第8話 一難去ってまた一難

 ソーエンの穴埋め作業が終わって最初に思ったことがある。


「小さな山が出来た」

「ああ」


 壁を崩して埋めたがいいけど、踏み固めていないせいで土がこんもりしている。


 だからと言って、今から踏み固めるのも手間だし何より帰りが遅くなる。まだ空は青いけど、もう少ししたら夕方になってしまうだろう。


 目的のファングボアもまだ討伐していなし、時間に余裕を持っておきたい。


「ここには山があった。はい復唱」

「ここには山があった」


 ソーエンも思う所があるのか、ここは見逃すという判断をお互い言葉にせず決定した。


「気持ちを切り替えてファングボアを探そう」

「気持ちを切り替えてファングボアを探そう」

「ここは復唱しなくていいぞソーエン」


 ファングホア、ようはイノシシだ。獣に違いない。


「ということでこれを使おう」


 アイテムボックスから目的のアイテムを探して取り出してソーエンに見せる。


「<獣の香>か。よくそんなゴミアイテムを持っていたな」

「前にPKしてきた奴から盗んだ戦利品だ」


 <獣の香>は獣系エネミーを引き寄せる効果を持つ。でも、獣系エネミーは一律して経験値がまずく、このアイテムを使ってレべリングをするよりも、効率の良いクエストを回すほうが断然良い。


 はっきり言って使い道の無いゴミアイテムだけど、レア度はそこそこ高い。これを初心者パーティのそばに置いてPKする手法が一時期PKプレイヤーの間で流行っていた。


「この広場で使うつもりか」

「いやーそれはあからさま過ぎるだろ。獣はお前ほどバカじゃない」

「俺はお前ほどバカではない」

「獣が一番頭いいことになっちまうじゃねぇか。オレ達を舐めんなよ獣」

「あぁ、俺達の格を上げに行こう」


 待ってろよファングボア、誰が一番か思い知らせてくれるわ。一匹でも多く討伐してやるからな、覚悟しとけ。


 オレ達は勇みながら森の奥深くへ入っていく。




 * * *




 結論から言うと、めっちゃ狩れた。20頭くらい。


 手順としては、まず、森の適当な場所に<獣の香>を置いて火をつけ、木の上に待機した。


 待機位置は香を挟んで対照になるようにし、死角をなるべく減らす。


 香に釣られてやって来たファングボアを魔法銃で撃つかスローイングナイフを投げて一撃必殺し、<隠密>を発動してオレが死体を回収し、またすぐに木に登って待機するという戦法が上手くはまった結果、めっちゃ多く狩れた。


 魔法銃は実弾を撃つ訳じゃ無いから、大きな発砲音は出ない。そのおかげで、射撃音がそこまで周囲の生き物を萎縮させない。そしてソーエンの腕もあって百発百中だから安定して狩れる。


 <隠密>は使用者の存在を限りなく薄くし、他の者から気付かれにくくするスキルだ。


 発動後は解除するまでMPを消費し続けるけどそこまで消費は多くない。でも、今はほとんどすっからかん状態からの自然回復によって僅かなMPしかないから、要所要所で使用してはすぐ解除するという使い方をして、MPを節約しながら上手く回してる。


 <獣の香>には、ファングボア以外も近づいてくることが多々あったけど、ファングボアが来ると一目散に逃げていく姿が確認できた。あいつって意外と強いのか?


 十分に狩れたので、パーティチャットを使いソーエンに作戦終了を伝える。


 「了解」とだけ帰ってきた返事を聞きながら木を下りて、ソーエンと合流をするために移動する。


 合流の途中に獣の香を回収して、アイテムボックスに戻すことを忘れない。


 思ったより煙が濃いな、煙い煙い。少し咳き込みそうになる。


「そろそろ日が沈みそうだし、さっさと帰ろうぜ」


 作戦を開始したときよりも空が赤に染まっている。


 日が落ち始めた空と森の木々が相まって、辺りは段々と闇に染まり始めていた。そろそろ引き上げ時だ。


 夜の森は歩き辛そうだから、視界が確保できているうちに森から出たかった。


「ああ、収穫も大量にあったしな。これ以上は狩りすぎになるだろう」

「格付けも完了したしな」

「ああ、俺達は獣以上に頭が良い」


 程よい満足感と大量のファングボアを得てオレ達は帰路へ就こうとする。


 もうこの森でやる事は終わった。初めての探索、これに完・了。


 いやー、何も問題無く……問題はあったけど、隠蔽したから実質問題無い。


 いやー、実質何の問題も無く終わってよかったわぁ。


 オレは心で言い訳しながら言いなおし、異世界初の探索が無事に終わったことをかみ締めながら帰路へ付こうとした。


 そのとき。


「ブオォォォォォォオオオオオオ!!」


 地鳴りのような、雄たけびのような音が森にこだまする。


「もー、今度はなんだよ」


 平和に終わって帰ろうって時に邪魔をされ、オレは疲れた感を出しながら息を吐くように言葉を出す。


 厄介ごとなんて、ソーエンのやらかしたことでもうお腹一杯だよ。これ以上何か起こるのは勘弁してくれよ。


「無視するか」


 ソーエンも同じ気持ちなようで、出来れば無視したいという意思をオレに訴えながらこちらを見る。


「さすがにそれは出来無いだろ……。<生命探知>」


 <生命探知>は周囲の障害物を透かしてソナーのように魂をスキャンし、位置の特定が出来るスキル。でも、逆に相手にもスキャンされたことが分かるから警戒レベルは上がるし、叛徒が居るぞって知らせることにもなる。


 今は城やクラン、ダンジョンに潜入する訳じゃなくて、ただ大きな音を出した主を探すだけだから遠慮なく使える。


「見つけた、オレからみて2時の方向。1人と…何か凄いでかいの一匹。すまんが距離は分からん」


 ゲームの頃とは違ってMAPを併用できないので、大きさと大体の方向しかわからない。でも、<生命感知>を使ったのは正解だったようだ。誰かが何かに襲われている。


「方向さえ分かればいい。それででかいのとはなんだ」

「すまんがそれも分からん、とにかく行こう!!」


 オレ達は発見した方向へ駆け出す。少しでも早く駆けつけられるように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る