーダーが俺を許してくれる。見た目は少し怖いけど良い人だった。


「で、森で一体何が起こったか心当たりのあるやつはいるか。この際何でも良い、思いつくなら教えてくれ」


 キンスが場を仕切って話を進めてくれる。けど、誰も口を開くことはなかった。


「やっぱり居ないか」


 キンスはこの結果を予想していたようで、それ程ガッカリはしていなかった。


 誰もがこの調査において何も見つけられず、何も心当たりが無い。


 しかし確実に森には何かが起こっているということで全員が理由の無い不安に襲われていた。


 原因どころか心当たりすらないため、全員が黙ってしまい無音の時間が続く。


「噂だが」


 誰もが口を閉ざしている中、厨二病のリーダーだけが口を開いた。


「この森は昔、邪神の眷属が封印された場所と言われていたらしい」


 厨二病が厨二なことを言い出したぞ。


「邪神だぁ? 邪神の眷属がなんでこの森に?」


 絶・漆黒の影にキンスが質問をする。


「代表を襲いに来て返り討ちにあったと聞いている」


 絶漆黒の影の言うことが本当なら、邪神の眷属とか言う強そうなやつを退けるなんてカフスは凄いドラゴンなんだな。


「封印されたといわれている場所は、あの謎の山があった所だ」


 封印場所まで分かっているらしい。


 謎の山というと、オレとソーエンがスキル確認で使って爆破させた場所のことか。結構身近なところに封印されてんだな。


 ……


「すみません、ちょっとパーティで話し合いたいことがあるので抜けます」


 急いで煙草を消してアイテムボックスに放り込む。


「ここじゃダメなのか?」


 場を取り仕切っているキンスがオレの提案を却下しようとしてきやがる。


「個人的事情と宗教上と健康上の理由により無理です」


「事情が多いな。でも、まぁ…仕方ないか…。冒険者同士詮索はご法度だしな。あまり遠くには行くなよ」


「あざーッス」


 許可を貰えたので、二人を引き連れて大急ぎで声が聞かれないところまで大急ぎで離れる。急いで話さないといけない事が出来たからだ。


 そして三人で丸くなりながらしゃがみ込んで顔を突き合わせる。


「なんですか話って。今一番話をしないといけないことがあるんですよ」


 シアスタが少し怒りながらオレに文句を言ってくるが、今はそれどころじゃない。


「その一番しないといけない話を今からしないといけなくなったんだ」


「はい?」


 少し焦っているので言葉が変になってしまう。


 オレの頭は今モーレツに嫌な予感を駆け巡っているので冷静になれない。


「なぁソーエン」


「ああ」


 ソーエンもオレが話したいことが分かっているようで目が少し泳いでいる。


 この中で唯一分かっていないシアスタの為に、時間が惜しいので超簡単に説明をしてやろう。


「多分…オレ達、眷属の封印解いちゃった」


 超簡単な説明終わり。


 オレ達がやったこと、森の様子、邪神の話を加味するとこの結論しか出てこない。


「はぁ!?何してるんですか!!」


 シアスタの出した大声のせいで、離れた冒険者達がこちらを見てくる。


「しー!!聞かれたらまずいんだって、大声出すな!!」


 焦ってシアスタを宥める。なんの為に離れたと思ってるんだ!!


「言い訳させてくれ。事故だったんだよ、わざとやったわけじゃない」


「そうだ。それに、まだ俺達が封印を解いたとは限らないぞイキョウ。あの話が本当ではない可能性もある」


「わざとじゃなくてもやらかしたことには変わりませんよ!!でもそうですよね、まだ決まったわけじゃないですもんね。調査でも何も見つかりませんでしたし!!」


 初めは声を落としながら怒るシアスタだったが、段々とオレ達に言うというより自分に言いかせるようにして喋るリはじめ、どうにか落ち着いてくれた。


 そうだ、まだ封印を解いたとは決まっていない。ここ数日何もなかったしオレの思い過ごしだろう。やらかしてしまったと焦ってついついそっち方向の可能性ばかり考えてしまっていた。焦りは禁物だな、人の思考を鈍らせる。


「だよな、悪い悪い。一人でつっぱしちゃったみたいだ」


「そうだイキョウ。邪神なんて居るわけ無いだろ」


「あっはっはーだよなーそうだよなー」


 ないないないあるわけが無い。思い込みって怖いな。


 無駄な話し合いのせいで時間を浪費してしまった。


 さっさと冒険者達の方へ戻ろう。オレ達が無駄なことをしている間に、あっちでは何か進展があったかもしれないしな。


 そう思って、冒険者達の方へ向かおうとした瞬間。


「大変だ!!スケルトンの大群がこっちに押し寄せてくるぞ!!」


 遠くのほうで、大急ぎで森から出てきた調査員が大声で悪い報告をしてくる。


「まさか…」


 いや、落ち着けオレ。大量のスケルトンが発生しただけだ。邪神の眷属とは何も関係は無い。


 急いで冒険者達と合流してスケルトンの大群に対して備えよう。


 走って近づくと、何やら冒険者同士で話をしていた。


「邪神の眷属はスケルトンの軍団を率いていたと聞いている。やはり封印が解かれたか」


 合流直前で、絶・漆黒の影から今一番聞きたくないことが聞こえてきた。


「どうすんですか!!イキョウさん、ソーエンさん!!」


 冒険者達の元にたどり着くと同時に、シアスタが騒ぎ始める。


「大丈夫だ嬢ちゃん、お前らは俺達が守ってやる」


 違うんですキンス。シアスタは不安でオレ達に助けを求めているわけじゃないんです。やらかしたことへの責任を聞いているんです。


「あわわわわわわ」


 シアスタが泣きながら頭を抱えて丸まってしまった。


「嬢ちゃん…怖いよな。イキョウ、ソーエン、俺達に何かあったらこの子を守ってやってくれよ」


「あ、ああ」


 違うんです。この子、自分の仲間がとんでもない事をやらかして、どうしたらいいか分からなくて泣いているんです。


 オレがどうしようと考えている暇も無く、調査隊員全員が冒険者の方に走ってきて、この場にいた全ての人が集合する。


「こちらが捕捉したスケルトンの数は恐らく1000~1500で武器を持っています。森の奥にはもっといる可能性があります。進軍している方向をみるとアステルを目指しているのは確実でしょう」


 考えていた数より膨大過ぎて想像できない。


「数が多すぎる。俺達だけじゃ対処は無理だ。町に退却してそっちで迎え撃とう」


「ですね。これより全力でアステルに退却し、都市の全勢力を持ってスケルトンを迎え撃ちます!!。テントは破棄、調査で得た情報をまとめた資料と道具だけを持ち帰ってください!!」


「冒険者は調査隊の後ろに付いて殿をやるぞ!!」


 オレ達が話し合う暇もなくすぐに方針が決まってしまい、それぞれのトップがこれからやることの指示を出す。


「どうするんだイキョウ」


「どうしましょ」


 こんな状況で勝手に動くわけにも行かないし、ここに残るって言っても許しては貰えないだろう。


「二人ももたもたしてないで逃げる準備を始めろ!!」


 キンスに怒られてしまって結局オレ達は話し合いも出来ず、そのまま退却の準備の手伝いをさせられることになった。


 調査隊員の荷物をまとめたり、退却時の陣形を決めたりして撤退の準備が進められる。


 全員が迅速に動いたおかげですぐに撤退の準備は終わった。そのせいで、またオレ達が話し合う事が出来なかったが。

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