1話完結 表情のない情緒
『……。』
「あぁ、今日は泣いてるのね…可哀想に。」
私はねずみ色と少しの白が混ざった雲を見ながら、そう呟いた。
周りには私以外誰もいないし、見上げた空には鳥もいない。
空からは一本線の冷たい水がいくつもいくつも、私の傘を強く打ちつけ、その存在を主張するかのように激しく降ってくる。
人っ子一人いない空間で私は同情の言葉をただ空から落ちてくるものに向かって言う。
私は雨の声が聞こえるのだ。何を言ってるんだお前はと言いたくなるだろう。
これが分かったのは、14歳の頃。
雨の中、足を滑らせ転んだ際に、頭をぶつけてから
頭の中に、声が流れ込んでくるようになった。
最初は気のせいとも思ったし、その時は雨が降らない日が続いたこともあって、そんなに気にしてもいなかった。
でも、雨の日には必ずその声は聞こえる。
そして、驚いた事にしっかりとした喜怒哀楽があった。喜びや楽しい時は比較的小雨が、悲しみや怒りの時は比較的大雨になる。
周りから見たら電波ちゃんだろう。それは私にも分かる。私もそういう子とは関わりを避けるかもしれないし、昔から関わってくれた友達はいなかった。
周りが私を
今日も私はいつもの日常を過ごす。
登校して、授業を受けて、昼食に弁当を食べて、午後の授業を受けて、帰って、寝る。そんな日常を
と、思っていたけど、今日だけは違った。
『放課後に、校舎裏で待ってます。』
こんな手紙が私の机の中に入ってた。
雨林 澟…うん、私の名前だ。
これは間違い…ではなさそうかな。
差出人が不明だったので、少しの警戒と戸惑いはあったけれど、初めての事なので、自然と胸を高鳴らせた。
しかし、誰だろう?私と関わる人間なんていなかったし、縁のないものだった。
少し疑問に思いながら、ふと、窓から外を見上げると、小雨が降っていた。
『……!』
澟「あぁ、今は喜んでいる。」
まるで私を祝福してくれるかのように、雨から嬉しいという感情が声から感じられるのだ。
放課後
私はドキドキとした気持ちで、誰が呼んだのだろうと、校舎裏へ足を運んでいた。外は晴れていたから、鞄と一緒に教室に置いてきた。
校舎裏に着いたけれど、まだ誰もいなかった。
まぁ時間の指定もされてなかったし、自分が早すぎただけだろうと待つことにした。
その待ってる時間は、初めて味わうドキドキ感で胸がいっぱいだった。
告白されるかもしれないという想いが私の中を支配し、どう返事をしようと迷っていた。
迷っている内に、後ろから足音が聞こえてきた。
しかし、1人だけではなく複数人の足音が聞こえたのだ。
何かあるのかもしれない、そう思い反射的に隠れた。そして、覗いていると。
そこにいたのは、同じクラスの女子3人だった。
女子A「ちっ、まだ来てないのね、つまんなぁい。」
女子B「ほんと、待たせるとかまじぃ?」
女子C「わざわざ呼び出してあげたのに、ドッキリだって言えないじゃん!」
私は耳を疑った。まだ話していたが、あまりにも衝撃的すぎて、まともに聞けなかったし、手を力いっぱい握り、こんな残酷な事があっていいのかと、夢なのだと思いたかった、人の本心とは時に残酷な物に成り果てる。あれがその末路なのかと、思わずにはいられなかった。
やがて、クラスメイトの3人は業を煮やして帰っていったが、私はすぐに動くことが出来なかった。
私が呆然としてると、肩に冷たい何かが落ちる。
それはだんだんと強くなって、急に大きな音が鳴り響く。
『……。』
澟「あぁ、怒っている。」
雨の声が怒っている。私が悲しんだからかな?
私のために怒ってくれるのかな、そうだといいな。
次の日
in教室
先生が朝のホームルームでとても暗い表情をしながら、言った。
先生「…昨夜、A子、B子、C子が雷に打たれて亡くなったそうだ。とても残念な事だが、最近雨が多いから皆は気をつけるようにしてくれ。」
澟「!?」
私は驚いた、あの時、確かに雷は鳴っていたし、あの3人はその近くにもいたけど、偶然…なのかな?
それから数週間が経って、雨の日がずっと続いている。小雨がほとんどだけれど、大雨になることもあり、頻度に関してもその日によってまちまちだ。
学校帰りに、また声を聞いた。
『……!』
「いまは、楽しんでるのかな。」
何かいい事でもあったのだろうか。分からないけれど、楽しいなら良いかと、ほぼ何も考えなかった。
しばらく歩いていると、水溜まりの横を通過しようとした瞬間、車がその水溜まりを走り抜け、水が激しく飛び散り私にかかってしまう。
うわぁ、ついてないなぁ程度に考えていたのだが、
『……!?』
「ん?さっきまで楽しそうだったのに、急に怒り出した?」
その時、雷が鳴っていた。
幸い、家の近くまでもう来てたので、問題なく帰ることが出来た。
家に帰り、何気なくリビングでテレビを見ていると、雷に打たれた車が、燃えて、火事になったそうだ。問題の車の映像が流れると、私は驚いた。
澟「あれは、あの時の車!?」
意図的では無いにしろ、私に水をかけた車だったのだ。
『………!』
また声が聞こえた、今度は楽しそうな声だった。
私は謎が解けたとばかりに、窓を開け、空を見上げながら言った。
澟「私を守ってくれてたんだね。」
『……!』
ようやく気づいてくれたとばかりに、私の頭の中の声がとても嬉しそうなものになっている。
どうやら私は雨に愛されているらしい。
雨女というものではなくて、文字通り愛されているのだと、確信した。
そう確信した上で、雨に質問をした。
澟「ねえ、私の事好き?」
『……!!!』
それは好きという気持ちが溢れていた声だった。
一生守ってあげると、言われているような気がして、私は嬉しかった。
愛しいと思う感情が私の中に芽生えた。
表情は無いけれど、私によって感情が変わりやすい。
私を愛してくれるもの。
私も同じくらい愛してあげよう。
ほら、また声が聞こえてくる。
『…好きだよ。』
澟「私もだよ。」
今日も小雨が降っている。それが今はとても幸せな事だと、私は思うのだった……。
孤独な恋愛 怜 @lira02
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