第10話 真っ白ゴスロリと逃走劇

 オレとソーエンは森の中を全力で駆け抜けた。


 ずっと<生命探知>を発動して様子を確認しているが、オレ達の移動中、1人と一匹は一切動いていない。一匹の方はオレのスキルに反応したのか、辺りを警戒しているようだった。


「もうすぐ会敵だ。引き締めて行くぞ」

「了解」


 幸い<生命探知>を使ったことが、オレ達が到着するまでの時間稼ぎになったようだ。


 このままいけば間に合う。


 もう少し、あの茂みを抜ければすぐそこに居る。


「突入!!」


 茂みを突き抜け、巨大な一匹の前にオレ達は立つ。


「……でっか…」

「殺すか」

「お前さっき話し合ったこと忘れたの? このバカが」


 巨大な反応の正体…それははさっきオレ達が狩ったやつよりとても大きな、さっきの土壁くらいある巨大なファングボアだった。辺りの木よりも少し高い。背中なんて森からはみ出てるぞ。


 まずは現状の把握をしよう。


 目の前にはデカイイノシシ、辺りには薙ぎ倒された木や謎の巨大な氷が転がっている。


 オレの後ろには、白い髪が膝くらいまである、全員真っ白ゴスロリ魔法少女がいた。オレ達と同じ鉄のプレートを首から下げているから冒険者か。


 見た目からして小学生くらいか?


 ゴスロリは顔や服に汚れが付いていて、ぼろぼろになるまで頑張ったことが分かる。


 対象を確認したオレ達は次の行動へ移るために、ソーエンは巨大ファングボアに、オレはゴスロリに向かって立つ。ソーエンには巨大ファングボアが動かないように牽制をしてもらっている。


「あなた達は!?」


 急に茂みから現れたオレ達を見たゴスロリは、当然の疑問をぶつけてくる。


「オレ達? オレ達も冒険者だ。お前を助けに来た」


 オレは首に下げている鉄のプレートを指で弾きながらゴスロリ少女に見せつける。


「嘘……逃げてください、あななたちじゃ勝てないです!!」


 ゴスロリは焦った表情をしながらオレ達に叫ぶ。


 多分オレ達の等級を知ったからだろう。


 だけどな、オレは助けに来たとは言ったが戦うとは一言も言って無い。


「大丈夫。元より戦う気は無いから」


 そう、叛徒の本分は戦闘ではなく逃走だ。オレに勝ち負けなんて関係ない。お前を助けられればそれでいい。


 それに、まだあることを確認して無いからこの目の前の命とは戦えない。


「やれイキョウ」

「あいよー、<煙幕>!!」


 スキル<煙幕>は、自分を中心に爆発的に煙を解き放つ逃走用スキルで、攻撃や状態異常などの効果は無い。ただ視界を奪うだけのスキル。


 ゲームでは何も思わなかったが、現実で使うとなんか煙ったい。さっきのお香よりも煙ったい。


 スキルを合図に、ここへ着くまでの間にした打ち合わせ通りの行動を始める。


「なんですかこれ!?うわっ!!」

「回収完了!!」


 オレは左の小脇にゴスロリを抱えてソーエンへと報告をする。


 ゴスロリは困惑していて暴れているが、状況が状況なため我慢してもらおう。


 あと、暴れられると力が入って折ってしまいそうだから出来れば大人しくしてくれ。


「殿は任せろ」


 ソーエン曰く何か起きたときは足止めをするから、オレは少女を担いで逃げろとのこと。何も起こらないようにオレは祈ってるよ。片手で。


「それじゃよろしく。ダッシュ!!」

「いやぁぁぁああああああ!」


 オレの号令で、あらかじめ決めておいた町の方向へ、少女を抱えながら出せる中での全力で逃げる。


 本当の全力は、少女をへし折ってしまうので出すことが出来ない。


 オレ達はUIで方向を確認しながら走り、<煙幕>から抜け出しただひたすらに駆ける。


「次の作戦は」


 ソーエンはオレの横へと並んで、次の一手を求めてくる。


「まだ全速前進で」

「了解」


 このままあのイノシシが大人しくオレ達を逃がしてくれればそれでいいし、追いかけてくるならそれ相応の対処をする。でも、あることを確認するまでオレ達は攻撃を行う気はない。


「助けてくれてありがとうございます」


 逃走することで安心したのか、おとなしくなったゴスロリが振動で声を震わしながらお礼を言ってくる。


「舌噛むから話は後で聞くよ。それより、来たぞソーエン」


 背後から木々をなぎ倒す音が聞こえ始める。


「一応想定通りだな」

「最悪のな」


 <煙幕>は視界を奪うスキルであってそれ以外には何も作用しない。だから鼻や耳のいい設定のエネミーには機能しないことが多い。それはこの世界でも同じなようだ。


「この音、もしかして追いかけて来てるんですか!? 無理ですよ!!私を抱えたまま逃げ切るなんて!!」


 そうなんだよなあ。力を抜きながら走るトップスピードは現状が最速で、これ以上本気を出したら多分折る。何がとは言わないが。


 追いつかれることはソーエンと事前に話しあっていたから、一応打開策は用意してある。


「ソーエン、プランAをやる!!」

「了解」


 因みにBはない。


 オレはアイテムボックスからアイテムのロープを選択して右手に出現させて、迎撃の準備をする。


「縄……? 一体どこから」


 ゴスロリの疑問に答えている暇はない。

 オレは後ろをちらちら確認しながら走り続ける。


 音がじわじわと近づいて来る。


 徐々に、背後の木々がなぎ倒される様が見え始めた。暴力的なその進行は、森に後を残してオレ達を追いかけてくる。


 そして……ついに、巨大ファングボアの姿が見えるまで接近された。


 でも、オレはこの瞬間を待っていた!!


「今だ、喰らえ!!二連<ロープバインド>!!」


 <ロープバインド>とは、アイテムのロープを使用することで発動できるスキルで、ヒットすると相手はロープに拘束され、移動が阻害される。巨体になればなるほど一度で拘束できる部位は減るから、今回は前足と後ろ足を狙い撃ち、二箇所を拘束することにした。


 流石に足を縛られバランスを崩したのか、巨大ファングボアは転んで速度が落ち、あっという間に見えなくなる。


 ふっ、こんなにアッサリ終わらせてしまうとは……自分の力が憎いぜ。


「よっし大成功!! さすがにここまですれば追って来ないだろ」

「鮮やかだったなイキョウ。やはりお前に任せて正解だった」

「オレに任せてくれてありがとなソーエン」


 オレ達二人は顔を見合わせて笑う。勝利の笑顔だ。

 少し速度を緩める。このまま森を出るつもりだが、一応警戒はしておく。


「結構なお手前だったな」

「それほどでもあるかなー、うけけけけけけ!!」

「ひえっ…」


 オレは勝ちを確信した笑いを上げる。


 ……ん? 今ゴスロリがなんか声上げたか?


「えっと……助けてくれて、本当にありがとうございました」


 泣きながらゴスロリがオレ達にお礼を言ったのを皮切りに、それぞれ安堵の言葉が三人の間で飛び交った。


 さっき無視して帰らなくて良かった。この子を救えて本当に良かった。


 オレは安堵を覚えながら逃走を続ける。


 作戦は成功したようでなにより。このまま逃げ切ってしまおう。


「……何か聞こえないか」


 安堵したのも束の間、ソーエンが唐突に不安を掻き立てる言葉を言う。


「んなバカな……マジじゃん」


 耳を澄ませなくても分かる。ってか飛び込んでくる。この音は…さっきも聞いた音だな。


 例えるなら、木々を薙ぎ倒し、何かがオレ達に迫ってくる音だ。


 恐る恐るオレ達三人は顔だけで後ろを見る。


「ブォォォォオオオオオオオ!!」


 怒り狂った巨大ファングボアがオレ達目掛けて走ってきていた。


「なんであいつ動けんだよ!!」

「よく見ろ、器用に前足と後ろ足で跳ねている」


 確かによく見てみると今までの直進的な動きに比べて、上下の移動が激しくなっている。


「頭いいじゃん」

「アグレッシブだな」


 巨大ファングボアの速度は元の速度より若干遅いくらいだ。このままだと追いつかれるのでオレ達は緩めていた速度を上げる。


「褒めてる場合じゃないですよ!!どうして野生の獣があそこまでして私達を追いかけてくるんですか!?」


 ゴスロリは号泣しながらオレ達に訴えかけてくる。


 ぐぅ…泣いてるけど悲しみの涙じゃないからセーフ。この涙何? 感情乗ってないんだけど?


 でも、確かにそうだ。この資源豊富そうな森でオレ達に固執する理由なんてない。そもそもアレだけ大きいんだ。オレ達なんて腹の足しにもならないだろ。


「追いかけて来る理由か」


 何かを言いたそうにこちらを見てくるソーエン。


「ソーエン、何か心当たりがあるのか!?」

「先程、俺達は何のアイテムを使っただろう」


 アイテム…オレ達…直近で使ったアイテムといえば


「獣の香だな」


 でもあれは今ボックスにしまってあるから、匂いが漏れるはずは無い。


「お前、仕舞う時にその煙に触れていたな」


 仕舞う直前に煙たくて咳き込みそうになったことを思い出す。


「……あっ、それかぁ」


 あの時オレに香の香りが染み付いたのか。


 うっかりしてたわ。この状況ではうっかりじゃ済まないのは分かっているがそれ以外に表現しようが無い。


「いやぁ大失敗。まさかここまで追ってくるとは」

「愚かだったなイキョウ。誰だお前に任せた馬鹿は」

「オレに任せたのはお前だろソーエン」


 コイツ、オレが作戦失敗の原因と分かるや否や、速攻で手のひらを返してきやがったぞ。


「その少女を渡せ。そしてお前は食われて来い」

「やだよ。復活しても胃の中じゃんそれ。そもそも食われて死にたくないわ!!」

「食べられるなんてダメですよ……復活? え?」

「ならば倒すか」

「無理ですよ!!あのファングボアとっても強いんですから!!」


 必死に訴えかけるゴスロリはずっと涙が止まっていない。どうしてこの子は悲しくも寂しくも無いのにずっと泣き続けてるんだろう。脱水で干からびてしまいそうだ。


 安心して欲しい。オレ達はお前を泣かせるほど弱くは無いんだ。


「俺達ならやれる」


 それが当たり前だと言わんばかりにソーエンが答える。


「だけどな一つ問題があるんだ」


 そう。オレ達には問題がある。


「問題ってなんです?」


 ゴスロリ少女が尋ねてくる。


 その問題はオレ達がこの子を助けに向かっている途中でした、作戦会議兼話し合いで最も難航した議題だ。


 オレ達はこの世界の常識を知らない。


 自分たちの力を把握できていなく、身の振り方も分からないし限度だって分からない。オレ達は異質な存在だ。好き勝手をしてしまったら何が起こるか分からない。


 そしてオレ達は考え無しにファングボアを殺し過ぎた。オレ達はあんなに容易く多くを殺せてしまうんだ。だから、一つのラインを決めたのだ。


「あれって食べれんの?」


 そう、無駄な殺生をしないと。


 そうしないと、この世界の生態系を壊してしまう。20頭のファングボアを狩って得た偉大な博愛精神は、オレ達にこれ以上の無駄な殺生を望んでいなかった。


「……」


 ゴスロリは思考停止したようで動かなくなる。


「「……」」


 ついついオレ達も黙ってしまう。


 そして堰を切ったように少女が大声を出す。


「食べられます!!」


 その言葉で安心した。食べることが出来るのなら無駄になることはない。大人しく人の糧になってもらおう。


「ソーエン、銃は撃てるか?」

「誰に物を言っている」

「さすが。なら、合図したら撃てるようにしておいてくれ」


 今ソーエンが撃ち殺したところで、巨大ファングボアの勢いが止まるわけじゃないから、このスピードだと潰される。別にオレ達は潰されても大丈夫だろうけど、このゴスロリはたまったもんじゃないだろ。


 ファングボアの動きは速く、小回りも利くとの事だから横道にそれても助かる保障は無い。


「プランBだ!!」


 オレは足を止める。ソーエンもオレの考えが分かったようで同じように足を止める。


 さすが親友。オレが今即興で考えたプランBにも即座に対応してくれる。


「止まっちゃダメです!!」

「作戦は」


 ゴスロリの言葉を無視してソーエンはオレに作戦を聞いてきた。


 オレは全力を出すためにゴスロリを地面に下ろしながらソーエンに作戦を伝える。


「やつを使って全力の筋力試し」

「なるほどな」


 そして巨大ファングボアに向き直る。


 木々を倒す音と跳躍する音、巨大な姿が一斉にすぐそこまで近づいてくる。


「無理ですよ!!逃げましょう!!」


 ゴスロリだってこのままじゃ逃げ切れないことが分かっているはずだ。それでもオレ達に逃げようと言ってくるのは、戦うよりも生存率が高いと思っているのだろう。オレ達が鉄の、6等級のプレートを持っているから不安にさせていると思うと申し訳なく思う。


「まぁ見てなって」


 そういいながらオレは地面を手につき、それに合わせてソーエンが二丁の魔法銃を巨大ファングボアに向けて構える。


「準備オーケーいつでもいいぞ」

「オーバーリロード」


 合図とともにソーエンが両手の魔法銃に魔力をためる。


「ショット」


 二発の魔法弾は、丁度跳躍の着地をした巨大ファングボアの脳天を撃ち抜き軽々殺す。でも、勢いは死んでいないから、あの巨体が滑るように無慈悲に迫ってくる。


 だったら止めるしかないだろ。


「<アースウォール>」


 流石にあの爆発の時みたいな巨大で分厚い壁を出すMPは残ってない。でも壁で止めるわけじゃない。だから、なけなしのMPを使って細く高い壁を前方に作る。


「ダメです!!潰されます!!」


 ゴスロリ少女はこの壁で勢いを止めると思っているらしく、丸まって泣いている。


 説明する時間が無いので、オレ達は最後の仕上げを実行に移す。大丈夫だ、任せろって。


「<壁走り>」

「<空歩>」


 オレは壁をソーエンは空を蹴り、空へと飛び上がる。


「えぇ…気持ち悪い」


 ゴスロリ少女が何か言ったがそのときには壁を蹴っていたので、離れていたので聞こえなかった。本当に聞こえてないからな。


 その声を無視して飛び上がったオレ達は、悠々と巨大ファングボアの頭上を取った。


 これで終わりじゃ!!


「止まりやがれ!!自由落下キック!!」


 オレは自由落下に合わせて踵落しの構えを取る。


 飛び上がった目的。それは、このバカみたいな筋力を上から叩き込むことだから、落下の勢いはそこまで必要じゃない。


「<空歩>」


 俺より高く飛んでいたソーエンは5回目の空歩を落下の勢いをつけるために使い、空中で反転して足を巨大ファングボアに向ける。


 当たる瞬間にオレは足を振り下ろしありったけの力を込め、ソーエンはそのまま勢い良く突っ込む。


 二人の筋力を今ここに!!


 タイミングは同時、二人合わせた一撃はただ衝撃をファングボアに叩き込む。


 辺りに鈍い轟音が鳴り響き、そして鳴り止む。辺りにもう音は無い。元の静かな森に戻っている。


「足が突き刺さらなくて良かったわ」

「まったくだ」


 軽口をいいながら、停止したファングボアの上で立ち上がる。


 筋肉質なのか、足元はしっかりしていて毛がふさふさしているから、さながら草原に立っているような足の感覚だ。


 二人とも全力で蹴って足が突き刺さることを危惧していたけど杞憂に終わった。オレ達の怪力を持ってしても貫けないのは朗報だ。そこまでオーバースペックではなかったらしい。


「終わった……んですか?」


 下から恐る恐る発したような声が聞こえる。


 そちらに顔を向けるとオレの出した<アースウォール>から顔だけ出したゴスロリがこちらを覗き込んでいた。


「終わったから安心しろ」


 いつまでも上に乗っている訳には行かない。


 オレ達はファングボアからゴスロリの方へ飛び降りると、ゴスロリもオレ達の方へ寄ってきた。


「作戦完了だ」


 胸を張り自信満々にゴスロリに伝える。心配になるからもう泣かないでくれ。出会ってからずっと泣いているじゃないか。


「あ゛あ゛~!助かった~!」


 また別の理由で泣き始めたっぽい。


 もうどうしたらいいか分からないのでファングボアに向き直る。


 あの泣き顔は安心した泣き顔だから、セーフ。


 目の前にはソーエンが撃ち抜いた巨大な顔が鎮座していた。


「改めて見るとホントにでかいな」


 ゲーム時代にも多くの巨大な敵と戦ってきた。でも、生で見る迫力はゲームとは比べ物にならない。


「これどーするよ」

「換金だ。金が欲しい」

「だよなぁ。でもどうやって持って帰るよ」

「ボックスに入れてもいいが、出すときに見られるのは避けたい」


 そう、この世界の人たちは皆荷物を手に持っていた。


 アイテムボックスみたいなものは無い、もしくはそうそう手に入れられない代物なんだろう。だから、不用意に晒すことはトラブルの元になりそうだから避けることにした。


「しょーがない。担いでいくか」

「出来なくは無いだろうが、どこをどう持つつもりだ」

「確かになぁ」


 この巨体を二人でバランスよく担ぎ上げるのは厳しいものがある。


 オレはフォングボアの全体を見てからどう運ぶかを考えようと思い移動しようとする。


「あの…」


 ゴスロリに呼ばれて足が止まる。


 今の位置的にソーエンが撃ち抜いた穴の前だから止まりたくは無かった。結構来るものがあるので目を背けておこう。


 止まったオレに向かってゴスロリは近づいてくる。しまった…オレがゴスロリの方に行けばよかった。


 ゴスロリはようやく泣き止んだらしく、落ち着いた顔をしていた。


「私はシアスタと言います。助けてくれてあり」

「蹴って飛ばすか」


 お礼の言葉を言おうとしているのを遮る声が聞こえてきた。


 ソーエンは唐突にファングボアの鼻を蹴り、凄い音がした。


「結構力を入れたつもりだったが。無理か」


 考えた方法が無駄に終わり、やれやれとソーエンはつぶやいていた。


「おいバカヤロウ」


 そんな気取っているソーエンを見たオレには今怒りしかない。


「貶すな。だめもとで手段を一つ試したまでだ……どうした、イメチェンでもしたのか」


 ソーエンは今までファングボアに向けていた目をこちらにむけて、ようやく何があったか気づく。


 ソーエンの蹴った衝撃でファングボアの傷口から血が放たれた。巨体なだけあって血の量もすさまじい。そしてオレと、ゴスロリ改めシアスタはその前に立っていた。


 だから、その血をモロに被った。……マジでふざけんなよッ!!


「何してくれてんだお前!! 見ろ、オレの緑と白の美しいコントラストが赤一色になっちまったじゃねぇか!! 白ゴス少女も今は赤ゴス少女に早変わりだ!!あとな、飛ばすなら顔じゃなくてケツを蹴れぇ!!方向が逆だこのバカ!!」


 鼻蹴ったら町とは逆のほうに飛ぶだろこのバカが!!


「おい。その赤ゴス少女なんだが、何か吐いてるぞ」

「は?」

「えれえれえれえれ」


 ソーエンへの怒りが収まらないままオレはシアスタの方を見ると、たしかに何かを吐いていた。なんだろうゲロじゃないな。


「真っ白い……雪?」


 白い雪が血溜まりの中に積もって山を作っていた。


「これが本当の紅白豚合戦だな」

「イノシシだよ……お後がよろしくないよ……」


 その直後、シアスタはキュウッと声を出し気絶した。なぜ雪を吐くのか聞きたいところだったけど、無理に起こすのは可愛そうだ。一人で戦っていたから疲れているだろうし、寝せておいてやろう。


 シアスタを血溜まりから移動させ、木陰に寝かせる。


 <獣の香>の効果が切れたのか、血を被ったからかは分からないけど、もう森の獣は寄ってこなかった。流石にアレだけ激しい攻防を繰り広げれば<獣の香>があっても寄っては来ないだろう。

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