第27話 沼、氷、移動砲台
「これより撤退を開始する!!」
キンスの号令で職員は荷物を抱えて走り出し、オレ達はその後ろにつく。
明確な隊列は無いが、とにかく調査員は前で冒険者は後ろ。細かいことを決める時間は無かったため、急増の陣形よりもパーティごとに動いたほうがいいとの事で、大まかな指示以外は各パーティに任せるとの事だった。
撤退が始まり、森から少し離れたところで後ろを見ると、剣や弓、中にはブーメランを持っているスケルトン達が森から出てくる姿が見えた。
そして、スケルトンはオレ達を見つけるとカラカラと音を出してこちらに向かって走り出す。
「骨の癖にどうやって走ってんだよ!!しかも結構はえーし!!」
「ゲームの頃はもっと動きが遅かったな」
「スケルトンに見つかったぞ!!」
キンスが走ってくる事を大声で周りに伝えると、皆速度を上げて走り出した。
「シアスタ、乗れ!!」
シアスタは他のやつらに比べて小さいので走るのが遅い。だから抱えてだっこする。おんぶだと攻撃が飛んできたときに当たってしまう可能性があったので、オレの体で守れるようにだっこにした。
「お礼を言えばいいんですか!?文句を言えばいいんですか!?」
抱えたシアスタはオレにがっちり掴まりながら混乱していた。
「できればお礼で」
「じゃあ文句です!!」
胸元が冷たい。興奮して泣いているようだ。体が溶けた涙であり、そこに感情は乗っていない。
「まずいな、このままでは追いつかれるぞ」
にゃんにゃんにゃんのリーダーがそういったので振り向くと、敵との距離が段々と詰められていた。スケルトンの癖に足が速すぎる!!
「このままじゃ町まで逃げ切れねぇな」
キンスはどうするか判断を迷っているようだ。
それに逃げ切れても、何も知らせが行っていない町に引き連れていったら混乱が起きる。カフスが何か手を打ってくれている可能性もあるが、何も対策がされていない可能性もある。
「ここで迎え撃とう!!」
「待ってくれキンス、考えがある。皆はこのまま走り続けてくれ」
オレはキンスの横について話をする。
「またあのロープを使うのか?」
「あれじゃ焼け石に水だ。別なのを使う」
「…分かった。任せよう」
「いいのかキンス!!5等級だぞ!!」
にゃんにゃんにゃんの一人がオレに任せることに異を唱える。それはオレの等級を見たら当然のことだった。周りから見れば、任せてくれたキンスの方が、言い方は悪いが異常だ。
そのキンスはオレを信頼してくれていて、周りを宥めている。
「シアスタ、ソーエンの方に移動させるから離れてくれ」
がっしりしがみついているシアスタに放してくれとお願いする。
「ダメですよ!!討ち死になんて許しません!!」
何を勘違いしたのか、シアスタの中じゃオレは死ぬことになっているらしい。責任を取って一人で戦うと思ってんのか? オレは叛徒だぞ。そんな崇高な思想は無い。それに、アレくらいなら戦っても死にはしない。
「ちげーよ、足止めの為に止まるから離れてろってことだ」
「なら私も手伝います!!」
シアスタは器用にオレの体をよじ登って背中に移動する。
今からオレのすることが分かったのかコイツ?
「ソーエンはこのまま走り続けてくれ」
「了解」
オレは走った勢いを殺す為に、振り向きながら踏ん張って停止する。
そしてその場でしゃがんで手を地面に付き、スキルを発動する。
「範囲拡張、<スワンプ>!!」
オレとスケルトンの間に、魔力を込めた巨大な沼を作って足止めをする。
ソーエンの魔法銃やオレのアースウォールのように、MPを注ぎ込めば範囲や攻撃力を上げられることが分かったので、今回は大量にMPを注ぎ込んで範囲を拡張した。
「続いていきます。<アイスグラウンド>!!」
背中に乗ったままのシアスタが杖の底を地面に付いて魔法を唱えると、沼を除いた周囲の地面が広範囲で氷に覆われた。
「これが氷の精霊の力です」
後ろからドヤァァとした声が聞こえるが、どうすんだこれ。
「これじゃオレも逃げられねーじゃねぇか!!」
こんなツルツルにされては走って逃げることが出来ない。バカなんじゃないかコイツ!!
「大丈夫です。逃げ道は用意してあります」
そういわれて後ろを見ると、オレの背後にだけ、凍っていない一本の道があった。
「……バカだと思ってごめん」
「私は寛大ですから許します」
逃げようと思って振り向いて走り出すと シアスタはまた器用によじ登ってお腹側に戻ってきた。
速度を出して走り、ソーエンと合流をする。
「うまくやったようだな」
「これなら大分時間が稼げる。それに地味だからオレ達の力はばれない」
どっちかと言うとシアスタの方が派手だったので、周りからはシアスタを褒める声が聞こえてくる。
「照れますねぇ」
シアスタに目をやるとムフフとしてるので、絶対に照れていない。それどころか内心全力で喜んでるだろ。
「数は少ないが、沼と氷を迂回しているやつらもいるな」
ソーエンにそういわれて後ろを見ると、大体は直進しているが何体かは遠回りをしてこちらへ向かってきていた。
「危険の目は摘む。イキョウ、移動砲台をやるぞ」
「オーケー」
「移動砲台?」
スケルトンとは距離があるので、さすがのソーエンでも走りながらは当てられない。だが、走らず狙えれば絶対当てる。
「ソーエン、移動砲台モード!!」
オレの声と共にソーエンはオレの上へ飛ぶ。そして半回転をして後ろを向きながら足を曲げてオレの背中に落ちてきた。オレはそのソーエンの足を脇で挟んで固定する。
つまり膝立ちの体勢のソーエンがオレの背中にへばりついている状態だ。
「ソーエンさんの足が生えました!!」
「元から生えている」
お腹側に居たシアスタは、急にオレの脇からソーエンの脚が生えてきて驚いていた。
オレは体を一切揺らさないように走る。
このソーエン移動砲台モードはゲームで速い敵から逃げ切れないときに良く使っていたので、体を揺らさない走り方は慣れている。クラメンには面白いと好評だった。
この状態だと振り向いてもソーエンの体で後ろが見えなくなるから、後は親友を信じてひたすら走り続ける。
「…なんじゃありゃ」
ちらちらと周りのやつ等がオレ達のことを見てひそひそ話をしているが無視だ無視。
背後の様子は分からない。でも、ソーエンが射撃をしているならわざわざオレが確認しなくても分かる。順調だって事がな。
それほど時間が経たずして、ソーエンから解除しろとの指示が来る。
走りながら解除をすると、空中で自由になったソーエンは<空歩>で一回宙を蹴り、その勢いを利用してオレ達に併走してきた。
「同胞よ、その武器は?」
いつの間にか近くに来ていた厨二病軍団はソーエンの武器に興味津々なご様子だ。
「秘匿情報だ。簡単には教えられん」
「フッ…」
不敵に笑ってそのまま軍団は離れていく。
ソーエンは説明がめんどくさがって適当に答えただけなのに軍団は満足そうだった。よく分からん集団だなぁ。
「あのあの、ありがとうございました」
厨二病の次は女の子達が集まってくる。入れ代わりが激しい逃走劇だ。
「三人のおかげで助かりました」
「いいってことよ」
すごい普通の会話だ。見た目も名前も内容もおかしくない…すごい安心する。
太陽の恵みのあとにもにゃんにゃんにゃんからお礼とお詫びを言われ、その後は特に問題も無いまま町に戻ることができた。
キンスや調査員はそれぞれ各所に伝令をしに行ったので、オレ達はようやく自由な時間を手に入れる。
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