第5話 ギルド登録は難しい

 この都市は広く、大きく分けて北区、南区、東区、西区、中央区の5つに分かれている。と、おっさんは言っていた。便宜上分けてはいるが、四方の区は多少違いはあれどもどこも似たような町並みらしい。


 中央区は代表の家兼公務員の仕事場の塔と、この町の主要機関が集まっているところだとか。


 衛兵の詰め所は北、南、中央区の3つに存在していて、オレ達が捕まっていたのは南区の詰め所だった。


 冒険者組合は東区にあると教えてもらえたから、詰め所の入り口でおっさんに見送ってもらった後は町をブラブラしながらのらちくらりと向かっている。


 この世界の時間は分からないけど、屋台の人たちが一仕事終えた顔をしながら仕込みを始めているから、頃合としては恐らく昼過ぎくらいだろう。


 通りに面している場所はどこもかしこも店舗や露店、屋台が並び活気にあふれている。目を動かすと角が生えている大男や獣耳が生えてる者などがいて、話の通り人間だけの町ではないようだ。多種多様に合わせるためか主要な道は広くなっている。オレとソーエンの身長は180センチちょい位あるのに、それでも見上げてしまいそうなくらい大きい人もいた。


「これをくれ」

「へい!!一本銅貨3枚だよ!!」


 緑色で一つ目の男性からソーエンはフランクフルトらしきものを受け取る。何の肉とか、どんな名前の食い物なのかとかは考えないことにしている。


 オレとソーエンは長時間の拘束で腹が減っていたから、さっきから適当な屋台を選んでは買い食いを繰り返していた。そのせいで歩みは遅い。


 材料や名称を考えても仕方ないので思考は放棄しておく。腹に入れば何でもいいから、細かいことは考えない。


「大将、オレも一本頂戴」

「あいよちょい待ち!!」


 オレは大将から、謎の肉の串焼き「名称不明」を受け取って支払いをし、食べながら屋台を離れる。


「やっぱ肉はうめーな、何の肉かは知らんけど。あっ!!」


 ジューシーな肉の味を堪能している最中に、手から子気味良い音がしたと思ったら…やっぱり串が折れてた。


「チッ、またか」


 ソーエンも続けて子気味良い音を鳴らし、串を折ってしまう。


「この世界の木は脆いものばかりだな」


 ソーエンは苛立ちの目を串に向けながらぼやいていた。


 さっきからずっとこうだ。


 スープを飲んだ屋台では、飲み終わったら器とスプーンは返却してくれと言われていたのに、木のスプーンを折っちゃった。


 店の人は、古くなっていたから弁償はしなくていいよと言ってくれたからセーフ。でも、やっぱお店の人ごめんなさい。


 返却しなくても言い串焼きはと言うと、こっちも例外なくすべて折ってしまっている。


「しっかし、飯で金貨2枚分くらい使っちまうとはなぁ」


 銀貨一枚で普通の生活をしていれば1週間は過ごせる額らしい。この世界の物価や普通の生活は分からんけど、それでも1週間分を1時間足らずで使い切ってしまうのは贅沢なことだっては理解してる。


「俺もそれくらいは使ったな。腹が減っているとはいえ、これほど食に金を使うとは」


 オレもソーエンもリアルの頃より沢山食べている。


 どうやらこの身体は現実の身体とは違い、とても燃費の悪い肉体らしい。


「ゴミはどうするよ」

「ボックスにでも仕舞っておくか」


 牢屋の中で、煙草の吸殻をどうするか話していた時に気がついたんだけど、ソウルコンバーションテールに存在しないアイテムもアイテムボックスに問題無く仕舞えた。


 だから今はゴミ箱代わりに使っている。


 あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら買い食いに買い食いを重ねてゆっくりゆっくり大通りを進むこと一時間くらい。


「ようやく冒険者組合らしい建物に着いたなぁ……うわぁーお」


 とある建物を見て、オレは思わず声を上げる。


 おっさんは冒険者組合なら行けば分かると言っていた。


 そんなわけあるかと思ったけど、それでもあのおっさんの言うことだからと一応信じて、もし分からなければ通行人に聞こうと思っていた。


 でも。


「本当に行けば分かるとは思わなかったわ…」


 似たような町並みの中に一際でかい建物があった。3階建てくらいかな?


 そこまではいい。ここまでならただ大きな建物ってだけだ。


 …………この牙何?建物正面から二本、ドデカイ牙生えてんだけど…?


 明らかに、元の世界ではありえないもの主張してくるから、嫌でも眼に入ってしまう。


「何か入りたくなくなってきたわ……ぶっちゃけこえーよ。何考えて建物から牙生やしたんだよ」


 もうこれを見ると、凶暴なイメージしかない。建物にも、こんな建物を仕事場所にしている冒険者にも。


「背に腹は代えられない。行くぞ」

「めっちゃ入りたくねぇ…喧嘩とかになったらめんどい…」

「返り討ちにすればいいだけだ」


 そう言って、ソーエンが入り口の扉を押して堂々と入って行くから、オレも仕方なくついていく。


 建物の見た目通り中は広く、手前に多くのテーブルや椅子、奥にカウンターでそのまた奥は事務を行う机があり、左の壁には無数の張り紙がしてある。


 広い空間の割りに人はちらほらとしか居らず、落ち着いた雰囲気が漂っている。絡まれたり問題を起こす心配があったけど、杞憂に終わったのは良いことだ。


 オレは登録の仕方を聞くために、広いカウンターにいる3人いるうちの、一番優しそうで綺麗なお姉さんが座るカウンターへと進む。他意は無い。真ん中だったから一番近かっただけだ。


「すんません。冒険者の登録をしたいんですけどー」

「はい、ご登録ですね。お二人共ですか?」


 受付さんはぱっと見怪しいオレ達を笑顔のまま対応してくれる。


 冒険者って言うくらいだし、こんな格好した人にも慣れているのかな?


「そうそう、オレ達二人まとめて登録希望」

「分かりました。少々お待ちください」


 お姉さんは落ち着いた雰囲気で、後ろの事務スペースから書類を取るために立ち上がる。


 後ろ姿を見て気づいたが、綺麗なブロンドの髪が後ろで折り返して束ねられていた。


「初めて生の金髪見たわ。綺麗過ぎて髪で光魔法打てそう」

「腹の中は闇魔法かも知れないがな」

「失礼すぎんだろ…」


 ソーエンの女嫌いはこの世界でも健在か。


「お待たせしました。文字は書けますか?」


 受付さんが奥の事務氏ペースから、紙と羽ペンを持って戻って来た。


 文字を書く、かぁ。どうなんでしょ。自分達でも分からない。


 言葉も文字もソウルコンバーションテールの自動翻訳機能が働いてくれている。この機能は、全世界で幅広く遊ばれる理由の一つを担っているくらいのとんでも機能で、技術は秘匿されているらしい。世界を超えても機能するとは開発も思っていなかっただろうな。


 文字は日本語に変換されて問題無く読めるけど、書くのは日本語でしか行えない。


 言葉ではなく、文字での日本語が通じるかどうか、ここで試しに書いてみるか。


「書けるけど、少し言語が違うかもしれない」

「同じく」

「大丈夫ですよ。この都市は様々な方がいらっしゃるので、我々受付は語学が堪能な者が担当しております。どうぞ、ペンと登録用紙です」

「ありがとう」


 カウンターに紙が置かれ、ペンを手渡される。紙の手触りはザラザラとしていて肌触りが粗い。


 ペンは羽ペンで紙の横に置かれたインクに付けて書くようだ。


 まずは名前を書くか。


 羽ペンにインクを付けて紙へと手を運ぶ。


 さぁ、翻訳機能よ。どうか翻訳してくれよ。


「えぇ…」


 オレの手元から子気味良い音が響く。

 名前を書こうと思い、力を込めてペン先を紙に置くと同時に折ってしまった。


 串といいペンと言い、簡単に折っちゃうけど……これってこの世界のものが脆いってより、他の原因がオレ達にあるような気がしてならない。


「緊張しているのか。どれ、手本を見せてやろう」


 オレがペンを折って困惑している様子を見て、ソーエンは偉そうにペンを取り、そして。


 パキッっと。


「チッ」


 ソーエンもオレと同じく、名前を書こうとして折ってしまう。


「あらあら、申し訳ございません。もしかしたら古くなっていたのかも、ちょうど新品がありますのでそちらを持って来ますね」


 焦った笑顔で、受付さんはまた奥の事務スペースにペンを取り入った。


 ホント、ごめんなさい…。


「…オレさぁ、うすうす思ってたんだけど」


 このペンを折る前から思っていたことがある。


「なんだ」

「これ、オレ達の筋力のせいじゃね?」


 そう、オレ達の肉体は今ゲームのときのもの。そしてレベルは、今回の最新アップデートで上がった上限の350には達してないものの、オレは320でソーエンは321だ。職業的には筋力が高いわけじゃないけど、これだけレベルが高かったら、それなりに筋力は上がっている。


 さっきから物を壊す原因になっているのは、もしかしたら強すぎる筋力のせいなのかもしれない。


「力を抜くことを覚えなきゃまずいなこりゃ。今後の生活に支障がでるかもしれない」

「次は全力で力を抜く」

「全力でするな、無力に行け」


「お待たせしました。新しいペンをどうぞ。今度は新品のペンですのでご安心ください」


 戻って来た受付さんが、代わりのペンをオレたちの前に差し出す。


 新品、新品かぁ……迂闊に壊せねぇ……。


「新品だってよ。分かってるよな?」

「ああ」


 オレ達は顔を合わせて頷き、ゆっくりとした所作でペンを受け取る。


「?」


 受付さんの顔はにこやかながらも疑問も浮かべているがそんなこと気にしていられない。


 今オレは余裕が無いんだ。向き合うべきはペンであり、他に気を散らせてはいけない。


「まずは……オレから行くぞっ」

「焦らず、落ち着いて行け」


 先程と同じような所作で、それでいて脱力しながらペンにインクを付ける。


「そうだ。いいぞ、そのままだ、やればできる、お前は天才だ」


 ありがとうソーエンお前の応援でオレは羽ばたいていけるよ。

 感謝は、言葉ではなく心で行う。言葉を出している余裕は無い。


 イキョウのイを書くために紙にペン先を置く。


「よし、今お前の手は羽だ。羽ばたかせるんだ、優しく空気を撫でるように」


 だんだん何言われているのか分からなくなってきたけど、応援の気持ちは伝わってくる。

 分かった。オレ羽ばたくよ、ソーエン。羽ばたくとこ見てて。


 応援の気持ちを胸に抱いて、イの一画目を書き始めた瞬間


「布団が吹っ飛んだ」


 ソーエンは駄洒落をぶっこきやがった。


「ップフ」


 そして笑ったオレの手には不可抗力で力が入ってしまう。

 そのせいで無常にも折れてしまう羽ペン。


「お前……マジでふざけんなよ。緊張しているときにそれはずるいだろ!!」

「すまん。どうしてもちょっかいを出したくなってしまった」


 ソーエンはやりきった感を出しながら言う。


「あぁ…新品が…」

「見ろよお前!!受付さん笑顔で泣きそうになってんぞ!!」

「それは申し訳ないことをした。俺がお前の汚名を返上しよう」

「自分で汚しといて綺麗にしてやるとか何から目線だクソ野郎!!」


 しかもお前が申し訳無いとか殊勝な心持ってる訳ねぇだろ!!


「まぁ任せておけ」


 偉そうな事をのたまいながら、今度はソーエンがペンにインクを付ける。


「邪魔するなよ」


 オレを睨み付けてくるソーエンの眼は真剣そのものだ。その視線だけで人を射殺していまいそうなほどに。


「不服だけどな」


 オレの返事を聞いてから、ソーエンは視線を戻してペン先を紙につける。


 どれ仕掛けるか。


「力を抜き杉謙信」

「フッ」


 ベキッ


「…ふぅ」


 ソーエンは折れたペンを見つめてため息をついた後、こちらに視線を向けて何か言いたそうにしている。


 さすが親友。絶対に反応すると思ったぜ、ざまぁみろ。


「おいバカ、邪魔しないと言ったはずだろう」

「言ってませーん、不服だけどなとしか言ってませーん。そっちの勘違いですぅー」


 全身で馬鹿にしたポーズをとり、ソーエンを煽り散らかす。

 先にやってきたのはそっちなんだから、やり返すに決まってんだろ。


「喧嘩か」

「上等だ!!表出やがれ!!」


 オレ達が闘争心を燃やし熱く燃え上がる。もう誰にも止めることは出来ない。たとえこのアステルが火に包まれようがオレ達の争いを止める事は不可能だかんな!!

 表に出るためにオレとソーエンが入り口に身体を向け歩き出そうとした、そのとき。


「弁償してください」


 その冷たく激しくしかし静かな声に、オレ達の歩みは止められた


「記入は私が代筆するので、べ・ん・しょ・う・してください」


 恐る恐るカウンターに身体を向き直して、受付さんの顔を見る。


 ……怒っていた。笑顔ではある。しかし笑ったままの眼は怒りを向けながらこちらを見ていた。


 怖い。この人何か圧が凄い。


「ソーエン、一時休戦だ。喧嘩は中止、やるべき事をやるぞ」

「……ふぅ、やれやれだ」


 受付さんの顔を見たオレ達に出来る事は唯一つ。


「「ごめんなさい(すまん)」」


 腰を90度に曲げてお辞儀をしながらの謝罪だけだった。


 この件は全面的にオレ達が悪い。そんなオレ達には謝罪しか残された選択肢は無かった。

 ほんとマジすんませんでした。


 そして弁償として提示された金貨一枚を、謝りながら渡した。


 弁償すれば許されると思ってたわけじゃないけど、金貨渡してもやっぱり受付さんの怒りは消えていないようで、笑顔が怖い。


 代筆をこちらからもお願いして、名前や年齢など、さっきおっさんから受けたような質問をいくつか受け答えをした。


 その最中も言葉や態度はものすごく丁寧だが雰囲気が冷たく、まるで尋問を受けているよ気分になった。


「レベルはおいくつですか?」


 こっちの世界でもレベルってあるのか。でも基準が分からないから、正直に答えて大騒ぎされると仲間捜しに支障がでそうだし……。


 でも、大騒ぎしてもらって仲間に情報が届くようにしたほうがいいのか?


 んー、でも、逆に低すぎる可能性も捨てきれない。


 どうしよう。規準が分からないまま、自分のレベルを公開するのは危なくないか?


 でもなぁ、だからと言って隠すと、それはそれで怪しまれそうだし……。


 とりあえず正直に答えてみるか。


「320」


「ふざけないでください」


 微の笑顔で一蹴される。


 少し顔が強張ってる気がする。もしかしてまた怒らせたのか…?


 冗談じゃないんです受付さん。だからもう怒らないでください。


「冒険者になりたくてレベルを高く見せようとするのは分かりますが、嘘をついて苦労するのはあなた達なんですよ?そもそもそんな高すぎるレベル、現実的に考えてありえません。嘘を付くのならもう少しマシな嘘を付いてください」


 そしてその顔のまま受付さんは話を続ける。


 どうやら適当なことを言っていると思われたらしく、軽く注意を受けた。


「こちらで計るので手を置いてください」


 受付さんはカウンターの下から水晶を取り出してオレ達の前に置いた。


 へー、異世界は水晶でレベル測るのか。ハイテクだなぁ。


 カウンターの上に置かれた水晶は透明で、中心にぼやけた光が揺らめいている。


 これで正確な数値を測れるのなら、さっきの320を嘘ではないと証明できるし、さっさと手を置いて証明させてもらおう。


 どうやって表示されるのか気になりながら触ってみると、中の光が変化し何かを形作る。


 そこには……歪んだ20が表示されていた。


 ……なんで?


「レベル20ですね。その年で20は普通なんですから、嘘を付く必要なんてありませんよ」


 受付さんは嗜めるように優しく言ってくれる。


 オレ達の22歳という年だったら、これくらいが普通なのか。


 ……おい、正しく表示してくれないぞこのポンコツ水晶。


 数字もなんか歪んでるし、もしかして壊れてるんじゃないか?


 …でも、待てよ?。オレ達のゲームにおけるレベル320は、こっちの世界ではレベル20に相当するのか?


 そしたらなんて恐ろしい世界なんだ。


「やべーぞ…ソーエン」


 オレは自分が立てた仮説に打ち震えそうになる。


 オレ達はとんでもなくハードな世界に来た可能性が…。


「なにがだ」


 そういってソーエンが水晶に手を置くと、中の光は21に変化した。


「はい。21ですね」


 …ん?なんか仮説に引っかかるものがあるな。


 そしてオレは別な仮説が、うっすらと頭に浮かび上がってきた。


「ちなみにこの水晶っていくつまで表示されるの?」


 オレは仮説を定説にするべく受付さんに質問をする。


「そうですね…。研究によると、元となったアーティファクトは310まで計れるらしいのですが、こちらの量産品300はまでだったと思います」


 320…300…20…321…300…21…。一周して戻ってきてるじゃねぇか。


 やっぱりポンコツ水晶で間違いはなかったじゃん!!

 せめて300で表示してくれよ。ってか、そのアーティファクトの方で測ってたらもっとレベルが下がってたじゃん!!


「ソーエン、オレ達これでいいのか?」

「不服だ。だが、俺達が弱くなったわけではない。心底不服だがな」


 ソーエンはマジで不服そうな声を出している。

 オレだって不服だよ。出来ることならちゃんとレベルを証明したい。


 受付さんには異を唱えたかったけど…これ以上機嫌を損ねるのはなぁ。不採用になりそうだし我慢しよう。


 ソーエンも同じ考えだから受付さんに反論してないし。


 仲間を捜しながら生きていく上で、これほど好条件の仕事はないので、受付さんの機嫌を損なってはいけない。


 現状、オレ達は下で、受付さんは上なんだ。大人しく言うことを聞こう。


「クラスはどうしますか?」

「クラス?」

「はい。ギルドが決めた陣形での立ち位置みたいなもので、自分の戦闘スタイルに合ったものを選択していただきます。周りへの紹介みたいなもので、パーティ募集のときとかに便利ですよ」


 頭を切り替えて、絶対採用して貰えるように話をちゃんと聞く。


 クラスってのは、説明的にこっちの世界の職業的なものか?


「何がある」


 ソーエンが受付さんに質問をした。


 そのソーエンの質問を受けて、受付さんはクラスについて丁寧に説明してくれた。



 アタッカー:名前通り、敵を攻撃する役割。前衛アタッカー、中衛アタッカー、後衛アタッカーと三種類の内どれかを選ぶ。


 タンク:敵をひきつけたり、中衛、後衛を守ったりするパーティの壁役。


 レンジャー:索敵や罠解除など、パーティのリスクを減らす役割。


 サポーター:回復や支援魔法などパーティの支援を行う役割。


 と計6種の中から選ぶ。自分のスタイルと違う役割を選ぶと、クエスト中のトラブルの元になるらしく、正しく選んでとのこと。



「だったら…オレはレンジャーかな」

「はい、レンジャーですね」


 叛徒は攻撃役っていうより、嫌がらせの方面に明るいし。


「俺は中衛アタッカーだ」

「中衛ですね」


 ソーエンのビルドならそれ以外無いだろうな。


 受付さんがオレ達の言ったことを紙に書いてくれる。


 登録書の代筆が終わると、最後に細かい注意事項と等級についての説明が始まった。


 等級は一番下の6等級から始まり、1等級が最高だそうだ。一応ギルドが定めた規定の中に、例外的措置として0等級が存在するらしいが、今のところその例外は現れたことが無いらしい。


「そしてこちらが6等級のプレートです」


 えっ、いつの間にかオレ達のプレートが作られてんだけど…。


 ずっとオレ達の前にいたよな?作っている様子なんて無かったぞ。


 金属で出来たプレートには紐が通されており、滞在証と同じで首から下げておく物らしい。プレートには名前とクラスが彫られていた。


「プレートの素材はそれぞれ違っていて、6等級は鉄、5等級は青銅、4等級は黄銅、3等級は銅、2等級は銀、1等級は金となっております。自分の等級以下のクエストはどれでも受けられますが、上はダメです。これで説明は以上になります。何か質問はありますか?」


 質問か、気になることといえば。


「ギルドはいつもこんなに人が少ないの?」

「お昼時はいつもこんな感じですよ。ですが、クエストの受付が始まる朝と完了報告の夕方の時間はすごく込んでいるんです。今カウンターには受付が3人しかいませんが、忙しい時間は8人で対応していますよ」

「なるほどなぁ。広いカウンターがスカスカな訳はそういうことだったのか」


 ギルドに入ったときから少し気になっていたことが解決した。


「クエストの受付は夕方までしか行っていませんが、完了報告は朝でも夜でも、いつでも対応していますのでご安心を。他に何かありますか?」


 他にか…パッと思いつくこととすれば。


「魔王とかっていたりするの?」

「御伽噺の存在ですよ。まだふざけますか?」


 受付さんの圧がまた強くなった。


 どうやらこの世界にはファンタジーの王道である魔王はいないようだ。てっきりオレ達は勇者的な立ち位置になるべく召喚されたと思ったが違ったらしい。いよいよなんで転移したか分からなくなってきた。


 でも今はそんなことより…。

 謝罪をしなければ。


「ごめんなさいすみません反省してます。他の質問浮かんだらその都度聞くことにしますので何卒よろしくおねがいします」

「…わかりました。ではクエストはあちらの壁に貼ってあるのでお好きなのを選んで、カウンターに持ってきてください」


 受付さんはそう言いながらクエスト貼り出しの壁を手で指す。

 まだ若干怒っているようだ。だって顔に圧を感じる。


 オレとソーエンは一言お礼を言って、逃げるようにクエスト貼り出しの壁へと向う。


 貼り出しの壁はよく見ると、取り付けられた大きなコルクボードに紙がピンで留められていた。


 コルクボードの縁が隠れてしまうくらいにびっしりと貼ってある。遠目からでは石造りの壁にそのまま貼ってあるようにしか見えないほど、本当にびっしりと。


 クエストはカウンター側は6等級のものが多く、入り口に近くなるに連れて上がっている。


 オレ達は6等級のクエストが貼ってある場所の前に立ち、どれにするか決めるための話し合いを始めた。


「薬草採取とか簡単そうじゃない?」

「どの草が薬草かなんて見ただけでは分からん。却下」

「安全な街道の馬車の護衛」

「護衛の知識は無い。そもそも安全と言っているのに護衛の必要はないだろう。却下」

「都市の外壁の補修員募集」

「むしろ壁を破壊してしまいそうだ。却下」


 その後何度かオレが提案をし、ソーエンが却下する応酬を繰り返す。しばらくしてその応酬が止まるクエストが見つかった。


「ファングボアの討伐? 自動翻訳機能でファングボアって見えるってことは、牙の生えたイノシシって事か?」

「もしそうなら安直な変換だな。そもそもイノシシは牙があるだろう」

「それもそうだけど…異世界だしなぁ。このまま話し合ってても埒が明かないし、これにしようぜ。報酬も美味いし」


 1頭につき銀貨五枚と書いてあり、報酬に銅貨が並ぶ6等級のクエストの中じゃ異様な感じがする。でも今のオレ達は金が無い。本格的に金欠という訳ではないけど、現状ではあまりに心もとない。


 だったらこれを受けるしかないだろう。


 ってことで、美味い報酬のファングボア討伐の紙を剥がしてさっきの受付さんの下まで持っていく。


「これでお願いします」


 なるべく怒らせないように、丁寧に受付さんに渡す。


「分かりました、こちらのクエストは…あっ」


 オレから紙を受け取り、眼を通した受付さんが変な反応をした。それでも笑顔は崩れないあたり、この人はプロだ。プロの受付だ。


「どうした」


 受付さんの様子を見かねたのかソーエンが質問をする。


「それがですね…ファングボアって足が速くて小回りも利くから討伐し辛いんです。それに獰猛なので、正直6等級の討伐クエストとしては荷が重いんですよ。あと、討伐証だけではダメで丸ごと一頭持ってくる必要があるので……運搬にかかる時間や手間、そしてクエスト自体の失敗などを考慮すると報酬の効率がとても悪いんです」


 こちらがファングボアです、と受付さんがカウンターの下から本を取り出し、その中に書かれているイノシシの絵を見せてくれる。


 マジで牙の生えたイノシシじゃん…。毛が荒々しいのとご立派な牙が生えたイノシシだよ。


「オレ達なら大丈夫だろ」

「そうだな」


 なんでそんなクエストが6等級に設定されているのかは分からんけど、オレ達二人ならそれくらいどうにでもなる。


「自信がお有りのようですが、決して無理はしないでくださいね。生きて帰ることが冒険者の最優先事項ですから」


 受付さんからありがたい教訓を受け取る。


 クエスト自体は、ファングボアさえ持ってきてくれれば誰でも換金しているそうで、いちいち受注する必要は無いとのことだ。


 これって、誰でも受けていいですよってクエストだったのか。


「それと、あなた達と同じで本日登録した子が1人、同じ森にクエストで向かっているので、会えるといいですね」

「同期みたいなもんか。会ったら挨拶くらいはしとくか」

「そうだな」


 子って言ったし、子供かな? 一人で向かうとか随分勇気あるな。


 そんな事を考えながら、初クエストへ挑むためギルドの扉へ足を進める。


 そうだ、お世話になったし挨拶をして出よう。


 思い立ったら側実行だ。扉を開ける直前に足を止め、カウンターへ向きなおす。


「受付さーん!!いってきまーす!!」


 オレはギルドホールに響くくらいの大声を出して、ソーエンはお辞儀をして挨拶をする。


「はーい、いってらっしゃい」


 手を軽く振りながら答える受付さんからの返事を聞いて、オレ達はギルドを出た。

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